第5話:エルフの森
明朝、オレ達は旅の準備を済ませてネイシアの元へ向かった。
「それじゃあネイシア、世話になった」
「またね! ネイシア」
「うん! またいつでも来てね!」
挨拶もそこそこにオレ達はアゲアゲ屋を後にした。都を出てリニスのホウキに乗り空を飛ぶ。
「次は聖地エルダートに行くんだよね?」
「ああ、けどそこへ行くにはエルフの森を通らないといけないんだ」
「エルフの森かぁ……どんな場所なんだろう」
「見たことは無いけど、噂じゃ凄く綺麗な森見たいだな」
「う~、何にしても楽しみだなぁ!」
ホウキに跨りながら、楽しそうに足をパタパタ動かす。
隣を飛ぶ鳥達も、そんなリニスに吊られたのか陽気に空を舞っている。彼らの鳴き声は遥か遠くまで響き渡り、一羽、また一羽と隣を飛ぶ鳥が増えていく。
「うわぁ〜〜! 鳥がいっぱい! どこへ行くのかな?」
「さあね。案外、同じ場所まで行ったりしてな」
「ふふふっ、大勢で旅をするのも楽しいかもね!」
ご機嫌なリニスは鼻歌を歌いながらホウキを操る。後ろでリニスに掴まりながら乗ってるオレとしては、結構揺れるから怖いのだが。
(水を差すのもなぁ)
まだ始めたばかりの旅だけど、リニスは本当に楽しんでいる。これから先も同じくらい楽しめるとも限らないとはいえ、やはり思う。
(旅に出て良かった)
そんな事を思っていると、いつのまにか鳥達は方々へと去っていき、やがて目的のエルフの森が見えてきた。
「あ! シオン、もしかしてアレかな? 雰囲気あるよ?」
「ん、そうだな。多分あれだろう」
「よーし! じゃあ降りるよ、しっかり掴まっててね!」
「あいよ」
リニスはホウキを斜め下に向けて森の方向へと下降していく。
やがて森の入り口に着陸すると、奥の方から何かを感じ取れる。
「これって、魔力?」
「…おそらく聖地エルダートには結界が張ってあるんだと思う。この森全体もそうだけど、其処彼処に魔力反応があるよ」
魔法使いたるリニスがそう言うのであれば、そうなのだろう。
エルフは基本慎重に行動する傾向にある。別に多種族と仲が悪いだとか、そう言ったことはなく、むしろ友好的な方が多い。
ただ魔力や気配にとても敏感な為か、無意識でそれらを察知してしまい、とても気苦労が絶えないのだとか。
故に住処には特に、こうして結界を張ることがエルフにとっての主流らしい。
「うーん、これって入っても平気なのかな? エルフに怒られたりしない?」
「どうかな、基本友好的な種族とはいえ、結界まで張ってある以上、無断で入るのもな…」
「んー…、よし! 怒られたらその時はその時だよ! とにかく入ってみよう!」
そう言ってズンズンと森の中へ進んでいくリニス。まあこうなるのは何となくわかってたよ、うん。
「行くのはいいけど、逸れるなよ。森の中で遭難とか、シャレにならないんだから」
「はーい! あ、じゃあ手をつないで行こ?」
「しょうがないなぁ」と呟きつつ、リニスの差し出す手を握る。
「えへへ」
「離すなよ。…それじゃ、行こうか」
「うん!」
オレ達は仲良く手を繋ぎながら、奥へと進んでいく。
「それにしても、噂通り…いや、それ以上に綺麗な森だな。森と言う割に、陽の光が差しやすいのか、木から生えてる葉っぱがキラキラしてるし」
「うんうん! それにほら、水もすごく綺麗だよ! …あ、動物も沢山いる! かわいいなぁ!」
アカシカやホワイトラビット、中には肉食のブラックベアもいるが、ここのブラックベアはとても穏やかに暮らしているようだ。
「みんなあまりコッチを気にしないんだね」
「それだけこの森が平穏な場所だって事だろうね」
とはいえ、あまり彼らを刺激したくもないので、ゆっくりと歩きながら聖地を目指す。
すると前方の草むらから、ガサッと音がした。
思わず刀を構えそうになるが、そこからは敵意や殺意といったものが感じられないことに気づき、そのまま待つことにする。リニスもそんなオレの意図を感じ取ったのか、特に警戒せずに前方を見ている。
するともう一度ガサッと音がした次の瞬間、中から人が出てきた。
「…っぷはぁー! やっと出られたぁ。あぁーシンドイ。もう何で私が見回りなんてしなきゃいけないのよ! 大体結界張ってあるんだからする必要なんて無いじゃな……いの?」
「こんにちは!」
「…あんた達、誰よ」
草むらから出てきた彼女は文句垂れている途中でオレ達の姿を視認すると、警戒しながら問いかけてきた。
「ワタシはリニス! こっちはシオン! よろしくね!」
「え、ええ。私はアリスよ。見ての通りエルフなの。よろしくね……じゃなくて!! あんた達なに勝手に人んちに入ってんのよ!?」
「え? ここってアリスの家なの?」
「私のっていうか、エルフのだけど!」
「やっぱ勝手に入るのは不味かったか?」
そう聞くとアリスはどこか言いにくそうにしながらも、今の聖地の状況を説明する。
「今エルダートはちょっと厄介な問題を抱えてて。村長にはそれが解決するまでは、あまり他者を森に近づけるなって言われてるのよ」
「厄介な問題って?」
アリスはオレ達に話してもいいものか迷ったが、やがて口を開いて教えてくれた。
「ある病が流行っているの。そのせいで他のエルフ達は衰弱していく一方で…」
「病っていうのは…」
「戦後から局所的に蔓延している、“
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