第4話:水の都クランベリ・湖の主Ⅱ

 北の孤島に参加者、観客全員が着陸すると、司会進行役の人が大声を上げて開催を宣言した。


 ちなみに大会のルールはこうだ。


 1.参加者は事前に配布された釣竿と餌のみを使用可能


 2.参加者は一斉に釣りを始め、先に主を釣り上げた組が勝利とする


 3.釣竿に掛かった組の妨害を禁止とする


 4.その他武器魔法等は主による身の危険を考慮して使用可とする



 …4の身の危険というのが気になる。そんな危ないヤツなの?主って。


「よーし! シオン、絶対釣り上げようね!」

「ああ、まあやるからには勝ちたいしな」


 やる気十分のオレ達は、釣竿を手に開始の合図を待つ。


 そして。


『では、始め!!!』


 合図と同時に竿を振るって餌を湖に投げ入れる。みんな気合十分とはいえ、そもそも釣りはジッと掛かるまで待つもの。大会が始まっても、辺りはシンとしていた。


「ジーーー」

「いや、口に出てるから」

「えへへ、けどやっぱりジッと待たないといけないんだね」

「まあ仕方ないさ。餌に魚が引っかかってくれるかは、魚次第なわけだし」


 そんな話をしながらも、オレ達はジッと水面を見つめる。すると別の参加者の方から声が上がった。


「お! キタキタキターー!!」

『おおっとここで初ヒットが出た! 湖の主がかかったかー!?』


 引っ掛けたおじさんの竿の曲がり具合を見ると結構な大物であることがわかる。


「も、もしかして本当に主なのかな!?」

「ど、どうだろう。結構竿曲がってるけど!?」


 会場がどうだどうだと盛り上がる。


「くぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 おじさんは必死に食らいつき、魚を逃すまいと竿を持ち上げようとする。


『釣れるか!? 主なのか!? どうなんだい!?』

「うぉぉぉぉぉぉいしょーーー!!」


 ザパーンッっと水飛沫がの音と共に、竿を持ち上げたおじさん。その餌には確かに魚が食いついているようだ。


『…これは…ああ!! 残念!! レッドフィッシュです!! 通常よりも肉質が良いですが、主ではありません!』


「「「「「あぁぁ!!」」」」」


「くっそー!」


 観客もおじさんも落胆の声を漏らす。ただそれでも楽しそうだ。


「あぁ、違ったんだー」

「それっぽい感じだったけどな」


 参加者は気を取り直して再び水面とにらめっこする。そしてその後も次々と魚が食いつくのだが、どれも主とは程遠い魚ばかりだった。


 そんなこんなで時間は過ぎていき、大会もそろそろ幕引きかと思われた時、その瞬間はやってきた。


「あれ? ねぇシオン、シオンの竿動いてない?」

「え? …あ、ほんとだ、かかったかな?」


 そう思いつつ魚を刺激しないようにそっと竿を手に掴む。


『おっとどうやらここでシオンさんにヒットしたみたいですね。さあ時間的にもこれがラストチャンス! 果たして主が現れるのでしょうか!?』


 進行役がそう言っている間にも、引きはどんどん強くなっていき……そして。


 グゥン!!! っと、とてつもない力で引っ張られたのだ。


「のあぁぁ!? ……っんのやろ!!」


 オレも負けじと竿を引っ張るとお互いの力が拮抗しているのか、中々持ち上げることが出来ないでいた。


「シオン頑張れ!!」

「負けんなよ兄ちゃん!!」

「がんばれー!!」


 みんなが声援を送ってくれる。これは負けるわけには行かないな。


 オレは力を入れたまま一度深呼吸をする。そして気合いを入れて一気に竿を持ち上げた。


「おおおおおっりゃーーーー!!!」


 ドッパーン!!! と水底から天高くそれは舞い上がる。これまで釣り上げたどの魚とも比べるべくもないそれは、さながら空を飛ぶ魚といったところだろうか。


『っここ、これは!? この大きさ!! 間違いなく、湖の主だーーーー…ぁぁぁああああ!!??』


「お、おいこれ! こっちに落ちてくるぞーー!!」

「に、逃げろーーー!!??」

「噂以上の大きさじゃねぇかーーー!!!」


 近くにいた参加者が驚くのも無理はない。何せ5メートル程と言われていたはずの主。その実態は10メートルはあろうかというほどの大きさなのだから。


「お、おいお二人さん!! 早く逃げろって!! 潰されちまうぞ!!」


 参加者の一人がオレ達にそう言うが、オレとリニスは冷静に見極めていた。


「ねぇ司会者さん、この主って倒しちゃってもいいの?」

『え? ええまあ、釣り上げたら皆さんで美味しくいただく予定ですので…って、え? 倒す?』

「そう、じゃあ遠慮なく」


 そう言ってオレは腰に差している黒刀の柄を右手で掴む。


「手貸そうか?」


 とリニスが聞いてくるが、オレはやんわりと断る。


「いや、大丈夫。すぐ終わるしね」


 やがて主は空中で体勢を整えたのか、落下地点のオレに狙いを定めながら落ちて…いや、突進してきた。


『あ、危ない!!』

「大丈夫ですよ。シオンは強いですから」


 心配する司会者さんにそう言ったリニスは、信頼しきった顔でオレを見ていた。


 まあリニスはオレの実力をよく知ってるからな。


 そうこうしているうちに、いよいよ主は目と鼻の先。オレは変わらず主を見据えて…。




 ワタシはジッとシオンを見ていた。彼が刀を使う姿を見るのは、実は割と久しぶりなのだ。


 シオンは右手で掴んだ刀を、ほんの少しだけ刃を鞘から出す。だが…。


 キンッ---と音がした。


 気づけばシオンはもう刀をしまっていた。


 側から見れば何もしていないようにしか見えないだろう。見ていた人全員が何をしてるんだといった表情をしている。


 しかし次の瞬間、湖の主の巨体はバラバラと細切れにされていた。


「「「「「……………」」」」」


 唖然としているみんなに、ワタシは得意げに言った。


「ふふん、だから言ったでしょ? 大丈夫って」


「「「「「え、えええぇぇぇぇ!!??」」」」」


 驚いた声に驚いたのか、シオンはビクッとしながらこちらを振り向いた。


 …シオン可愛い。




 それからはもうお祭り騒ぎだった。史上初の湖の主を釣り上げた男として、今日より伝説が語り継がれるだろう、とか。一瞬で主を仕留めたシオンをカッコいいと色んな女性が褒め称えたりってちょっとちょっと近いってば! シオンはワタシのだからね!


 そんなこんなで一日が過ぎていった。あ、ちなみに湖の主は本当にみんなで美味しく頂きました。とっても美味しかった。




 アゲアゲ屋に戻ってその時の事をネイシアにも話したら、超見たかったと羨ましがっていた。


 お風呂を済ませてベットに戻ると、シオンは疲れたのか既に眠っていた。


 ワタシは隣に寝転がってシオンの寝顔を見つめる。


「…ふふっ可愛いなぁ、ほんと」


 髪を撫でながらそう呟く。普段は凛々しい顔立ちではあるが、寝顔はとても可愛いのだ。


「今日はお疲れ様。明日もいい旅になるといいね」


 頬にキスをしてワタシも眠る。


 明日はクランベリを出発して次の目的地へ向かう。次の目的地はエルフの森の奥地にある、聖地エルダートだ。

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