第2話:水の都クランベリ
水の都クランベリ。そこは大きな湖、クラン湖に囲まれ、建造物は全て色華やかなレンガで出来ているため、とても綺麗な街並みとなっている。クラン湖には多種に渡る魚も多いため、漁業や魚料理なんかが盛んなのだとか。
「うわぁ〜〜!! とっっってもきれ〜い!!」
「そうだな。噂通り、いやそれ以上かな。これ程とは」
オレとリニスはホウキに乗り空を飛びながら、まだ少し遠い場所に見える綺麗な都を眺めていた。
「よ〜し! それじゃあ降りるよ! しっかり掴まっててね!」
「はいよ」
リニスがホウキを下に向けて降下しながら都に近づく。門の前に降り立つと、その様子を見ていた門番が驚いた表情を浮かべながら、こちらへ話しかけてきた。
「あ、あの、貴方達は一体…」
「すみません、驚かせてしまって。俺たちは旅をしているものでして、是非一度、この麗しい都を見てみたいと思って来た次第でして」
「あ、ああ、旅人でしたか。身分証はお持ちですか?」
身分証とは各国にあるギルドという場所で発行できる、その人の身分を証明するもので、今回の様に他国や国内でも街などに入るには、この身分証が必要になるのだ。
オレはリニスの分と合わせて提示した。
「ええ、はい、どうぞ」
「…はい、大丈夫ですね。お返しします」
「どうも」
「ではお二方! ようこそ、水の都クランベリへ!」
門番はオレ達を歓迎しながら門を開けた。お礼を言って中へと入ると、外から見た景色よりも更に綺麗に映る街並みが見えてきた。
「…う〜わ〜! 近くで見ると更に綺麗! それになんかいい匂いがあちこちから漂ってくるよ!」
「だな〜、お腹空いてきちゃうな」
「ふふっ先にお昼にする?」
「そうするか。何か良さげな物は…」
「おやお二人さん! 何かお探しかな?」
突然後ろから声を掛けられた。オレ達が振り返ると、そこにはボブカットの茶髪に少し猫目な、というか全体的に猫っぽいスラッとした身体をした若い女性だった。
ただ一つ、オレ達とは違うのは耳。人の耳ではなく、まんま猫の耳を持っているのだ。
「
「おや、私達の種族は珍しくもないけれど?」
「あはは、私達の住んでた場所がガチの田舎だからね。
「なるほどね〜」
「ところで、何か用でもあったんじゃ?」
そう聞くと彼女は「おっとそうでした!」と言って手を合わせる。
「お二人さんは何かお探しかな?って」
「ああ、オレ達此処に来たばかり何だけど、何か美味しい料理はないかなって探してて」
「ほうほう、それだったらアレがいいよ! 旅人さんには絶対オススメ!」
そう言って指を指す。その方向に目を向けると、そこには『アゲアゲ屋』という看板を掲げた飲食店があった。
「アゲアゲ屋? …何の料理を出してるの?」
「ふふん、その名の通り、揚げ物を出してるんだよ! もちろん、魚のね! 美味しいよー、魚の揚げ物は! 外はカリッと、中はフワッとしてて、それに絡める特性ソースが合わさればもう!」
「…ゴクリッ」
「どう? 行ってみない?」
「行く!!」
「決まりね! お二人様、ごあんなーい!」
「って、そこの店員なのかい」
「お客さんをより多く招くには、こういう商売も必要なのよ」
そう言ってウィンクしてみせる彼女に、やれやれと呆れつつも、うまいもんだと感心した。
「あ、そういえば自己紹介してなかったね。私はネイシアっていうの。よろしくね!」
「ワタシはリニス! よろしく、ネイシア!」
「シオンだ、よろしく」
自己紹介を済ませてオレ達はアゲアゲ屋に入る。先程よりも更にいい匂いが漂い、ますます食欲をそそる。オレ達はさっそく注文を済ませ、運んでもらった料理を堪能する。
「ん〜〜!! …美味しい!!」
「ああ、これは美味いな! ネイシアの言った通りだ」
「でしょー! 此処に勝る料理はなかなか無いんじゃないかな」
自慢げにそう言うネイシアにリニスがウンウンと激しく頷く。まあ確かに言うだけのことはある、そう思っていると、ネイシアが「そういえば」と話題を変える。
「二人は都に泊まっていくの?」
「うん、そのつもりだよ。だからこれから宿を探そうと思ってるんだけど。そうだ、ネイシア、いい場所知らない?」
「ふっふっふ、実は知ってるんだな〜これが!」
「ほんと? 教えて教えて!」
「ふふん、何を隠そう、このアゲアゲ屋は宿泊場所としても提供しているのだー!」
ババーンという音が響き渡る。いやそういうイメージが湧いてきただけだが。
「な、なんだってー!?」
「ふふっ、お決まりのリアクションありがとう」
「えへへ」
照れたように頭を掻くリニス。二人ともテンション高いなぁ。
「それでどうかな? ふかふかベットに個室お風呂付き、食事の料金もセットで一泊200ガルド! 結構安い方だと思うけどね」
「確かに安いね。シオン、どうかな」
「ん、いいと思う。何より探す手間が省けるし。ネイシア、一泊頼むよ」
「部屋は…一室でいいかな?」
「一室でお願いします!!」
「反応早すぎだろ…まあいいけど」
「ムフフ、よしきた! お風呂とかは夜までに用意しておくからね。食事は遅くならない限りいつでもいいよ」
「ああ、ありがとう」
ネイシアにお金を渡し、お礼を言う。ネイシアは満足げに「じゃあまた後でね〜」と言ってた仕事に戻っていった。
「さて、お腹も満たせたし、さっそく観光しますか!」
「だな、夜までには戻るようにしようか」
「りょうかーい」
そうしてアゲアゲ屋を出て、オレ達はクランベリを観光するのだった。
外へ出てしばらくぶらついてみる。改めて見ると本当に綺麗な街だ。どこへ目を向けても活気があって、人もイキイキとしている。
湖に隣接する場所には船乗り場といくつかのボートがあり遠くでは漁業者が魚を釣っているのがわかる。
「あれ、あのボート…何か魔法が掛かってるね」
「魔法が?」
「うん。ほら、ボートの先端にレバーみたいなのがあるでしょ? 多分あれを操作することでボートを動かせるように出来てるんだよ。後尾にはブースターか何か付けてるのかも」
「そのブースターも魔法で?」
「そうそう、全部が連動するようになってるんだと思う」
「嬢ちゃんよく知ってるな。服装からして、魔女さんかい?」
こちらの会話が聞こえていたのか、高齢なお爺さんが話しかけてきた。
「あ、はいそうです。厳密には“魔法使い”ですが。漁業者の方ですか?」
「ああそうさ。もう長いことやってるよ。それにしても魔女ってのは凄いんだな。一目見ただけで仕組みが分かっちまうなんて」
「えへへ、私こう見えても凄い魔法使いなので」
と胸を張って自慢するリニス。まあ確かに凄いかもしれないが、身内が聞かされるとイラッとするな。
嫌味に聞こえるわ。
「そうかそうか。凄い魔法使いか。…お隣の君は魔法使いさんのこれかな?」
そう言って右手の小指を立てた。いや意味はわかるけどそれ古いな!?
「そうなんです! 私のコレなんです!」
「便乗すな!」
「あいたっ!」
「はっはっは! 仲が良いなら何よりだ!」
そう豪快に笑うお爺さん。
「…けどあれ、結構精密な技術が無いと出来ませんよね?」
「ああ、あれを作ってくれたのは他でもない、魔女なんだよ」
「ヘぇー、そうだったんですか」
「…君達も薄々気付いてるかもしれんが、この仕事をしている者は今、ワシら高齢者だけだからな。人力でボートを漕ぐのは厳しいんだ。それを知ったとある魔女が、あのボートを作ってくれたんだよ」
「なるほどー。優しい魔女だったんですね」
「ああ、それにお嬢さんみたいに、元気で明るい人でね。ついでに超が付くほど美人だった」
「…その魔女、名前は聞いたんですか?」
「いんや、聞く前にいつの間にか去っていってしまってな」
「そうですか」
「何か気になるの? …あ、さては美人さんだからお近付きに、とか考えてないよね?」
リニスはジト目をしながらこちらを見る。
「そんなんじゃないって。ただちょっと知ってる人かもって思っただけだ」
「知ってる人?」
「おじさん、その魔女の二つ名はどう?」
「うーむ……あ! そうだ! 思い出した! 確かに聞いたな。確かそう、“星の魔女”と言ってたか」
「……っ! 星の魔女か」
「やっぱり知ってるの?」
「ああ。過去に一度だけ会ったことがあるだけだが」
「……ふーん」
「ん、なんだよ」
「べっつに~」
と拗ねたようにそっぽを向いた。…まったく、別に彼女とはなんも無いというのに。
「はっは、彼氏君、あんまり彼女さんを不安にさせるものじゃないよ」
「はぁ、気を付けます」
「うむ。それよりお二人さん、これ、良かったら持っていきな。都の宿付きの飲食店に持っていけば、料理に使ってくれるからね」
そう言って差し出したのは取れたての魚だった。
「え! いいんですか!?」
「ああ、遠慮せず持っていきなさい」
「わぁ! ありがとうございます!」
「すみません、いただきます」
「うむ。それではこれで失礼するよ。二人の旅が良いものとなることを祈っているよ」
お爺さんはそう言って立ち去った。
「いい人だったね」
「そうだな、というかこの街に住むほとんどが優しい人ばかりだ」
「なんだか幸先のいい旅になりそうだね!」
「だな」
オレ達はそんなことを話しながら、日が暮れるまで観光を楽しんだ。
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