オレとワタシの世界の旅路-星の魔女-

高町 凪

星の魔女の物語Ⅰ

第1話:オレとワタシの旅の始まり

 農業が盛んで大自然に囲まれたこの村、リンドにある、とある一軒家に、その青年は住んでいる。


 綺麗な黒髪に黒の凛とした目つき。程よい筋肉が付いた体。東方に伝わるという白をベースにした“和服”でその身を包んだ、どこか異質とも言える雰囲気を纏った、17歳ほどになる青年。名をシオンという。

 彼は今日も今日とて、これまた東方に伝わる黒い“刀”という武器を手に持って素振りをしていた。



「ふぅ、今日はこれくらいでいいか」


 オレは刀を鞘に納めてタオルで汗を拭う。あいつもそろそろ終わってるだろうか、そう思いとある部屋へと足を運ぶ。


 ドアの前に立ちコンコンとノックをすると、中から「はぁーい」と可愛らしい声が聞こえてきた。


「リニス、そろそろ終わったか?」

「うん、入ってきていいよ」


 彼女がそう言ったので俺は中へと入る。部屋の中には様々な分厚い本や研究用の機材などなど、いろんなものが散乱していた。そしてその奥に声の主であるリニスがベットに寝そべっていた。


 綺麗なプラチナブロンドの腰まで伸ばした髪に蒼の優しい目つき。出るところは出て、引くところは引いているスタイル抜群の身体。一見ドレス風に見える黒のワンピースの上に、いわゆる“魔女服”を着ている、貴族の令嬢を思わせる雰囲気を纏った美女。俺と同い年の彼女がリニス。


 誰が見ても美少女と言える彼女、しかしその実態は御覧の有り様。散らかった部屋にぐうたらな生活態度。本人はいつも魔法の研究をしているが、それ以外はからっきし。というかやる気が無い。困ったやつだ。


「またこんなに散らかして…片付けるこっちの身にもなって欲しいね」

「だってやる気でないし~。それにシオンがいるからいいかなって」

「……はぁ、やれやれ」


 呆れつつも片づけを始める。俺ってリニスに甘いのかもなぁ。



 ―――突然だけどワタシ、リニスはシオンの恋人だ。ワタシから告白してOKしてもらった。両親を幼いころに無くしているワタシたちは、今は一つ屋根の下でともに暮らしている。


 最近はこうして散らかしたワタシの部屋をシオンが片付けるという構図が当たり前になってきた。現在も片づけをしているシオンを微笑ましく眺めながら、ワタシはかねてより考えていたことを彼に言った。


「ねぇシオン、ちょっといいかな」

「ん~、何ぃ?」

「あのね、ずっと考えてたんだけど…旅に出ない?」

「…………………え?」


 シオンは驚きのあまりか手に持っていた本をバタバタと落とした。ああ、せっかく片付いてきてたのに。


「……今なんて?」

「だから、旅に出ようって」

「たび……旅? …え、なんで急に」

「急じゃないよ? ずっと考えてたことって言ったでしょ?」

「俺にとっては急なことなんだが?」


 まあ言ってなかったもんね、当たり前の反応かもしれない。


「それでどうかな? 行かない? 絶対、面白いと思うんだよね!」

「…そりゃ、まあ。でも、行くったって、お金とかどうするんだよ」

「大丈夫! 実はへそくりがあるし、いざとなれば現地でクエストとか受けて稼げばモーマンタイ! だよ!」

「…へぇ、へそくり…ねぇ」


 ……………あ。まずった。これシオンには秘密なんだった。ワタシはギギギっとシオンの顔を見やると、彼は鬼の形相をしていた。


「………オワッタ」

「リニスゥ? ちょーーっと、話をしようか?」


「んにゃーーーーー~~~~~~~………………っ!!!!」


 そうしてワタシはこってり絞られたのでした。



 ――――まったく、リニスには毎度呆れさせられる。まあそういうとこも含めて可愛いと思えてしまうから、俺は彼女に飽きることが無いのだろうが。


 ぷすぷすと頭から煙が出ている彼女を見ながら、再度旅の話に戻す。


「それで? 旅に出るのも、お金の問題もまあいいとして。いつ出発するんだ?」


 オレがそう聞くと彼女はガバッっと起き上がり、元気よく答える。


「明日!!」

「それはさすがに無理だから」

「ええ~~~!?」

「なぜ驚く……旅の準備なんて何もしてないだろう」

「それならもう終わってるってば!」


 そういうと彼女はどこからともなく杖を取り出し、「そぉ~れ!」と掛け声を出すと同時に杖を一振るいすると、これまたどこからともなく大きめのかばんが二つ出てきた………、ん?二つ?


「なあそれって……オレのかばんだよな?」

「そだよ! さっき用意してたんだ! ワタシとシオンの分!」

「やることがあるから入ってくるなって…そういうことかよ」

「えっへっへ~。これで明日にでも出発できるね!」


 と得意げに胸を張るリニス。確かにこれなら明日出発でも問題なさそうだし、まあリニスがこれほど楽しみにしているなら、行くしかないだろう。無理やり止めに入ったら暴れかねないし。


「はぁ。わかったわかりました。明日、出発しよう」

「やった~~!! シオン愛してる~~!!」

「おわっ、まったく調子のいい……」


 飛びついてきたリニスを抱きとめながら、つい呆れて苦笑いする。けどまあ実を言えばオレも結構楽しみだったりするし、これ以上文句は言わないでおこう。


「ねね、一緒に寝てもいい?」

「いつもオレの布団に潜り込むだろう、お前は」

「今日だけじゃなくて、これから毎日!」

「なんでさ、イヤってわけじゃないけど」

「その方が楽しいし、幸せだから!」


 眩しいくらいの笑顔でそう言ったリニスに、オレは苦笑しながらも「いいよ」と返したのだった。


 次の日の朝、晴れ渡る空の下、オレたちはお世話になった村の人たちへの挨拶もそこそこに、ついに旅立つことになった。


「ねぇシオン、楽しみだね!」

「そうだな、この世界にはオレたちが知らないことが沢山ある。色んなものを見て聞いて、たくさん思い出を作っていこう」

「うん! それじゃあまずは、水の都クランベリに向けて、しゅっぱーーつ!!」


 リニスの用意した大きめのホウキに乗り、オレとリニスは最初の目的地に向けて、空を飛んで行くのだった。

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