愛は痴球を救う——一九九九年七の月、三〇歳童貞なので魔王になれたけど蜜壺に封淫されたケン🐶

Peeping Dom

「世界を変える運命の恋」の変

一九九九年七の月の章

第1話 初夏の夜の夢💔

 性暦一九九九年七月、僕は三〇才になった。一人寂しく誕生日を過ごす筈だった。しかし、思いがけないことが起きた。嬉しい奇跡である。そして悦びの中で世界は滅びてしまった!?

 いや、僕だけが死んだのかな?

 僕は暗闇の中を漂っている。ふわふわと浮いている。何も見えないけど恐くない。むしろ心地よい。これが死後の世界なのかな?


 僕の前世はどうだったかな?

 どんどん記憶が薄れていく。もやもやと胸糞悪い想いがドロドロと鬱積していた。それが清め払われていく。どんな鬱憤を貯めていたのか思い出せない。

 死ぬ間際のことは覚えている。そう一九九九年七月、僕の誕生日の晩のことだ。濃厚な甘さの中に魂が溶けて逝った。微かな記憶を辿ってみよう。


 ノートルダムの大予言によれば、性暦一九九九年七月に人類は滅ぶらしい。僕は小学生の時に知った。当時大人ですら、怪しい予言を真に受けていた。まして小学生が真に受けるのは当然だ。やがて、中学高校と進むうち、そんなことは忘れてしまった。

 大学に落ちてから何浪も重ねた。そのうち進学も諦めてしまった。職を転々としながら、不遇の毎日を送った。そうする中に一九九九年七月を迎えた。ノートルダムの大予言を思い出した。もう人類滅んでも怖くないな。どうせ今は無職だし。失うモノが無い。


 なんで人生誤ったのかな?

 そうだ!

 苺いちゑ様の所為だ!

 彼女が元凶に間違いない。でも恨めないし、憎めない。むしろ好きで好きで堪らない。大好きだ!

 苺いちゑ様とは、憧れのAV女優である。彼女のAVに嵌って勉強が手につかなくなったのだ。僕は彼女に一目ぼれした。

 冒頭のキメ台詞はこうである。

「ビデオ見ながら、ひとりでHしちゃダメだよ。でもね、ガマンできたら、きっと好いことが有るわよ💛」


 ある晩、ガマンしながらAVを見て寝落ちした。そうしたら、夢に現れた。夢の中で彼女と共演している。苺のパンティーを剥ぎとると、あそこはモザイクだ。女性のあそこを見たことが無い。いつもモザイクになる。たまに僕のと同じモノが生えている時もある。それでも、目覚めると、大人のオネショをしていた。それから工夫した。ゴムの靴下を嵌めて寝るようになった。

 もう寝ても覚めても、苺いちゑ様のことで頭が一杯だ。AVも、彼女の出演作一筋だ。彼女のAVを見てから、夢の中で出逢う。すると悩みや憂い、この世の嫌なことはすべて忘れてしまう。

 プロフィールは完全に暗記している。暗唱するだけで、彼女の姿が目に浮かぶ。いつも寝っ転がりながら、パンツを脱ぎ捨て、苺いちゑ様麗しい御姿を思い浮かべる。

 苺いちゑ様は、身長164cm、B83cm、W58cm、H88cm、手脚が長く、すらりとしたクール・ビューティーだ。デヴュー以来スタイルも肌の艶も変わっていない。それは二月二九日生まれだからだ。つまり四年に一回しか年を取っていない。年齢は不詳だが、デヴュー時十八才以上だと仮定する。うるう年生まれだから、該当するのは一九六四年である。ということは、今年は一九九九年だから、推定年齢三五才である。見た目は未だにその半分、永遠の十七才だ。年上なのに見た目は年下、理想のお姉さまなのだ。

 苺いちゑ様は凛として清楚である。それでいて、童貞を目にすると、瞳を輝かせて舌なめずりをする。そのギャップが堪らない。顔つきだけで十分すぎるオカズだ。彼女は童貞が好物で、童貞も彼女が大好きだ。

 意外なことに、彼女は男嫌いだ。ヤリチン男優は拒絶する。どんなイケメンでも塩対応だ。でも童貞は別腹なのである。

 何故ならば?

「童貞なんて男の中に入らないわ💔」

 だそうだ。苺いちゑ様の仰せは、胸にぐさりと刺さる!

 童貞ならば、醜男、短小、包茎、早漏、根暗だろうと、差別無く筆降ろししてくれる。でも、彼女との逢瀬は一合一会、ただ一度の筆おろしが最初で最後だ。一回限りの関係だと、とても切ない。大抵の共演男優は、彼女のお尻にしがみついて名残を惜しむ。

 一生に一度だけのHするなら、死ぬ前だよな。苺に初を捧げば夕べに死すとも可なり!


「ケンちゃん、起きなさいよ♡」

 聞き覚えがある声が囁く。目を覚ますと朝だ。僕の枕元に見覚えのある人が座っている。因みにケンとは、僕の名前だ。

 苺いちゑ様が夢に現れた!

 気張ると却って夢から醒めてしまう。醒めぬように心を落ち着かせる。

 セーラー服姿である。

「お姉ちゃん!?」

 思わず、そう答えた。既視感の有る光景だ。

「ケンちゃんはお寝坊さんだね。さぁ学校行くわよ!」

 いちゑ姉さま、引き吊られて家を出る。お姉ちゃんは僕の尻尾を握っている。僕は全裸だ。セーラー服美少女と並んで外を歩いている。とても恥ずかしいけど、病みつきになりそう。露出狂の気持ちがわかる。

「お姉ちゃん、僕の制服は?」

「お寝坊さんの罰よ。ケンちゃんは全裸登校ね」

「恥ずかしいよ」

「わたしが手で隠してあげるね♡」


 みんなが見ている前でシコシコされている。周りは女生徒だらけだ。屈辱感が堪らない!


——ぶぉ~ん! ぶぉんぼぼん! ぶぉ~ん! ぶぉんぼぼん! 

 突然の爆音に目が覚めた。苺いちゑ様の甘い悪戯は止んだ。

 五月蠅いマフラー音が鳴り響く。間断なく爆音が響いている。全く耳障りで、ハラワタが煮えくり返る。しかも、苺いちゑ様との甘い夢を邪魔されてしまった。マジで奴らブチ殺してやりたい!

 思わず叫んだ。

「死ね!死ね!死ね! チンピラゴロツキ共! 我は魔王、火、水、風、土、四つの精霊を統べる者なり。火の精霊に命ず。大きな火の玉と成り、爆ぜ奴らを焼き尽くせぇ~!! 」


 俄かに何か手ごたえを感じた。ポチッとボタンを押したような感覚だ。独り語わめくだけで、こんなにすっきりするのか?


——きぃ~ぃぃぃん!

 コンクリートを引っ搔くような金属音が響く。奴らこけたのかな?


——ドッカーン!

 すると、けたたましい炸裂音がする。窓ガラスが震えている。耳が劈かれる。近くでガス爆発か?

 まるで戦争映画の中にでもいるようだ。


 これって僕の所為なのか?

 別に責任感も罪悪感も無いけど、自分が起こしたような気がする。でも気のせいだろう。

 寝付けなくなった。苺いちゑ様のAVでも見よう。さっき夢の続きみたいな作品あったな。

 ビデオ棚を探している中に、サイレンが鳴り響く。救急車や消防車、パトカー出動だな。半端な数じゃないな。

 ヘリコプターまで飛んでいる。マスコミかな。それとも自衛隊かな。

 もしかしてテポ丼でも落ちたのか?

 一九九九年七月だな。僕の誕生日に第三次世界大戦でも始まったのか?

 せめて死ぬ前に童貞喪失したかったな。事前に判ってたら、ソープでも行けばよかった。でも、苺いちゑ様一筋に童貞守り続けるのが筋かもしれいっ!

 つるつるの筋を思い出す。そこだけはモザイク越でも見えるんだよな。


 今宵で世界は終わりかもしれない。そんな時は苺いちゑ様のビデオを見ながら滅びを待とう。

 でも世界が滅ぶと、彼女も死んじゃう。せめて彼女だけでも、生き延びて欲しい。

「神様、魔女様、美魔女様! 僕の命に替えてでも、どうか彼女だけでも、御救いを♡」

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