第42話 婚約のはじまり 2
煌びやかなステンドグラスに彩られた教会の花道を、リアムとマリリンが歩いていく。
右を見ても、左を見ても、天竜や地竜の伝承を模した壁画があって、
その前には、金銀財宝とでも呼ぶべき装飾品たちが、所狭しと並べられていた。
あまりの数に肝心の壁画が見えないが、どちらも教会の権力を人々に見せつけるために置かれたものだから問題ないのだろう。
そんな光景も、光の使徒としてここに通うマリリンにとっては、慣れ親しんだものだ。
「ふぅん。ここは何時もと変わらないのね」
故にそれは、何気なくこぼした意味のない言葉。
その言葉を聞いたリアムの肩が、不意にピクリと持ち上がっていた。
「む? 不服か? であれば、すぐに担当者を呼びつけてーー」
「う゛ぇ゛!? そうなるの!? いやいや、良いよ、良いよ。飾り付けなんかより、すぐに婚約を始めようよ」
早く白竜様に会いたいし!
そんな思いを込めたマリリンの言葉に、なぜかリアムの頬が赤く染まり、視線が明後日の方向にそれていく。
「そっ、そうだな。早く婚約をしよう。念願の婚約式だもんな」
後ろを向いた首筋が、可哀想なほど真っ赤に染まっていた。
たぶん隠してるつもりなんたろうけど、口元もにやけてる。
「あ、うん、そうだね。念願だもんね」
何と言うか、ふつうに気持ち悪い。
リアムとの婚約は、白竜様と出会うためだけのイベントであって、本気で照れられても困るだけだ。
たかが、
「行こうか」
「……うん!」
それでも相手は、
好みじゃないけど、顔はそれなりにイケメンだから、許せなくもない。
そんな思いで、差し出された手に右手を添えると、リアムがおほんと咳払いをして、前を向いた。
「開けろ」
「「「かしこまりました」」」
数十人の男たちが頭を下げて、馬鹿みたいにキラキラした扉を引っ張っていく。
ふんだんに金を使い、一流の職人たちの手で細工された扉が、筋肉質の男たちのパワーでもって、ゆっくりと開いていく。
聞こえてくるのは、教会が誇る音楽隊の演奏と、上級貴族たちの拍手の声。
「ほぉ、あれが光の愛娘ですか」
「なるほど、さすがに美しい」
腹を探り会うような視線と、ギラギラとした笑みが、部屋の中をひしめき合っていた。
当たり障りのない祝福の言葉も聞こえてくるが、どう聞いても心なんて籠もってない。
すべての言葉が、愛想笑いの上を滑っていた。
「あんたたちも、処刑」
「ん? マリリン、何か言ったか?」
「ううん! なんでもない!」
どうせコイツ等は、クズなんだから、まとめて焼却処分してしまえば良い。
権力を持った貴族なんて、汚職する以外に能力はないし、死んで困る人なんて誰もいないからね。
「行こう、リアム。神官長が待ってる」
「そうだな。手を」
「うん」
まぁ、何にしても、まずは白竜様に会わないと!
そういえば、さっきの壁画じゃないけど、地竜と天竜もいるって話しだよね?
もかして、その子たちも、可愛いおじ様なんじゃ!?
同じ竜の白竜様が可愛いんだから、その子たちも可愛いに決まってるよね!
「うん、よし! 白竜様が終わったら、次は地竜と天竜だね! 会いに行くしかない!」
「……会いに? どうした、突然」
「え? あっ! ううん! なんでもないよ!」
あはは、とごまかして、神殿長の前へと進んでいく。
慌てて追いかけてきたリアムが、不安げな表情で顔を見てくるから、ぷいっとそっぽを向いた。
(おい、新婦の方がリアム王子を先導していないか?)
(あぁ、そう見える。仕草も淑女にあるまじき動きばかりだな)
(王子も王子なら、婚約者も婚約者と言うわけか)
(この国も終わりだな)
周囲からひそひそと声が聞こえるけど、モブキャラたちに何を言われても気にはしない。
どうせ、死ぬだけのヤツらだ。
祭壇の前でリアムと並んで前を向く。
ガマガエルのような顔の神殿長が、偉そうな仕草で頷いて見せた。
「今日の良き日に、こうして婚約式を無事に執り行えることをーー」
太り過ぎてて滑舌が悪いけど、何とか聞き取れる。
そうして式が進み、いよいよ最後の儀式。
互いが教会の中央で向き合って、リアムが誓いの言葉を口にする。
「リアム・スコット・フルヘイムは、光の使徒であるマリリンを生涯の伴侶とし、永遠の愛を神々の前で誓います」
清々しい顔をしたリアムが、天井から差し込む光を見上げて、口元を小さく綻ばせていた。
1歩だけ前に出て、薔薇の花束を向けてくれる。
それを受け取ろうと、マリリンも1歩だけ前に出た。
ーーそんな時、
「急報に付き失礼します! 王都上空に、巨大な竜が現れました!!」
突然走り込んできた兵士の言葉に、誰しもが呆気に取られていた。
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