第41話 婚約のはじまり
この国に住まうものすべてが仕事の手を止めて、次期国王である第1王子の婚約を祝うその日。
主役の片割れである
「良い! すごく良い!」
「マリリン様、今日は一段とお綺麗ですね」
「でしょでしょ! ふわふわで可愛いわ!」
大きな姿見の前でウインクをして、クルリと回る。
年若いメイドの言葉通り、
“
そう言いたくなる仕上がりだった。
ちなみにだが、乙女向けのゲームなので、ヒロインであるマリリンがメインのイラストなんて存在しない。
故に、至近距離のドレス姿をマジマジと見るのは今日初めてで、否応にもテンションが上がっていく。
そして何よりも、面倒でイライラする練習から解放されて、白竜様に会える日なのだから、嬉しくない理由がない。
今日は、白竜様が大勢の人の中から、私を見つけ出してくれて、2人で幸せに……、
「そうだ! この辺に宝石付けたら可愛くない!?」
ハッ、と振り向いて、結われた髪を指差していく。
問いかけられたメイドが、少しだけ困ったような顔をしていた。
「そっ、そうですね。私もそう思います。ですが、
「大丈夫! あのババァ、じゃなかった。リベリンシア様に聞く必要もない範囲じゃない。やっちゃって! 次期王妃命令!」
「……かしこまりました」
恭しく頭を下げた若いメイドが、慌ただしく走り回って、髪に光り物を付け足してくれる。
そうは言ってみたけど、たぶん立派なマナー違反だ。
でも、マナーなんて、知ったことじゃない。
キラキラしていた方が可愛いし、見つけ易いに決まってる!
「本当に楽しみ!」
周囲にメイドがいないのなら、手作りの白竜様ぬいぐるみを抱いて、すはすはしながら、本物の出現を待ちたいくらいだ。
だけど、さすがに無理だよね。
「マリリン様、このくらいでよろしいでしょうか?」
「ん?? うん! 良い! すっごく可愛い! これなら白竜様も私にメロメロね!」
マリリンがうっとりと目を輝かせると、何故か若いメイドが不思議そうな顔をした。
恐る恐る、と言った様子で見上げてくる。
「白竜様、ですか?」
「ん? ……あっ! えっと、ちがくて! 白龍様の加護を受けた
あははー、なんて笑ってごまかしておいた。
「そうなんですね」
「うん、そうなの!」
まぁ、どうでもいいですね。
冷めた瞳で振り向いたメイドの背中が、そう言っている気がした。
「そこのメイドさん。これ、可愛くない?」
「はっ、はい! 大変可愛く思います!」
「だよね、だよね! えっとさぁーー」
「すっ、すみません。ちょっと失礼します」
話しかけたメイドが、怖い目にでもあったかのように、走り去っていく。
「っ!! えっと、お似合い、ですよ」
「似合ってます」
怯える瞳を向ける者や、最小限の関わりで終えようとする者。
メイドたちの態度が、すっごく気に食わないけど、それも今日で終わる。
「へぇ。そんな態度で良いんだぁ」
白竜様の妻になる女なんだよ?
そんな思いを胸に周囲(見渡すと、メイドたちが今にも泣きそうな瞳で見上げていた。
「そう。はじめからそういう態度でいれば良いのよ」
ふわりと笑って、頬をひきつらせるメイドたちに背を向けた。
姿見に映る
さてと、これからどうしようかな。
青白い顔をしたメイドたちとのお喋りも面白くないから、やっぱり白竜様のぬいぐるみを持ってきてーー
「マリリンお嬢様。最後のチェックに参りました」
不意に背後から声がした。
「うげ!?」
来る予定じゃなかったのに、なんで!?
なんて思っていたら、さっき走り去ったメイドが、ババァの背後から姿を見せた。
なるほど、コイツがチクったのか。
「何ですか、その髪型は! 男爵家の令嬢とは言え、あなた様は王の伴侶としてこの国を背負うーー」
「あー、あー、聞こえなーい」
「なっ!? アナタと言う人は!! 自覚はあるのですか! 自覚は! そのような態度では、この国をーー」
顔を真っ赤に染めたババァの声を、耳に指で栓をして遮った。
覚悟? そんなもの、あるはずない。
私はこの国を出て、白竜様と一緒に住むのだから。
「見て、あの態度。やっぱり、あの人ヤバいわよ」
「しー! 聞こえたら処刑される!」
「大丈夫よ。この距離だもの、聞こえやしないわ」
残念だけど、聞こえてますよ。
マリリンの耳は、ヒロインの耳だもの。
悪口は完璧に拾うわよ。その後はお約束、王子様に告げ口タイムね。
お望み通り “処刑にして” って、リアムに頼んであげるわ。
それにしても、言葉やら、視線やら、妬みやら。
この国は
いっそのこと、白竜様に頼んで、この国の全てを焼き尽くしてもらおうかな。
あっ、でも、そのくらいなら
白竜様といちゃいちゃしてる間に、やってもらえばいいもんね! よし、決定!
「アナタと言う人は、努力も覚悟も何もかもがーー」
「リベリシア。今日はそのくらいで勘弁してやっては貰えぬか? マリリンは光の使者としての勤めが忙しくてな。許してやってくれ」
「……殿下が、そう仰るのでしたら」
いつの間にか来ていたリアムの言葉に、ババァがそそくさと退散していく。
このババァも、権力を前にしたら黙るとか、ほんとうざい。
「マリリンを迎えに来た。余の後ろに乗ってくれるか?」
「……喜んで」
本当は嬉しくないけど、白馬の背に跨がる
一度、城下町へ出た2人は、祝福の花びらを飛ばす下級貴族たちの間を通って、婚約会場である大聖堂の中へと入っていった。
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