第35話 王子と令嬢 2


 うわぁ、リアムくんのお肌びちゃびちゃ。乳液つけすぎじゃない?


 この世界の化粧品って、質が悪いし仕方ないかもだけどさ。


 画面越しのキミは、もうちょっと格好良かったよ?


 そんな思いを胸に押し込めて、少女が微笑んで見せる。


「ごめんねー、突然来ちゃって。でもでも、王都に帰って来て、1番最初にリアムくんに会いたかったの」


 顎の下に両手を添えて、目をパチパチする。


 ツインテールを揺らしながら、ちょっとだけ前屈みになると、ポイント高いよね。


 ゲームこのの世界に来てまだ半年だけど、何度も練習したからバッチリ出来る!


 そうしたら、


「いっ、いや、問題ない。マリリンなら、いつ来ても受け入れよう」


 うんうん、恥じらうよねぇ、キミは。


 攻略本に書いてあった通り、チョロ過ぎでしょ、この王子様。


 某チャンネルで、ノーマルエンド扱いされるはずだわ。


 でも、わかる! わかるよ、リアムくん!


 主人公マリリンって、胸はぺったんこだけど可愛いもんね!


 私が私だった頃と比べて、お手入れも簡単だし。


 食べても肥らないって、最高でしょ!


 名前が初期設定デフォルトから変更不可なのがムカつくけど、私は私だからOKってことで!


「でね、でね。ちょっと聞きたいんだけど、メアリさんってどうなったの?」


 今日の目的は、それだけ。


 それさえ聞けたら、リアム王子ノーマルエンドに用はないからね。


 さっさと終わらせて、帰らなきゃね!


 今日こそ、パフェとハンバーグを完成させないと!


 そんな思いで視線をあげると、リアム王子が誇らしげに胸を張ってた。


「あぁ、彼女なら魔の森に追放した。二度とマリリンの前には現れないから、安心していい」


「そっか、わかったよー」


 ゲームと一緒だから聞かなくても知ってるけどね。


 アリバイって大丈夫でしょ!


 あとは、閉じこめられてる牢屋に行って、いじめられるイベントをーー。


「……え? 追放?? 牢屋じゃなくて?」


「あぁ、あの女は竜に喰われて死んだはずだ。クズには上等過ぎる最後だな」


 えっ? 死んだ!?

 悪役令嬢が!???


悪役令嬢メアリさんを追放したの!? なんで!?」


「なんでって。お前に怪我を負わせたんだ。当然の処置じゃないか」


「…………まぁ、うん。そうかも」


 じゃないよ! あり得ない!!!!


 今後のイベントを悪役なしでどうやって進めるの!?


 バカなの? 死ぬの!? 


 もしかして、どこかで選択肢を間違えちゃった!?


 そもそも、なんで選択肢の表示が出ないのよ!! バグってるじゃん!!


「ねぇ、ノーマルえん……、じゃなかった、リアムくん!」


「なんだ?」


「えっと……」


 今後のイベントってとうなるの!?


 なんて聞いても意味不明だろうし。


 えっと……。


「なんでも、ない……」


「そうか。ならば良い」


 明らかに不思議そうな顔をしているけど、聞けることなんてないし……。


 でもきっと大丈夫、だよね?


 私のハーレムエンドは、終わっていないはず!


 悪役がいないってことは、ライバルがいないって事でしょ!


 むしろ、ラッキーなんじゃない?


 うん、そうだよ!


「ねぇ、リアムくん。ラテスくんは?」


「ラテス? 王都を出て行方不明になったままだが? メアリと一緒に死んだんじゃないか?」


「そっ、そうなんだ」


「なんだ? ヤツに会いたかったのか?」


「うっ、ううん。違う違う、バッタリ会っちゃったらイヤだなーって、あはは」


 なんでよ! あの子もハーレムの一員でしょ!?


 ってか、この子、ラテスくんの話題を振ると、目が怖すぎるでしょ。


 乙女ゲームの攻略対象ヒーローがそんなんでいいわけ??


第2王子ミントくんは?」


「アイツは相変わらず自室から出て来ないな。会うことはないから安心しろ」


「そっ、そうなんだー」


 何なのよ、もぉ!!


 このままじゃ、2セカンドどころか、隠しルートの白龍さまにも会えないじゃない!


 あの子が一番可愛くて、どの攻略対象ヒーローよりも好みなのにぃ!!


 なんて思っていると、不意にリアムが大きく息を吸い込んだ。


「そういえば、婚約の準備は順調か?」


「ん? 婚約? ……あー、うん! 婚約!」


 忘れてた。

 準備なんて全然してないどころか、婚約なんてする気ないし。


 でも、これってあれでしょ?


 イベント中に、白龍さまが来てくれるやつ!


 ノーマルエンドとの婚約事態に興味はないけど、イベントはきっちりしなきゃね!


「任せといてよ。まだ小さい子なんだけど、私が光を与えた幼竜には、乗れるようになったから。当日も成功間違いなし!」


「そうか、さすがはマリリンだな」


「でしょでしょ!」


 本当なら牢屋に入れられたメアリが、禁忌の術で呪われた白龍さまを召還して。


 私が光の魔法で、ズバー、って、浄化するはずなんだけど、それはまぁ、ゲームの強制力的な何かが頑張ってくれるでしょ!


「それじゃっ、私帰るね!」


「そっ、そうか……。だが、来たばかりではないか? もし疲れているのであれば、もう少しここに居てもーー」


「ううん、大丈夫。早く帰って婚約の練習しなきゃだから」


「……そうか、そうだな」


 白龍さまに会えるなら、リアム王子ノーマルエンドなんて要らないし。


 白龍さまルートは、光魔法の力に応じたイベントだもん、今からでも徹底的に鍛えるしかないよね!


 ゲームの時と違って、今は年齢的な制限なんてないし!


「もしかしたら、あんなことや、こんなことも……。ぐふ、ぐふふふふ!」


 やばい、妄想が溢れすぎてやばい!


 そんな思いを胸に、やすれ違うメイドや騎士に振り向かれながら、彼女は男爵家へと帰って行った。

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