同居人
罪人しかいないこの街の13歳。これをどう捉えたらいいのか正直わからない。そのまま捉えるならこの年で罪を、いや彼女の立場を考えるならもっと幼い時に罪を犯したことになる。
何せ入りたての人にものを教える役目が回ってくるとは思えない。
ならばセンドウさんのようにこの街を管理する立場の人間なのだろうか。しかし13歳でというのも信じれない。
「えっと、黙り込んでやっぱり怒ってる?」
考えごとをしていたらカレンちゃんが顔を覗き込んできた。その瞳は不安そうで、こちらが言葉を返す前にまくしたてる。
「別にボクが悪いわけじゃないんだ。シルビーが悪いんだよ!! ボクが今日は用事があるって言ったのにあーだこーだって色々な話をもってきて離してくれなくて。ほんとに言っても聞かないんだよ」
「でもさっきは時間を忘れてとか言ってなかったか?」
気になったところを指摘するとカレンちゃんはすーっと視線を明後日の方へそらした。どう見てもやましいことがありそうな反応だった。
「ボクはそんなこと言ったっかな?」
「シルビーさんだったっけ。その人に会うことがあったら聞いてみるかな」
「うぐっ――」
痛いとこを突かれたような顔でカレンちゃんはしばらく黙り込む。
少し大人気なかったかと思いフォローしておくことにした。
「遅れたことは気にしてないから。君がいることはさっき聞いたばかりだし。それと俺はコクトだ。よろしく頼む」
カレンちゃんは不安そうな表情から一変して満面の笑みを浮かべた。
「うん! よろしね!!」
そんな姿を見ているとカレンちゃんが何者かなんてどうでもよくなってきた。それに他人のことを詮索してる余裕などない。何も知らないこの場所で生きていかなければならないのだから。
「そういえば規則書を読んでたんだね。理解はできた?」
「何をしちゃいけないのかはわかった。それ以外はさっぱりだけど」
読み進める前にカレンちゃんが帰ってきてしまったのでそれ以外は読めなかったというのが正しいが。
「そっかそっかー。大切な決まりもいくつかあるから後で確認しよっか。それはそうと自室は確認したの?」
「いや、鍵はもらったけどまだ確認してない」
「そっかー。なら早速確認しよう!! コクトくんが生活していくのに必要なものが用意されてるはずだからね! ほらほら!!」
カレンちゃんに急かされるまま鍵を取り出して自室のドアを開ける。しかしカレンちゃんは部屋に入ってこなかった。
「どうしたんだ?」
「ここから先はプライベートだから勝手には入れないんだー。そういう決まりもあるんだー。あまり縛りのある決まりではないんだけど一応ね」
そういうことならとカレンちゃんを招き入れて一緒に部屋の中を確認する。ドアを開けると階段、キッチン、バスルームがあり、2階が生活スペースになっていた。
2階は寝室と部屋が2つあり、寝室に支給品と思われるアタッシュケースが置かれていた。中にあるのはほとんどが日用品だったがそれ以外に見覚えのない紙幣も入っていた。
「それはこの街のお金だよ。持っていると役に立つから、持っとくといいよ」
支給品はアタッシュケースだけではなくクローゼットの中に同じ服がずらりと並んでいた。これ以外の服はお金で買えるらしい。
「そうだ。この後街に出ようよ。ここのことは見てみればわかると思うしどうかな?」
嬉しそうにカレンちゃんがそう提案してきた。街を案内するのが楽しみで仕方ないというところなのだろう。彼女を見ているとここが罪人の街なのかと疑いたくなる。
「そうだな。どんな場所か見てみたいと思ってたんだ」
ここが本当に罪人の街なのか、この目で見ればわかるのではないか。そう思ってカレンちゃんの提案に乗ることにした。ただ出かける際に服を着替えさせられた。
「うん! すごい似合ってるよ」
カレンちゃんにそう褒められたが支給品の服は安物でどう考えても粗悪な量産品だろう。だがまあ、新たな場所で生きるという意味で着る物を替えるというのも悪くないかもしれない。
こちらが着替えてる間カレンちゃんも着替えてきたようで共有スペースに行くとさっきとは別の服になっていた。さっきの服もそうだがしっかりとしていてデザインもかわいい。これが支給品と購買品の違いというやつか。
「カレンちゃんも似合ってるよ。かわいいよ」
「そっかな。えへへ、ありがとう」
褒められたのでそう返すとカレンちゃんは嬉しそうに笑った。
出かける準備を終えてカレンちゃんと連れ立って外へと出る。移動手段は基本徒歩だそうで遠出をするときにお金を出して馬車を借りたり、乗合馬車を使うらしい。
歩いていると何人かの人とすれ違ったが挨拶をしてくれたりといたって普通だ。
「カレンちゃん、一つ気になったことがあるんだけど……」
「なになに? 何でも聞いてよ!」
「周りの家だけど俺たちが暮らす家と違くないか?」
なんと言えばいいのか。家のランクが違うと言えばいいのか建築技術のレベルが違うと言えばいいのか。歩くうちに見てきた家は趣が違う。
「えっとね。ボクたちの家はちゅーとりある用の家だから造りが全く違うんだって。ヘイタイさんがそう言ってたよ」
チュートリアルか。おそらく生活の基盤を築くまでの間は住居だけでも立派なものを与えてくれるということか。
「チュートリアルということは俺もいつかはあの家から出ていかなくてはいけないんだな?」
「そうだよ。言ってなかったね。ごめんね。期限は半年だよ。その間は衣食住はちゃんと保障されるから安心してね」
おそらくチュートリアルを行う側のカレンちゃんも衣食住を保障されているのだろう。だからこそその年でも問題なく暮らせているのかもしれない。
「とはいってもお金はもらえないからコクトくんも職を見つけないとね」
「職はやっぱり自分で探さないとだめなのか?」
まあ、この街にハローワークなんてあるようには見えないが。
「うん、まあ、そうだね。勤労の義務が課せられてるからね。一応紹介してくれる場所もあるけどあまりいい仕事とはいえないからね」
カレンちゃんは影のある笑い方をして視線を別の方へ向けた。釣られてそちらに視線を向けるとそこには信じられないもなのがあった。
坂を上る途中である程度街を見渡せる場所まで来ていたのだが見慣れないものがそこにあった。大きな歯車だろうか。それを何人かの男たちが一生懸命回している姿があった。
「何なんだあれは!?」
「お空を維持するための機械を動かしているの。基本は動力稼働なんだけど、一部人力もあって職を持てなかった人がああして回してるの」
その歯車はなかなか重量がありそうで回し続けるのはなかなか大変そうだ。いや、そんなことよりも気になる言葉があった気がする。
「お空を維持、ってどういうことだ?」
「うーん? お空の維持ってそのまんまだよ。お空がなくなったら一日中夜になって大変だもん」
一日中夜になる? お空がなくなる? 言っている意味が分からない。わからないが少しだけ思い当たることがある。
今はネットさえにつながっていれば世界の裏側でさえ見ることができる時代だ。だがこんな街の存在を今まで知らなかった。馬車が走ってる街なら話題になってもおかしくない。
それに最初に、モノレールを下りた時に思ったはずだここは……。
「カレンちゃん、一つ聞くがあれは何だ」
眩しすぎて直視できないそれを指差して尋ねる。カレンちゃんは目を細めながらも答えてくれる。
「空を形づくるための機械「エスポア」だよ。みんなは人工太陽なんて呼んでるけどね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます