咎人の街
街に着くなり共に馬車に乗せられた。もちろん案内人であるセンドウも一緒だ。これからしばらく住むことになる場所へと案内してくれるらしい。
自動車でなく馬車なのはこの街に石油やそれに代わる燃料がないからだそうでこの街の移動手段は馬車か徒歩か自転車だそうだ。
それらの説明だけするとセンドウがすっかり黙り込んでしまったので馬車に揺られながらこれまで聞いたことを整理することにした。
1番衝撃を受けたのは自分が罪を犯したと言われたことだろうか。人間生きていれば罪のひとつふたつ犯していても不思議ではないが島流しのような目に合うような罪を犯した覚えはない。それに拘束された記憶もないのだ。まるで記憶が抜け落ちているかのような―――
「少しいいかな?」
黙り込んでいたセンドウが突如として話しかけてきたので思考するのを中断して彼の方を見る。
「君の名前は?」
「コクトですけど……」
今更聞くのかと呆れながら名乗るとセンドウはうなずいた。
「それでいい。それと君の住居には同居人がいるからこの街での暮らし方を教えてもらうといい」
このまま、また話が終わりそうだ。どうせながらここで何か情報を聞き出しておいたほうがいいかもしれない。
「センドウさん、いくつか聞いていいですか?」
「ああ。答えられることには答えよう」
センドウさんはどっしりと構えてそう返してきた。当然言えないこともあるということなのだろう。
「罪を償えばここから出られるのですか?」
皆罪人だというのならありえるだろう。そう思って尋ねてみた。馬車から見える景色だけでここが今まで暮らしてきた場所より明らかに技術的水準が低いことは明らかだ。誰だってここに長く居たくないと思うはずだ。
「それはないな。ここに連れて来られたのが罪の結果だ。償うと言うならそうだな、ここで死ぬまで暮らすことが償いだ」
希望も何もない回答をセンドウさんは返してきた。センドウさんはおそらくここを管理する側の人間なのだろうからそれは普通の返答なのだろうがあまり気分はよくなかった。
それなら他の出る方法はないのかと聞こうかと思ったがなんとなく答えてくれないだろうと思ったので言うのはやめておいた。代わりに別の質問を口にすることにした。
「この街には本当に罪人、犯罪者しかいないのですか?」
「そうだな。メルキアには罪人しか住んでいない」
「センドウさんも、ですか?」
踏み込んだ質問にセンドウさんはやれやれと肩を竦めた。
「残念だが私はここの住人ではない。新しい入居者を送迎し、住居まで案内するのが私の役目だ。それが終われば帰る」
センドウさんはきっぱりとそう言ったがどこかはぐらかされたような気もする。いや、それは考え過ぎか。
「時間切れだな。到着だ」
次の質問をどうするかと考えていたら馬車が止まった。どうやらここまでのようだ。
センドウさんに続いて馬車から降りると目の前には立派な家が建っていた。
「ここが……」
「ああ君が暮らすことになる家だ」
センドウさんはそう言って家に近付いてインターホンを押した。しかし家の中から何の反応も返ってこない。少し間を置いてセンドウさんはもう一度インターホンを鳴らすがやはり何の反応もない。
「この時間に連れてくると言っておいたんだがな」
センドウさんはため息混じりにそう呟くと鍵を取り出しドアのロックを外してしまった。
「勝手に入って大丈夫何ですか?」
「君もここに住むわけだし、共用スペースを見るだけなら問題はないだろう」
センドウさんはそう言って家の中に入っていったので後に続くしかなかった。
玄関にを抜けて奥へ行くとリビングルームがありその左右にドアがある。
「この家は2人用のシェアハウスだ。左右のドアが個人スペースへの入口で君の部屋は右側だ。トイレと風呂はそれぞれの部屋にひとつずつある。キッチンは個人スペースにも小さいのがあるが共用スペースに大きいものもあるから好きに使うといい。あとは――」
センドウさんは早口でこの家について説明してくる。書くものもないのでそれらを全て頭に叩き込んでいく。
全て理解したかといえばそんな自信はなく、後で同居人にあった際に確認すればいいと開き直ることにした。
「最後にこれは鍵だ。家に入るのはもちろん自室に入るのにも使う。基本鍵はオートロックだから肌見放さず持っておけ」
投げ渡された鍵を受け取るとそれを眺める。カードキーではなく昔ながらの鍵でさっき家に入るのにセンドウさんが使ったものだ。紐がついていて首にかけられるようになっていたので首にかける。
「新生活を始める君へ支給品は部屋にあるから確認しておくといい」
センドウさんはそう言うと踵を返し玄関へと歩き始める。
「もう戻るんですか?」
「ああ。本来は君を引き合わせて終わる予定だったがるすだったからな。ほどなくして帰ってくるだろうから待っているといい。そうだな。待っている間はそこの規則書を読んでいるといい」
センドウさんが指したのは隅に置かれている本棚だ。いくつかの本が収められているが規則書と書かれている本は目立つように表紙が見えるように飾られていた。
試しに手に取ってパラパラめくってみる。読み物としてはあまり厚いものではないが細かい字で書かれていて内容自体はそれなりにありそうだ。
「ひとまず最初の10ページ分を読んでおくといい。重要な規則が書かれている。それだけは覚えておいて損はない。それでは機会があったらまた会おうか」
センドウさんは呼び止める間もなくすたこらと帰っていってしまった。窓から外を見ると乗ってきた馬車は来た道を帰っていくのが見えた。
よくわからない場所に一人残されてしまったがとりあえずは言われた部分を読んでみることにした。
重要禁則事項
1.当該規則はメルキアにおいて絶対的に遵守されるべき規則とする
2.以下3以降の規則を破った者は決定権を有する者により過重なる罰を受けるものとする
3.あらゆる窃盗行為を禁ずる
4.正当性のない暴力行為を禁ずる
5.正当性のない公共物の破壊を禁ずる
6.許可なき職を営むことを禁ずる
7.殺人行為または自他問わず殺人行為の計画の立案及び実行を禁ずる
8.生殖行為及び出産、妊娠、またはクローン等人工的な繁殖行為を禁ずる
9.深夜時間帯の許可のない外出を禁ずる
10.重火器、刀剣類に部類する物の所持及び製造を禁ずる
追記:上記規則はメルキア内において最高法規となり、その他規則によって変更および無効にはならず、優先される
これが最初に書かれている規則だった。そのあと8ページほどはそれらの規則を補足する規則で埋められていた。これはしっかりと読まないといけないかもしれない。そう思って椅子に座って読もうとしたところでドアの開く音がした。
センドウさん戻ってきたのかと思ったがそんなことはなくドタドタと音を立てながら勢いよくリビングへと飛び込んできたのは一人の女の子だった。
「ご、ごめんなさい! きょ、今日来るって聞いてたのに時間も忘れて! 本当にすみませんでした‼」
「えっと、君は一体……」
入ってくるなり勢いよく頭を下げて謝罪をしてきた女の子に声をかける。聞かなくても答えは一つしかないのだがそれでも衝撃てきですぐにはしんじられなかった。
「あ、ボクはカレン、13歳。先輩としてここの生活をあなたに教えていくよ!!」
場違いともいえる明るい笑顔で彼女はそう自己紹介をした。
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