愚者の街〜メルキア〜
おもちゃ箱
プロローグ
「どうして俺はここにいる?」
まず思ったのはそれだ。次に思ったのは
「どうしてこんな状況になっている?」
ということだ。両手両足を布か何かで縛られ、口は布か何かを噛まされ、両目は布か何かで覆われている。
こんな状態でまず自分の場所の心配をした自分がよくわからない。だが残された感覚、肌と耳から自分が何に乗っているか予測はついた。
肌に感じる振動、規則的に聞こえるコトンという音に覚えがある。モノレールだ。この乗り物に過去に2度ほど乗ったことがある。
「でもそんなレトロなものに何故乗っているんだ?」
そんな風に思うが思い出そうとしてもまったくその答えが出てきそうになかった。答えを出せたとして今の状態ではじたばたするのが関の山だが。
どうにか拘束を解こうと
「このモノレール減速しているのではないか?」
音の感覚が少し短くなっているような気がするのだ。それに振動も気持ち弱くなってる気がするのだ。それを証明するようにほどなくしてブレーキ音が響き始め、そのままモノレールは停止した。
そして先ほどまで感じなかった人の気配が近づいてきたと思ったら足枷を外され、無理やり立ち上がらされた。音や感触から立ち上がらせた人物は鎧か何かを纏ってるらしいことはわかった。それに一人ではなく複数人いることも。
「抵抗するだけ無駄か。数で抑えられるだけだな」
そう結論を出して背を押されるまま視界を閉ざされたまま歩いた。以前何かしらで読んだことに倣って歩数とまがった方向を覚えておこうとしたが歩数はまだしも方角に関しては自身を持てそうになかった。
複数の気配に囲まれたまま歩いてどれくらい経っただろうか。後ろ手を引かれて無理やり歩くのを中断させられた。
目的の場所についたのだろうがもっと優しく止めてくれてもいいと思うのだが。声をかけるとかさ。今まで一言もしゃべっていないしもしかして喋れないのだろうか。
そんなどうでもいい思考をしていると周囲の気配がすっと遠ざかっていき、消えてしまった。
「どこもわからない場所にどういう状況かもわからない状況で置いていくなよ」
そんな文句が思い浮かんだが猿ぐつわは健在でそれを口にすることもかなわない。
と急に視界が明るくなり、パサリと布が地面に落ちた。
気配は去ってもう誰もいないと思っていたがそこには一人の男が立っていた。ぴっちりとしたスーツに身を包んだ男は視認されたことを理解すると一礼した。
「改めてはじめまして。私はセンドウという。今回は君の案内役を務める。よろしく頼む」
センドウと名乗った男はそう言った後こちらの背後へと回った。それから程なくして手が自由になり、硬いものが地面に落下する音がし、気づけば口も自由になっていた。
「拘束を解いてよかったのか?」
久しぶりに出した声は少しかれていたがしっかりとセンドウへと届いたようだ。彼は肩を竦めてみせた。
「ここまで来れば逃げられないだろうからいいんだ。さて君は状況を理解している?」
正面に戻ってきたセンドウがそう尋ねてくる。その変化の乏しい表情からその質問の意図を読み取るのは無理そうだ。
「拘束されてここに連れて来られたこと以外は何も」
このセンドウという男も拘束した奴らの一味だろうが正直に答えておいた。何か情報を引き出せるかと思ったからだ。
「そうか。色々話さなければならないこともあるがひとまずは先に進もう。話はそれからだな」
センドウはそう言って前を歩き始める。後ろから襲われるとか逃げられるとか全く考えている様子がない。どうにだってできると思っているのだろうか。
ここで反抗しても仕方ないと思ったので黙ってついて行くことにした。
今いるこの場所は洞窟っぽい場所だ。それに人の手が加わっているようだ。モノレールの到着先が洞窟とはもしかしたらここは地下なのかもしれない。
周囲を観察しながら歩いていると大きな扉の前にやってきた。どうやらそこが目的の場所のようだった。
センドウが扉を押し開くと薄暗い洞窟に光が射した。扉の外に踏み出すと頭上には青空、眼下にはきれいな街並みが広がっていた。
地下なのではと思っていた分驚きが大きかった。覚えのないこの街は何なのか。
振り返って見るとセンドウはわずかに笑みを見せた。
「ここはこれから君が暮らすことになる街メルキアだ」
「メルキア? 暮らすとはどういうことだ?」
センドウはその問に目を細める。その瞬間気分的に周囲の温度が1度ほど下がったように感じた。
「君が、いや、君たちが罪を犯したからだ」
センドウは冷たく言い放つこちらに向けてというより大多数に向けて言うかのように。
「メルキアは罪人の街だ。
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