6-2
新見は斎藤のアリバイ確認の間を利用し、捜査本部に届いた仕出し弁当を食べながら、市立図書館で借りた「新新宗教総論」を開いた。農業団体から御光の家宗教法人設立迄の歩みや、設立後の活動内容が時系列で年表掲示され詳しく書かれている。教祖、大原 光洋の写真。天子、愛明夫婦と12使徒、それらを囲んでの信者達の写真。農作業に従事する研修者の写真等、掲載も充実していた。
一通り読んだ後コピーをとっていると、ある一枚に違和感を覚えた。満開の桜の木をバックに、天子 大原 愛明夫婦とそれを囲むように半円を描く信者達の写真である。
笑顔の愛明が妻の横に寄り添っている。いや、寄り添うと言うよりも、自力で立てない妻を支えている感じだ。その妻の表情はうつむき加減で、どこか暗い雰囲気が漂っている。囲む20名程の信者達が満面の笑みを浮かべているだけに、その表情が際立っているのだ。新見はその写真をカラーで拡大コピーした。
「あっ!」
新見の声に刑事数人がこちらを向いた。
「警部、どうかしましたか」
大木が声を掛けた。
「ああ、これを見てくれ」
新見は大木にコピーした写真を見せると、隅に写るひとりの信者を指差した。覗き込んだ大木は、
「あっ、これはっ!」
と、驚きの声をあげる。
「そうだ。天野 礼子だよ」
そこには両手を前で握り、カメラを睨み付けるような表情をした、若き日の礼子が写っていた。
エンジの上下のジャージに、カーキのMA-1ジャンパーを羽織っている。ジャンパーのサイズが大きいのか……前で握った両手は指先だけしか見えていなかった。新見は隣に写っている男性信者が上着を着用していなかったことから、ジャンパーは彼から借りたものなのかと、ふと思った。
写真右下には撮影日が記録されている。98.04.02とあった。
(礼子、15歳の春か……)
本来ならば高校入学式の時期だ。多感なこの歳に、高校進学出来ない無念の表情なのか……それとも、別の理由か……
…………無念。
(警察官の正義……被害者の無念を晴らす)
自身の言葉が脳内を駆け巡る。
この本との出会いは何かしら、礼子の無念に導かれた様な、そんな気がしてならない。
(山梨に行かねばなるまい)
新見はその時、静かに決した。
午後1時を回った頃、ドラッグストアに急行した捜査員から電話で連絡があった。17日の22時35分に、防犯カメラにレジで会計をしている斎藤の姿が映っていたという報告である。レシート記録を確認すると斎藤が供述した通り、タバコ、サンドイッチ、缶コーヒーの買い物履歴が記されている。タバコの銘柄も一致していた。レシート記録時間は22時37分である。
駐車場のカメラには、斎藤が歩いて桟橋方向に行く様子が映っていた。
報告確認後、斎藤は解放されパトカーで自宅近くのスーパー迄送られた。張り込みの為捜査員二人が乗った普通乗用車は、先にスーパーに到着している。
14時を回り大木から報告があった。
「警部、ガイ者の携帯が見つかりました。たった今、駅前派出所から電話がありました。これから回収に行きます」
「見つかったか、どこにあったんだ」
9月18日の早朝、駅前ロータリーのバス乗り場に設置してあるゴミ箱の中にあったスマートフォンを清掃職員が見付け、駅構内の忘れ物預り所に届けたが、翌日になっても落とし主が現れなかった。発見した場所が駅の外だったので、今日になり派出所に届けられたと言う。
派出所は、スマホ登録されている電話帳のマイプロフィールから天野 礼子のものだと解り、直ぐに三島署に連絡した。
「ゴミ箱、捨てたんだな……誰が、なぜそんなところに……」
新見にはどうしても腑に落ちて行かない。
「その清掃員に、スマホを見つけた状況を詳しく確認出来ないか」
「えっ、はい。あたってみます」
大木は答え、自身でも考えてみる。
「あっそうか。警部、私に行かせて下さい」
「はい解った。よろしく頼む」
新見は大木の反応に満足し、彼に任せることにした。
大木は、直ぐさま駅前派出所に車を走らせた。
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