第58話 現実:技術-兵器 デイジーカッター・「スラリー爆薬」 そしてMOABへ…

▼デイジーカッター(Daisy Cutter)は、

軍事スラングで、地表の構造物を薙払うように吹き飛ばす爆弾、あるいはそのような目的で作られた延長信管を指す。

そう、この爆弾は965mm長の延長信管により地表で起爆するのだ。


 デイジー(Daisy)とはヒナギクの英名のことで、ヒナギクは原産の欧州では芝生の雑草扱いのため、デイジーカッターは「雑草を刈るもの」という意味になる。

草を刈る……草薙?!


 代表的なものとして、アメリカ空軍が開発した総重量約6,800 kgの巨大爆弾、制式名称BLU-82B/C-130がある。


 なお、「デイジー・カッター」の名称は、本来、爆風・破片効果を最大限に活かすため、弾頭部に延長信管を取り付けたMk80シリーズなどの航空機搭載爆弾にも使用され、BLU-82/B固有の名称ではない。

 爆弾というよりは、爆発物を収納した巨大タンクとも言うべき形状をしている。

弾体は円筒形のタンクに円錐形の風防が取り付けられ、先端には長さ1.24mの信管プローブが取り付けられている。

プローブの先端部分にはM904信管を装着しており、衝撃波が周囲に効果的に広がる高さで爆発させる。



・概要

BLU-82B/C-130は、総重量15,000ポンド(6803.8kg)、炸薬として硝酸アンモニウムおよびアルミニウムを用い弾頭に内蔵する爆薬には炸薬重量約5,700 kgの安価なGSXスラリー爆薬

(硝酸アンモニウム、アルミニウム粉末、およびポリスチレン)を使用。

従来的な内部構造を持つアメリカの航空爆弾である。

*スラリー爆薬 (Slurry explosives) は1957年にメルビン・クックによって発明された。

水分10%~20%と硝酸塩60%~70%の混合物である。

泥状またはゲル状の爆薬で「スラリー」とは「ドロドロした物」という意味である。

威力を増すための発熱材としてのアルミニウム粉末や鋭感剤・架橋剤・粘稠剤を添加する。


 C-130またはMC-130輸送機などの貨物室のパレットに搭載され、目標地点上空で後部貨物ランプから投下される。

投下後はパレットを切離し、パラシュートを展開、減速しながら地上に向かって降下。

地上約1mの高さで先端に取り付けられた延長信管(プローブ)が地面に接触すると、起爆して爆心地付近で7MPaの非常に高い圧力を生み出し、

1平方cm辺り73kg(測定距離不明)の衝撃波を発生させ、地雷を爆発させたり、木々をなぎ倒すも距離が遠くなるにつれて次第に減少する。

この結果、クレーターを掘ることなく、地表付近で最大の破壊効果が得られる。

誘導装置がついていないため命中精度はよくないが、目標をピンポイントで狙って使用するものではないため、影響はないと考えることもできる。


 この兵器は、地上の固定レーダーもしくは機上航法装置を用いた航空機の正確な飛行に依存している。

地上レーダーの操作員、もしくは利用可能であれば航空機の航法手は、最終的な秒読みと投下の直前に、航空機を正しい飛行位置につける役割を果たす。

搭乗員が主に考慮することは、航法手によって提供される正確な弾道計算および風力・風向計算があり、また操縦指示を厳守した精密計器飛行である。

極めて強力な爆風効果のため、この兵器を投下する最低限の安全高度は地上レベルから1,800mとされる。


 この兵器はベトナム戦争中に開発され、「コマンド・ボルト」計画や、アフガニスタンでの戦闘、およびベトナム戦争で「デイジーカッター」の通称が付いたことが知られている。

これはこの兵器が当時、簡易ヘリポートを作るため爆発によって森林(ジャングル)の木を一気になぎ払うために使用されたからだった。


 もともとBLU-82B/C-130の元来の設計はベトナムの密林を即席に伐掃することであり、これはベトナムでヘリコプターの着陸地帯や砲兵の展開陣地を伐掃するためのものだった。

試験投下はCH-54、通称「フライングクレーン」ヘリコプターから行われた。


 後にこの兵器は、非常に巨大な爆風半径(1500mから1700mと様々に報告される)、そして離れた距離から判る閃光と音響といった理由から、対人兵器や威嚇兵器としてアフガニスタンで使われた。


 湾岸戦争時には地雷原除去のために使用されるも、きのこ雲ができるほどの強烈な爆発でその爆発を見た兵士の一部(報道によれば、イギリス陸軍SAS隊員)は戦術核兵器の爆発と誤認したほどであったと言う。

故にイラク戦争では、 BLU-82/Bの爆撃を受けたイラク軍は「アメリカ軍が原爆攻撃を行った」と報告した(雑誌『軍事研究』より)。


 本爆弾は今までに用いられた中で最大級の通常型爆弾の一つであり、

これに優る兵器は幾種かの地震爆弾、燃料気化爆弾、また地中貫通爆弾が存在するのみである。

これらのうちの幾つかには第二次世界大戦後期に出現したグランドスラムやT12地中貫通爆弾があり、現代のものとしてはロシア空軍の全ての爆弾の父、またアメリカ空軍のMOABや大型貫通爆弾が存在する。

「BLU」の名称は「Bomb Live Unit」を意味し、練習に用いられる「BDU」、

すなわち「Bomb Dummy Units」と対比している。


 BLU-82/Bに限らず、デイジーカッターは、しばしば燃料気化爆弾であると不正確に報道される場合があるが、これは間違いであり、区別すべきである。

なぜなら、爆発時の衝撃波を利用する点では同じであるが、爆発物と爆発のメカニズムは異なるからだ。

この間違いは、現在一般に流れているBLU-82/Bについての情報を、マスコミなどが独自に推定したことから広まっている。


 燃料気化爆弾は可燃性を持つ液体と散布装置から構成され、これらの酸化剤として空気から酸素を得るため、所定の高度において、近接信管によりエチレン酸化物等の雲を形成、

これに点火・爆発させる仕組みであるのに対して、BLU-82/Bは

地上高1.24mで内蔵したスラリー爆薬を爆発させるだけの単純な爆弾でしかない。


 また一般に燃料気化爆弾は225kgから900kgで作動するため、デイジーカッターのような寸法の燃料気化爆弾を製造するのは困難である。

理由は薬剤が非常に広範囲に散布された際、可燃性の薬剤と外気とを正しく均一に混合し、維持するのが難しいことによる。

特に強い風や熱の勾配があるとき、従来の爆発物はこの点でずっと信頼性がある。

但し後年ロシアは7.1t級サーモバリック爆弾FOAB(全ての爆弾の父)を開発している。


 また、「スラリー爆薬にアルミニウム粉末などが混合されている」との情報から、BLU-82/B は粉塵爆発を動作原理としているとする報道やWebサイトがあるが、これも完全な誤解である。


 アルミニウム粉末を空中に散布して爆発させるためには、濃度などの厳しい条件を満たす必要があり、信頼性に欠け、実用兵器とはなり得ないと考えられている。

火薬学においてよく知られているように、爆薬の猛度を高めるためのアルミニウム粉末の添加はTNTやRDXでも一般的に行われており、欧米では発破作業に用いるスラリー爆薬にもアルミニウム粉末が添加されることが多い(日本では法規制のため行われていない)。

使用目的が破片による人員殺傷や機材の破壊ではなく、爆風によって森林などの構造物を薙ぎ払うことであれば、アルミニウム粉末の添加は適切と考えられる。


 南ベトナム軍のVNAF所属航空機はベトナム戦争の最後の数日間、スアンロクの戦いでベトナム共和国陸軍の兵員を支援するため、ベトナム人民軍の展開した区域へと自棄的にBLU-82爆弾を投下した。

マヤグエース号事件の最中、MC-130は、コー・タン島から撤退しようとするアメリカ海兵隊の支援としてBLU-82を一発投下した。

1991年の湾岸戦争では、5回の夜間作戦中に11発のBLU-82Bが輸送され、投下された。

これら全ては特殊作戦用のMC-130コンバットタロンから実施された。

最初の投下では、爆弾が地雷原を除去もしくは啓開する能力があるかを試したが、しかしながら地雷除去の効果について信頼のおける評価は一般公開されていない。

爆発力の大きさと、発生する巨大なキノコ雲が敵に与える心理的効果は大きく、イラク戦争では国防総省が「衝撃と畏怖」戦略の一環として、

対人兵器として使用することを勧めたといわれ、この後本爆弾は対人殺傷効力と同様に心理的効果によって投下が行われた。

アメリカ空軍はアフガニスタンのターリバーンとアルカーイダの基地を掃討中、数発のBLU-82を投下した。

これは攻撃および兵員の士気をくじくためで、

また地下施設・壕などの構築物を破壊するためでもあった。

アメリカ軍は2001年11月に本爆弾を使い始め、一カ月後アフガニスタン東部で行われたトラボラ戦の最中に再び爆弾を使用した。


 この爆弾は255個が製造されたが、

2008年7月15日、アメリカ空軍が保有する最後のデイジーカッターがユタ州の演習場に投下され爆破処分された。

後継装備としてより強力なMOAB(Massive Ordnance Air Blast bomb)に代替された。



・MOAB(大規模爆風兵器)

MOABは、米空軍が保有する通常兵器で最大の破壊力を持ち、重量9752kg・全長9.14m・弾体直径1.03mと超大型な爆弾です。

制式名称GBU-43/Bであり、デイジーカッターBLU-82/B の後継兵器であることがわかります。

あまりに巨大な爆弾のため通常の爆撃機には搭載できず、C-130やC-17などの大型輸送機の後部貨物扉からMOABを載せたパレットごとパラシュートで引き出されて空中投下されます。


 前世代のデイジーカッターはパラシュートで投下されますが、MOABはパラシュートが付いたパレットから切り離された後はGPS誘導で展開した格子状のフィンで方向を制御するため、命中精度は良く、また高高度から投下できるため敵の対空砲火を浴びる危険性が少ないのです。


 MOABは爆発の瞬間、周囲数百メートルを吹き飛ばします。

爆発後しばらくすると、舞い上がった周囲の土ぼこりが、爆発の中心に向かって吸い込まれています。

爆発によって押しのけられた空気が元に戻る際の負圧と、高熱によって生じた上昇気流に吸い上げられた空気が吸い込まれているのです。

この現象、核兵器が使用された時と同様の現象です。

それほどMOABは強烈な爆発を起こすということです。


 このMOABの開発目的は、ならず者国家の指導者やテロリストたちを脅すために開発されました。

MOABが投下されると、投下ポイントを中心に数百メートルは廃墟になります。

また、それ以上に離れていても強烈な爆音と閃光、爆風が襲います。

一度MOABを見た兵士は、驚き恐れるでしょう。

また、米軍がいつでもMOABを使用できる状態にあり、いつでも実践投入可能であるということは、ならず者国家指導者やテロリストたちは、MOABが投下された場合を想定して訓練しなくてはなりません。


 例えば、部隊同士の距離を空けて全滅を避けることや、重要施設の距離間隔を広くするなどです。

ならず者国家の恐れることは、ならず者国家自身がよく知っているのですね!

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