第56話 現実:技術-兵器 燃料気化爆弾・「酸化エチレン」「酸化プロピレン」

▼燃料気化爆弾(ねんりょうきかばくだん):気化爆弾による蒸気雲燃焼爆(Fuel-Air Explosive, FAEまたはFAX)は、爆弾の一種である。

なお、日本では「燃料」が抜けて、単に【気化爆弾】とも呼ばれる。

気化冷凍法とはまったく関係無い。


 燃料気化爆弾は通常の爆弾とは違って爆発によって金属片などを撒き散らすのではなく、搭載している液体燃料を気化させて周辺の酸素などを巻き込んで燃焼爆発する爆弾です。

爆発によって発生しする風圧の衝撃波と熱などによって爆撃できる特殊な仕組みです。

 

 その仕組みは搭載している液体燃料あるいは爆薬を気化させて点火します。

気化した燃料や爆薬は数千倍に膨れ上がって爆発するので、通常の爆弾が爆発する範囲の数千倍の威力を発揮することになります。

爆発による風圧は、爆薬の体積によって決まります。

液体や固体を気化させると、その1000倍以上の体積に膨張することから、燃料気化爆弾は通常の爆弾の数千倍の巨大爆弾が爆発することと同じ風圧を生み出すのです。


 燃料気化爆弾はベトナム戦争で初めてアメリカが使用してから湾岸戦争やイラク戦争でも使われました。

BLU-96などの投下型からグレネードランチャーまで使えるものがあります。

アメリカは人的威力についてはあまり考えずに、対象地域の対人地雷撤去に最適な方法として使用しているとされています。

しかしアメリカ軍の使用頻度からして巻き込まれた兵士の数などは数え切れないでしょう。


 その威力は核兵器(A兵器)に次ぐ威力と言われていて、その威力と爆破に使う燃料が土地を汚染することから一部の有識者の中で「貧者の核兵器」などと呼ばれています。

*貧者の核兵器

核兵器に比べ製造費用が少なく材料の入手が容易で、簡単な技術・設備で製造が可能なことからその名が付いた。

他にも生物(バイオ)・化学(ケミカル)兵器(BC兵器)のことを指す場合も多い。

その他、核爆弾のような核分裂は起きないが、放射性廃棄物などに火薬を取り付け爆発・放射性物質を飛散させ、生体や環境を汚染させる汚い爆弾(ダーティーボム)なども含む大量破壊兵器をも指す。


 これらABC兵器は、非人道兵器として規制が議論されている兵器である。

しかしならば人道兵器とはなんなのであろうか?

なお、現在はNBC兵器( 核(Nuclear)、生物(bio)、化学(Chemical) )と呼ばれる。

ただ、軍縮・軍備規制の交渉では「核兵器およびその他の大量破壊兵器」という表現がよく使われる。



 イラク戦争で使われた時にはその爆発はまさに核兵器のような有様で使われた側のイラク軍だけでなく、味方のイギリス特殊部隊「SAS」ですらも、まるで核兵器のようだったと証言しているほどです。


:概要

 旧来からのものは火薬ではなく「酸化エチレン」「酸化プロピレン」などの燃料を、あくまで加圧沸騰させる為だけに一次爆薬を使用してBLEVEという現象を起こさせることで気化させて空中散布するものである。

なんと機体的なポンプなどの装置は使用しないのだ。

*BLEVE(ブリーブ、ブレビー、英: Boiling Liquid Expanding Vapour Explosion)は、液体の急激な相変化による爆発現象である。

具体的な例で言うと、煙が出るほど熱く熱したフライパンに水滴を落とすと水が爆発するように蒸発するように通常の蒸発と違って一気に熱が加わる事によって気化して拡散します。

BLEVE(ブリーブ)という現象が明らかになったのは、フランス・リヨンの郊外にあるフェザンという町のフェザン製油所 (ウニオン・ド・ゼネラル・ド・ペトロール)で大規模な爆発火災事故が発生したときだと言われ、このBLEVEという爆発現象による事故から、これを兵器に応用した物と思われている。

また中身の液体が高温高圧の水である場合には、特に「水蒸気爆発」と呼ばれる。


 日本語では「沸騰液膨張蒸気爆発」や「沸騰液体蒸気拡散爆発」などと訳される。

加圧容器に貯蔵されている液体物質は、その時の『気液平衡状態』にあるが、火災により容器が加熱されていると容器内の液体は、その物質の大気圧のもとでの沸点より十分に高い温度まで加熱され、圧力も高くなる。

*気液平衡(きえきへいこう)とは、化学平衡の一種で、液体から気体になる蒸発・気化反応と、気体から液体になる凝縮・液化反応の速度が等しくなり、結果液体と気体の量が変化しなくなっているように見える状態のことである。

溶液の場合は蒸気圧降下が起こるために、一概に気液平衡の状態は同じにはならない。

物質の沸点とは、その物質が液相にあるときの蒸気圧が外圧に等しくなる温度である。

また、物質の昇華点とは、その物質が固相にあるときの蒸気圧が外圧に等しくなる温度である。


 この状態で容器が破裂すると当然容器内部の圧力は瞬間的に大気圧にまで低下する。

この時に容器内の平衡状態が破られ、圧力低下により液体は一気に突沸し、液体の可燃性物質が気体になり、そこへ着火することで爆発現象を起こすことができるのだ。


 液化石油ガスなどでは、さらに拡散して空気(酸素)と混ざったガスが『自由空間蒸気雲爆発』」を起こす。

*自由空間蒸気雲爆発(じゆうくうかんじょうきくもばくはつ)(Unconfined Vapor Cloud Explosion、略称:UVCE)とは

可燃性物質が漏洩後直ちに着火せず、

可燃性物質の蒸気が大気中に雲のように拡散したのちに着火爆発する現象である。

通常は開放された空間で起きる現象であるため、省略して「蒸気雲爆発」と呼ぶ場合が多い。


 これらは従来、液化石油ガスなどの常温常圧で気体になる物を高い圧力で液化して収納している容器、あるいは、そのような液体を輸送するためのパイプラインや配管などが火災などによって破壊されたときに起きる特殊な現象である。


 液化天然ガスや石油関連のプラントでこの現象が起きると単なる火災に留まらず、大規模な爆発事故へと発展して被害が拡大する場合が多いため、正確なリスク評価のために重要な概念である。

そのため、この現象によって発生する爆風などをシミュレートするソフトウエアも存在する。

この現象を人為的に起こす兵器が「燃料気化爆弾」である。


 燃料の散布は実はポンプなど機体的なものによるものではなく、あくまでも燃料自身の急激な相変化によって行われるため、なんと驚異の秒速2,000mもの速度で拡散する。

このため、数百kgの燃料であっても放出に要する時間は100ミリ秒に満たないと言われている。


 爆弾が時速数百kmで自由落下しながらでも瞬間的に広範囲に燃料を散布できるのはこのためである。(宇宙刑事ギャバンの蒸着(コンバットスーツの装着)所要時間が「0.05秒」であり、宇宙刑事シャリバン・宇宙刑事シャイダーに到っては、わずか「1ミリ(0.001)秒(千分の1秒)」で赤射蒸着・焼結を完了する。)


 こうして燃料の散布が完了すると燃料の蒸気雲が形成されるので可燃性物質が漏洩後に直ちに着火せず、可燃性物質の蒸気が大気中に雲のように拡散(燃料の蒸気雲が形成)され、大気中の空気(酸素)と混合したのちに着火爆発することで【自由空間蒸気雲爆発】現象をおこさせ爆弾としての破壊力を発揮する。(燃焼に必要な3つの要素である可燃物、酸素供給体、点火源を「燃焼の3要素」といいます。

ここ、危険物取扱者の試験に出ます。

この3要素のどれか1つでも欠ければ、燃焼は起こりません。

逆に、消火したい場合は3要素の1つでも除去できればよいということになります。)


 これらの研究は第二次世界大戦中のドイツで始まり、石炭粉と液体酸素を利用したタイプが試作され、クリミアなどの戦場やワルシャワなどの街戦で実験的に使用されていたのだが、軍事的に満足のいく実用性を確立しないうちにドイツの敗戦によって研究が途切れてしまった。だがしかし鬼畜アメリカにより研究が再開され、1980年代にようやく実用化された。


 この他ミサイル・ロケットなど数多くの研究成果を奪って独自発展させたアメリカは、ナチスを悪魔と呼びながら、むしろ悪魔の上前を撥ねる大悪魔である。



:性能

 都市ガスによるガス爆発事故のように、爆鳴気の爆発は空間爆発であって強大な衝撃波を発生させ、12気圧に達する圧力と2,500-3,000℃の高温を発生させる。


 加害半径は爆弾のサイズによって様々であるが、一般的には数百mと推定されている。

広範囲に衝撃波を発生させるため、特に人体に多大な影響を与える事で知られる。


 音速で飛行する航空機からでも投下は可能。

また一定高度にあるヘリコプターから投下するタイプが湾岸戦争などで使用され有名になった。

最近ではロケットランチャーや携帯ロケット弾からグレネードランチャーまで幅広く装備が進んでいる。


 燃料気化爆弾の破壊力の要諦は爆速でも猛度でも高熱でもなく、爆轟圧力の正圧保持時間の長さにある。

つまり、TNTなどの固体爆薬だと一瞬でしかない爆風が「長い間」「連続して」「全方位から」襲ってくるところにあると言って良い。


 燃料気化爆弾による傷は爆薬によるものとは異なった様相を見せる。

これは、燃料気化爆弾が金属破片を撒き散らさないで爆風だけで被害を与えるためである。


:起爆プロセス

航空機などから投下され一定の高度(起爆高度)に達すると信管が作動する。

信管が作動するとRDXなどの一次爆薬が起爆して液体燃料を加圧沸騰させる。

通常温度で液体が沸騰する温度よりもかなり高熱に加熱するも沸騰した液体燃料は耐圧容器に密閉されているため圧力を掛けられ沸騰しないので、高温になっても気化することができず、高温高圧の液体の状態でいる。

圧力が限界点に達した瞬間に圧力壁が破壊・放出弁が開き、溜まった圧力が解放されることで急激な圧力低下によって液体燃料が爆発的に沸騰し蒸発して秒速2,000メートルもの高速で噴出・拡散する。

このような現象をBLEVEと呼ぶ。


液体燃料が蒸発して蒸気雲が形成・拡散した燃料と空気が適度に混合された瞬間に、これに2次爆薬を点火することで着火、炸裂し自由空間蒸気雲爆発を起こさせる。

この間、わずか0.3秒前後である。


:TNTとの比較

TNTなどの固体相の爆発と燃料気化爆弾などの気体相の爆発を直接的に比較することはできない。

両者における爆轟メカニズムそのものが異なるためである。


 具体的に固体相と気体相の爆発を比較すると、単位時間当たりのエネルギー発生速度という点では固体相のほうが高くなるのに対して、重量当たりの発生熱量という点では燃料気化爆弾のほうが高くなる。


 また、爆轟の伝播は固体相では衝撃波による断熱圧縮によって伝播するのに対して、気体相の爆発では爆燃によって伝播する。


 そのため、爆轟の伝播速度そのものは固体相のほうが速く、界面点に近い場所での爆轟圧力も固体相の方が強くなる。

これに対し、正圧保持時間の点では気体相の方が長くなる。

このように両者は物理的特性が相異するものである。


 したがって、両者の兵器としての威力を比較するためには、最終的な対象物(例えば敵兵)への影響を対比するしかない。


:敵兵の殺傷力という観点からの比較

・従来の爆弾の殺傷原理

従来の爆弾では「爆弾外殻の断片を高速で衝突させ人体を損傷させる」

という原理に頼って殺傷半径を得ている。

そのため、金属片を高速で飛翔させることで人間を殺傷するという点では

機関銃などとまったく同じである。



:燃料気化爆弾の殺傷原理

燃料気化爆弾は金属片などではなく爆風衝撃波そのものによって人体を損傷させる。


 爆風は距離の三乗に比例して弱くなるが気体相の爆発は

この距離の基点が爆轟する気体相の界面点になるため、燃料を半径10メートルの気体相になるように撒けば、半径10メートルの爆弾が爆発したのと同様の状態となる。


 つまり、燃料気化爆弾とは密度が低い低威力の巨大な爆薬の塊が投下されたのと同じ効果を持つわけである。


:機能・性質とその扱い

破片による被害は少ないが、急激な気圧の変化による内臓破裂などを起こさせる。


 よく、燃焼により酸素を消費しつくして窒息死させると表現されているが、これは正確な表現ではない。

人体は1kgf/cm2 程度の爆風(=風)でも急性無気肺や肺充血を起こす。

さらに、一酸化炭素を大量に含んだ酸素バランスが悪いガスが襲い掛かってくるため(それ自体は致死的なほど重篤ではない)、酸欠と一酸化炭素中毒と呼吸困難を同時におこすことになり、窒息死したような死体ができ上がるためである。


 また、気密構造でない粗末な壕や一般建築物に避難/隠匿された兵士やミサイル車両

(たとえばスカッドや核ノドン)の破壊には有効だが木造建築物さえ倒壊半径は殺傷半径の1/3であり、

気密構造の建築物ごと倒壊させて殺傷する場合、有効半径は1/6-1/3、5-12mになり、

実行困難な程多くの航空機や爆弾が必要になってしまう。


 つまり、所在の掴めない隠匿されたミサイルや火砲を絨毯爆撃で破壊する場合、

FAEは従来爆弾に比べ効果の確実性がより高いとはいえ依然完璧ではない。

崖に簡易な横穴を掘って隠匿したミサイル車両の破壊は従来爆弾では難しく、

FAEではある程度可能だが、気密扉が付いた堅固な横穴ならFAEでも

中に隠匿されたミサイル車両の破壊は困難である。


 さらに、燃料に使われている酸化エチレンや酸化プロピレンは、

どちらも殺菌や殺虫などに用いられる薬品で、

日本では労働基準法施行規則別表第一の中で有害性が中度な有害物に指定されている。

つまり、燃え残った燃料が大地に広がっただけでも危険という事である。


 一方で同兵器を開発・保有しているアメリカでは、積極的に運用したがる傾向も見られる。

特に広範囲に敷設された対人地雷の処理には、

この兵器による対象地域の一掃が「最も効率がよい」と考えられている。


 なお、1990年代初頭の湾岸戦争において、

広範囲の砂漠に分散して砂中に隠されたイラク軍戦車部隊や随伴歩兵らの兵力を削ぐべく同兵器が使用されたが、(これにより多数のイラク兵が同兵器作動時に発生する巨大な火球によって塹壕や戦車の中で蒸し焼きになって焼き殺されたり、で目立った外傷も無く)圧死した。


:燃料気化爆弾に関する誤解

 燃料気化爆弾は周囲を酸欠にしてその場にいる人間を窒息死させると言われることがあるが、厳密には上記されているように急性無気肺と一酸化炭素中毒と酸素分圧の低下による合併症による窒息死である。


 また、燃料気化爆弾を真空爆弾と報道される場合もあるが、燃料気化爆弾は酸素濃度の低下はもたらすが当然真空状態を作るわけではなく不適切な呼称である。


 一部マスコミでデイジーカッターを燃料気化爆弾と報道している場合があるが、これは別物である。

利用するのが爆散する破片ではなく強力な爆風であるという点はデイジーカッターも同じだが、デイジーカッターは単なる巨大な爆弾であって、気化爆弾などではない。

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