第52話 現実:技術-兵器 「ガントラック」 - 軍用品:ディセプティコン -

 戦時中の敵の掃討を終えていない地域や極端に治安の悪い地域では、トラックが単独で移動すると盗賊やゲリラなどの標的となり、例えば米独潜水艦に襲われた輸送船のように目的地に到着できない事例が多発してしまう。


 これに対抗するために、戦車や装甲車・ガントラックなどで護衛した車列を組んで輸送を行う英語で言うとコンボイ(Convoy)と呼ばれるそのような集団を構成することで、小規模な盗賊やゲリラでは襲撃が困難な状況を作り出し、それ等の敵に襲撃を断念させることを最大の目的としている。

そのため、危険度の高い場所では周囲の警戒と威圧のため、砲口や銃口を常に周囲に向けながら移動することがある。


 だが、都合よく護衛用の戦車や装甲車 等はなかなか数が揃わない、だから……




★ガントラック(Gun Truck):ディセプティコン

 ガントラックは、小型もしくは中型の軍用輸送用トラックのキャビンと荷台に装甲を施し、機関銃や機関砲、グレネードランチャーなどの武装を装備した即製戦闘車輌(Improvised Fighting Vehicle)

謂わば現代に蘇った移動するウォーワゴン(War wagon)である。


 ゲリラ対策として活躍したのがこれらガントラックと呼ばれる車両でした。



 純粋に戦闘車両として見た場合、

路外走破能力は低い上に装甲は薄く、上部に装甲は装備されないために防御力も低く、その屋根の無い簡易的な装甲は待ち伏せを仕掛けるゲリラには隙だらけな代物であくまでも簡易戦闘車両に過ぎない。


 これは現地の補給部隊が有り合わせの資材と武器で軍用トラックを現地改修した為統一された仕様はなく、様々なバリエーションが存在したとされる、いわゆるザクタンク状態である。


 これ等は、特にベトナム戦争やイラク戦争に代表されるゲリラ相手の非対称戦争の場合、航空攻撃を考慮する必要は無く想定される敵の武装もアサルトライフルや機関銃・対戦車ロケットランチャーなどの小型武器に限定されることもあり、苦肉の策として輸送部隊が大量に保有する小型・中型の軍用輸送トラックのキャビンや荷台に軽装甲を施し、機関銃や機関砲・グレネードランチャーなどの対人・対非装甲目標用の武装を装備した即席の護衛用戦闘車両として製造されたのだ。

これがガントラックである。


 場合によっては足回りを破壊された前線で損傷した装甲兵員輸送車などの軽装甲車両の車体をトラックのシャーシに組み合わせて魔改造されたリサイクル兵器とも言える。


 近年ではあまりに貧しいロシアの近隣諸国などが対テロ作戦でテロリストのアジトなどを摘発する際に武装車輌が無いのを憐れんで、ガンポートを付けた車両が活躍している。


 地域紛争でゲリラや民兵が使用するピックアップトラックや小型トラックの荷台に重機関銃や機関砲を搭載したテクニカルと本質的には同じである。

しかしそのテクニカルは制式兵器ではなく、現地調達の各種トラックを改造する手作りの兵器であるため、ベース車両や搭載兵器も多種多様である。





▼具体例として:

・アメリカ軍はベトナム戦争においてM35 2.5tトラックやM54 5tトラックの荷台に4廷程度のM2重機関銃を装備したガントラックをコンボイ護衛に使用した。


 湾岸戦争やイラク戦争においても、M939 5tトラックやHEMTT重輸送トラック、FMTV輸送トラック、MTVR輸送トラック、ハンヴィー等様々な非装甲の軍用車両が、塗装もされていないありあわせの鉄板を装甲板として取り付け、M2重機関銃やM134ミニガン、M240機関銃などで武装したガントラックとして使用された。


 装甲板に、ハンヴィーのフロントウィンドウを流用するなどして、ある程度防弾能力を持ったガラス窓を付け、周囲の視察能力を高めたものも見られる。


*M35 2.5tトラックは、第二次世界大戦後にアメリカ合衆国で開発・運用された、軍用6×6輪駆動の2.5tトラックである。


 設計には極端に先進的な技術などは使われず、シンプルかつ保守的で堅実な設計となっており、信頼性は高く、アメリカ軍に導入後程なくして中型クラストラックの中核を占める存在となった。


 1950年代-2000年代まで、何度かの改修を受けながら導入後約50年以上に渡って、アメリカ軍及び世界中の輸出先で運用が続けられることとなった。


 開発と同時期に発生した朝鮮戦争には、CCKWおよびその後継のM135 2.5tトラックが主に使用されていたが、ベトナム戦争時にはM54とともにM35がアメリカ軍トラックの中核となっており、多数が投入され活躍した。


 1990年代末頃からは後継のFMTVシリーズに更新が始まったが、一部の車両は2003年のイラク戦争にも派遣され、多くの輸出先でも現役使用が続けられていた。


 これは湾岸戦争後の1994年になって、一部のM35A2に対する寿命延長プログラム(Extended Service Program, ESP)が適用され、キャタピラー社製3166 ディーゼルエンジンへの換装、変速機をマニュアルからオートマチックに変更、大径14.50×R20の全地形対応ラジアルタイヤの装着(後輪はシングルに変更)およびその他各部の近代化改修が実施されたからだ。

この第三次改修(ESP)を適用した車両はM35A3と呼称される。


 ただこの頃には、アメリカ軍では後継車種であるFMTVが配備され始めている時期であった事もあって、M35A3への改修を受けた車両は1,800-2,000両程度で緊急措置的なものに留まったとされる。


 ジムIIIか!?

 

 だがM35 2.5tトラックとほぼ同時期に開発された、非常によく似たデザインのM54 5tトラックが、1970年代にはM809、1980年代にはM939に更新されていったのとは対照的であるとも言える。


*M54 5tトラックは、第二次世界大戦後にアメリカ合衆国で開発・運用された6×6輪駆動の5tトラックである。

開発が始まったのは大戦終了直後の1946年頃からだが、1952年にようやく制式化された。

オフロードで約5トン、舗装道路では10トン近くの積載量を持ち、1980年代になってM939 5tトラックシリーズが登場するまでアメリカ軍で現役使用が続けられた。


 その一部は武装として、M16対空自走砲に搭載されていた、M45 4連装M2重機関銃座を搭載した。

これはベトナム戦では内陸部の補給路が長くなり、補給部隊のコンボイを護衛するための車両として、M54カーゴトラックをガントラックに改造する例もしばしば見られたからだが、これらのガントラックには当初、M35 2.5tトラックが多用されたが、防御力・火力を強化するため、より積載力のあるM54系にシフトしていったとみられる。


 多くの場合、キャブと荷台の周囲に鋼鉄製の装甲板を装着し、全周をカバーできるよう、4丁程度のM2重機関銃を装備する例が多かったが、中にはM16対空自走砲に搭載されていたM45 4連装M2重機関銃座を搭載した車両や、装甲板を付ける代わりに、M113装甲兵員輸送車の車体を荷台に搭載した車両もあった。


・ソビエト連邦軍では、アフガニスタン侵攻において、ウラル-4320トラックの荷台に対空機関砲ZU-23-2を積載してガントラックを仕立てあげ、ZSU-23-4シルカと共に輸送車列の護衛に使用した。


*ウラル-4320は、ソ連時代の1977年に生産が開始され、ウラル自動車工場で設計・製造された6×6の多目的・オフロードトラックであり、現在も生産が続けられウラル-375Dの発展型として様々なバージョンが存在している。

ソビエト連邦軍において輸送・補給などの兵站を支える中心的役割を果たしたベースとなった機体の優秀さもあって汎用性は高い。


 当初はソビエト連邦軍が、現在ではロシア軍が軍用トラックとして使用し、旧ソ連から独立した各国の軍でも引き続き使用されており、その他の国へもロシアから輸出されている。


 頑丈で修理が簡単で信頼性があるトラックで、総輪駆動という車軸構成により貨物や人員・トレーラーや牽引式榴弾砲をあらゆる形態の道路や地形で運搬・牽引できる。


 また多連装ロケットランチャーを搭載したBM-21 "グラート"の車台としても使用され、バリエーションとして4×4仕様のウラル-43206が存在している。


 軍用以外でも民間仕様として通常のトラックや給油車が販売されているほか、消防車、ごみ収集車、木材運搬用などが存在する。


 ソ連のアフガニスタン侵攻においてソビエト連邦軍は、ウラル-4320の荷台に対空機関砲ZU-23-2を積載してガントラックを仕立てあげ、ZSU-23-4シルカと共に輸送車列の護衛に使用した。


*ZSU-23-4 シルカは、ソビエト連邦で開発された自走式高射機関砲である。



・イスラエル軍では、1948年から49年にかけての第一次中東戦争(イスラエル独立戦争 - ジークジオン)において、イスラエル国防軍がアラブ系勢力から輸送コンボイを護衛するため、トラックなどを改造して製作したサンドイッチ装甲車と呼ばれる(即製戦闘車両の総称)即製装甲車を多用した。


 これらの装甲車は、アメリカ製やイギリス製の軍用非装甲輸送トラックに装甲板を取り付け、ドイツ製のMG34機関銃で武装した改造武装車両で、その用途・目的や構造などから、ガントラックの一種であると言える。

サンドイッチ装甲トラック(Sandwich Armored Truck)などと呼ばれる事もある。


 また、単に、即製装甲車(Improvised Armoured Car)と呼称される事もある。


 当初、第二次世界大戦時にアメリカ軍やイギリス軍で使用されていたトラックやジープ、ダッジ ウェポンキャリアのような非装甲の車両に、鋼鉄製の装甲板を装着する方法で製作されたが、充分な防御力を持たせようとして厚い装甲板を取り付けると自重が増して、機動力が著しく悪化するという問題が発生した。


 そこで、2枚の薄い鋼板の間にベニヤ板のような材料を挟み、中空装甲として軽さと防御力を両立する案が採られた。


 そして、2枚の鋼板で木材などをサンドイッチした装甲板を使ったというところから、サンドイッチ装甲車と呼ばれるようになった……ミニ四駆の中抜き軽量措置か!?


 これらの装甲車の中には、上面から手榴弾などを投げ込まれる事を防ぎつつ重量を増やさないために、装甲車の天板に装甲板ではなく、開閉式の金網を装着する例も見られた。


 そして、金網を上に開けて、装甲車の内部から外に向かって銃撃が行える機構を持たせていた。


 この、金網を上に開けた状態が"蝶"のように見えることから、バタフライ装甲車(Butterfly Armored car、Butterfly Armored Truck)と呼ばれる事もある。


 また、イスラエル軍は第一次中東戦争当時、M3スカウトカーやM5ハーフトラックのような装甲車も入手し、サンドイッチ装甲車と同様に、

ドイツ製のMG34機関銃を装備した装甲銃塔を装着するなど独自改修を行い使用したが、これらの車両もまとめてサンドイッチ装甲車として扱われる事もある。


 つまり、元々の「中空装甲を装着したトラック改造の装甲車」という意味だけでなく、「第一次中東戦争でイスラエル軍が使用した改造装甲車」全体の総称(代名詞)としての意味も持つ名称となっている。


 サンドイッチ装甲車は主に第一次中東戦争での戦闘やコンボイの護衛で使用されたが、民間人の通勤、通学の安全を守るための装甲バスタイプの車両も製作され使用されていた。


 これらの車両はサンドイッチ装甲バス(Sandwich Armored Bus)と呼ばれ、主に病院への職員・患者などの移動に使用されていたと見られる。


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