第11話 ファンタジー:種族-妖精-ケット・シー(スコットランド・ノルウェーの民間伝承出典)

▼ケット・シー (Cait Sith)

 スコットランド・ノルウェーの民間伝承が出典でスコットランドの高地地方に棲むという猫の妖精の一種、或いはケルト神話、あるいはアイルランドの伝説に登場する猫の姿をした妖精のこと。(ケットが「猫」。シーが「妖精」を意味する、同じアイルランドの伝承にある「バンシー」の「シー」も同じ語源である。)


 物語「長靴をはいた猫」の原型であったり、ゲームのキャラクターとして登場する。

なお、同じような妖精にクー・シー(犬の妖精)がいるが、こちらは人間じみたケット・シーとは違って、常に四本足で歩くケモノの姿をしている。


 また彼らは『猫の貴族』とも呼ばれ、宗教の影響で悪魔扱いされた時期もあるが、二カ国の言葉を操る者も居て高等な教育水準だということが窺えファンタジーでも、度々想像の源泉とされる。


 一般的に見た目が猫であるが、性格は表現媒体にもより、おどけた道化師のように振る舞う場合や、気品を感じさせる振る舞いをするものもいる。


 容姿については普通、あるいは犬くらいの大きさがある黒猫で胸に大きな白い模様があると描写されるが、絵本などの挿絵では虎猫や白猫、ぶち猫など様々な姿で描かれる。

それ以外の毛色や大きさのケット・シーが出てくる話もよくあるが、一方で人間の姿になる話はあまりない。


 また、彼らは通常人間に危害を加えることはない人間に仇なすような存在ではないが、ただし人間が猫を虐待した場合は彼らの王族がその不届き者を王国まで引っ立ててゆくと言われ一般的に猫を虐げる者には容赦しないという。

そう、ケットシー達は木のうろの中や廃屋に自分たちの王国に続く道を持っており、そこには人間同様に王族や僧侶や一般市民がいるというのだ。


 このことからケット・シーは人前ではただの猫のように装うが、その本性は二本足で人間のように動き人語を解すどころか多数の言語と魔法を操る種族とされ、その上どうやら王制を布いて生活しているらしいことがわかる。


 ヨーロッパでは、猫は魔女の象徴(化身とも使い魔とも)と考えられてきたこともあり、キリスト教の土着神話否定によって悪魔として解釈されることもある。


 この他アイルランドの民話に限らず、ケット・シーはファンタジー系の創作作品でもよく見かける存在である。

扱いこそ様々だが、総じて原典通りの二足歩行の黒猫姿で登場することが多い。



逸話:完全に日本の猫又、化け猫の類である

 1人の農民が満月の夜帰宅の途に着いていた。


村境のある橋の上に猫が集まっていたので好奇心からこっそり様子を伺ってみたところ、猫たちが葬式のような行事を行い人間の言葉でしゃべっているのに仰天する。


 猫たちは口々に「死んだ、死んだ」「王様が死んだ」「猫の王様が死んだ」「チム・トルドラムが死んだ」「なら次はトム・チルドラムが猫の王様に」「猫の王様になる」と意味不明な話を交わした後一匹残らずどこかへ逃げ去ってしまった。


 不思議な気持ちを抑えきれず翌日妻にその話をしていたところ

「お、おじいさん! トムが! トムが!」

暖炉のそばで眠り込んでいたはずの愛猫がいきなり飛び起きた。


「何だって!? チム爺さんが死んだ? だったら今度は僕が猫の王様だ!」


飼い猫のトムはそう叫ぶと『笹食ってる場合じゃねえ! 』とばかりに


煙突から風のように外に飛び出して行き、恩知らずにも二度と帰ってはこなかったと言う……


 この夜な夜な猫が空き地に集まる「猫の集会」。

なにも夜に限ったことではなく猫の習性としてみんなで集まることは実際によくあるようです。


 基本的に単独行動をする猫ですが、時折一か所に集まることにより「においチェック」以外の方法で、周囲の猫の情報を集めているらしいのです。


 あるいは発情した猫たちが集まっているともいわれています。


  とはいえ、昔のアイルランドの人々は、猫の集会についてちょっと違う見方をしていたようです。



アイルランドの猫妖精:伝説の【ケット・シーの特徴】


・黒猫

・犬ほどの大きさ

・胸に白い斑点

・人語が話せる

・時には衣服を着ている

・時には二本足で立ち上がる

・独自のネットワークと王国を持っている。


 伝承に見るケット・シー は、いわゆる一般的な猫と変わらない姿で人間の家庭に入り込んでいるといいます。

そしてその正体を悟らせることはしません。


 しかし王族のケット・シーであれば、耳をすこし傷つけると、人語で罵倒を浴びせ、それまでに散々見てきた飼い主たちの秘密や悪事を上げ連ねるといいます。


 さらにそれ以上怒らせると、確実に復讐をされてしまいます。

命さえ取られてしまいますから、絶対に機嫌を損ねるようなことをしてはいけません。


 彼らケット・シーによる猫集会の内容はさまざま。

【猫の王の会議】

 嫉みにより、いとこの商人に目をくりぬかれたある商人が、果樹園の木に登って一夜を過ごしていたところ、たくさんの猫たちの声が聞こえてきた。


 それは猫の王が主催する会議で、王は部下たちから、眼病に効く井戸、病気の王女に効く薬草、よい井戸が掘れる場所などの報告を受けていた。


 これを聞いた目をくりぬかれた商人は、猫たちの情報を生かして人々を救い、その地方の市長になった。


 一方、それを羨んだいとこの商人は果樹園に向かったものの、猫の王に見つかり殺されてしまう。


 これは、世界中に流布する「2人の旅人」という物語のバリエーションのひとつです。


 ちなみにこの猫の会議の日は、5月1日に行われる誕生祭の前夜でした。


 ケルトでは夏の始まりを告げるベルテネ祭が行われる日の前後は、古来より怪異が起こる時期とされていたようです。



【猫の王の裁定】

 ある牧夫が家畜の餌を茹でる仕事をしていたが、餌の入った鍋をあさる猫を見つけ棒きれで殴りつけた。


 しばらくすると、その猫がたくさんの猫を引きつれて戻り輪になって話しはじめた。


 そこにひときわ大きな猫がやってきて、中央に陣取ると殴られた猫の話を聞いた。


 すると大きな猫は、殴られた猫をぽんと叩いてそのまま他の猫たちを連れて出ていった。


 これは、アメリカの民俗学者、ヘンリー・グラッシーの著書『アイルランドの民話』に掲載されているお話です。


 この猫の王様は、男の仕事の邪魔をしたことに対して、部下の猫が殴られてもしょうがないと判断したのでしょう。


 おそらく理不尽な理由で殴られていたら、王は男を引き裂いていたに違いありません。


 もちろん彼らは恐いばかりではありません。


ほんとうは、心を許した主人や、親切な人には恩に報いる、恩返しする義理堅い猫たちなのです。




【ファザー・ガッドの屋敷】


 人語を喋る猫、ファザー・ガッドとその一族は、ある地方に深刻な被害を与えていた鼠の大群を駆除したことから、大きな屋敷を与えられて幸せな暮らしをしていた。


 そこの使用人になったリジーナという少女の働きっぷりは素晴らしく、どんな猫たちにも優しくしたことから彼女は猫たちに気に入られた。


 しばらくして、人のいない生活に淋しくなったリジーナは暇を貰うことになり、ファザー・ガッドは淋しがりながらも褒美を与える。


 その褒美とは、まばゆく輝く肌と服、額に美しく輝く星、そしてポケットからは毎日12枚の金貨が湧き出るというものだった。


 やがてリジーナの美しさは評判になり、王子との結婚の日取りまで決まる。


 だがリジーナは嫉妬した母と姉によって納屋に閉じ込められてしまった。


 姉はリジーナになりすまして王子と結婚しようと目論んだが、しかしファザー・ガッドたちによって偽物であることが曝かれ、リジーナは無事に王子と結婚ができた。


 この話はイタリア語圏に伝わるもので、アンドリュー・ラング(1844~1912年)の『べにいろの童話集』に掲載されています。


 そして、どことなくイソップ寓話の「金の斧」や、グリムなどの「シンデレラ」に似た要素を含んでいます。


 他にも義理堅い猫の話は、お腹を空かせた3匹の猫を救った糸を紡ぐおばあさんが猫から銀貨を貰うといった、日本の「鶴の恩返し」を思わせる物語などがあります。


 これまで紹介してきたように、ケット・シーやそれに類する猫の伝説は数多く残っています。




 アイルランドのロスコモン州やミース州には、神聖な塚に住む猫の王の伝説が存在していますし、また同国出身の作家、オスカー・ワイルドの母、ジェーン・ワイルドが「詩人と猫の王イルサン」という物語を伝えているなど、その伝説と継承はさまざまです。


 アイルランドやスコットランドを中心に広まった理由としては、以下のようなことが考えられています。

・猫の流入が比較的早かった

・猫が神的、魔的な存在として扱われていた


 これらの地域で勢力を誇ったケルト人、あるいはそれに類する人々は万物すべてに神性を認め、当然猫も神秘的な力を持つものとされ、さまざまな伝承が残されている。

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