第6話 ファンタジー:種族-妖精-ダークエルフ
ダークエルフとは、ヨーロッパの伝承などに登場する妖精の一種である「エルフ(Elf)」に着想を得て創作された、ファンタジー物の小説やゲームなどに登場する架空の種族のこと。
登場する作品によって設定は様々だが、概ね多くの場合エルフの近縁種とされ、エルフが気位は高いものの人間に対し友好的(あるいは無関心)であるのに対し、エルフ(もしくは善側)に敵対する、人間に害を成す存在として描かれる場合が多い。
別名として「黒エルフ」、「闇エルフ」、「シャドウエルフ」などがある。
無論上記のようなダークエルフの設定は、歴史的な伝承はもちろんのこと、『指輪物語』にもまるで登場してこない、日本独自のガラパゴス設定である。
原典が何処にあるかについては意見が分かれるが、日本で最初期に登場したのはTRPGの『ダンジョンズ&ドラゴンズ(Dungeons & Dragons)』やファイティングファンタジー等のゲームブック、コンピュータゲーム、小説と言った海外翻訳作品に登場するダークエルフ達である。
そして更に大きく知名度を高めたのは、ダークエルフのイメージに大きく影響されたロードス島戦記とソードワールドRPGであり、これらが日本でのその後のダークエルフのイメージをほとんど決定付けたと言える。
▼起源:ダークエルフなどいない!?
多くのファンタジー要素の原典となっている北欧神話にも、「闇のエルフ」という単語自体は既に登場しており、天のアルフヘイムに住む光のエルフに対して、闇のエルフは地下に住むと語られている。(『D&D』でも、地底の大陸レベルの洞窟網「アンダーダーク」に住んでいる者が多い。 )
だが北欧神話に出てくる「闇のエルフ〔デックアールヴ〕」という存在は、英語に直訳すると「ダークエルフ」ではあるが、原典(スノッリ・ストゥルルソン著『散文エッダ』)においては、「黒エルフ〔スヴァルトアールヴ〕」と同義であり、
この「黒エルフ〔スヴァルトアールヴ〕」達が住むという「黒エルフの国〔スヴァルトアールヴヘイム〕」には、『ドワーフ』ということが確定できるフェンリルを捕縛するための魔法の紐(足枷)グレイプニル作成の鍛冶師達『ドヴェルグ』が住んでいる。
なお「闇の妖精〔デックアールヴ〕」に対する「光の妖精〔リョースアールヴ〕」などの区別は、より古い北欧神話の経典である古エッダにはない。
つまり本来浅黒い肌を持つダークエルフなる者は古来には存在しなかったのである。
▼ダークエルフの類型 - D&Dのダークエルフ=ドラウ・エルフ(堕落したエルフ):「お兄さま、あなたは墜落(ついらく)しました」
『指輪物語』ではむしろオークがエルフに敵対する存在として、そのポジションを占めており、劇中に「オークはエルフの紛い物」との記述もある。
オークは醜く愚かしい怪物として描かれ、この敵として登場するオークの容姿は、原作の設定では現在のダークエルフのイメージに近いとされる。
前史である『シルマリルの物語』では、古代に神々の国の光に接する機会のなかったエルフたちが「暗闇のエルフ」と呼ばれるが、上記とは全く別の意味である(原語版ではDark Elfである)。
同作には闇の陣営に唆されて一族を裏切ったエルフも登場するが、これはあくまでも個人であり種族というわけではない(ただ、敵に捕らえられたエルフがオークに変えられた事を仄めかす記述はある)。
テーブルトークRPG『ダンジョンズ&ドラゴンズ』に登場するダークエルフは「ドラウ・エルフ(堕落したエルフ)」とも呼ばれ、ほぼ上記の存在とされている。
『ダンジョンズ&ドラゴンズ』を世界背景に採用した小説、『フォーゴトン・レルム』シリーズのうち『アイスウィンド・サーガ』『ダークエルフ物語』(R・A・サルバトーレ著)では、ダークエルフとしては例外的に善良な心を持つキャラクターが主人公として登場している。
『ドラゴンランス』シリーズや『ソード・ワールドRPG』シリーズなどにも同様のダークエルフが登場する。
このテーブルトークRPG『ダンジョンズ&ドラゴンズ』(D&D)の背景世界、特に「グレイホーク」「フォーゴトン・レルム」「エベロン」の世界設定では、ダークエルフはドラウ (もしくはドロウ、drow) と呼ばれ
彼らこそが漆黒の肌と白い髪を持ち、一般的に凶悪であるのだ。
「ミスタラ」の世界設定では、漆黒肌のダークエルフではなく、色素の薄い肌と髪を持つシャドウエルフ (shadow elf) と呼ばれる種族が存在している。
シャドウエルフは、はるか昔に魔法の影響で地下世界に閉じ込められてしまったエルフが、地下世界に適応するために変異・進化したものである。
「ドラゴンランス」世界(クリン)でのダークエルフは、エルフと別の種族ではない。
クリンでは、他のD&D世界のような「ドラウ」は存在せず、主として悪事を働いたためにエルフ社会から追放されたエルフに与えられる蔑称である。
ただし、クリンのエルフは観念的に、むしろ過剰に「善」であろうとする傾向がある為、必ずしも邪悪な存在とは言えない点がなんとも……同シリーズに登場するダラマールはその好例である。
ただし、ドラゴン卿となったフェアル・サスのような例もある。
また初期にはゲームブック「ウェイレスの大魔術師」などのように
他のD&D世界と同じDrow型のダークエルフが登場する作品も存在した。
「ロードス島戦記」や「ソード・ワールドRPG」などの舞台となる
「フォーセリア」の世界でのダークエルフは、それこそ茶褐色の肌である。
彼らは必ずしも凶悪あるいは邪悪というわけではないが、上古の時代の「神々の大戦」の際に暗黒神ファラリスによって妖精界から召喚された存在であるとされ、暗黒神への信仰を「魂に刻まれている」為、多くの場合は悪の陣営とされる側に属して能力や特性ではむしろ一般のエルフより優れている(ハイ・エルフにほぼ相当する)。
「クリスタニア」のリプレイ版には上古の時代から生き続けている
「ダークエルフ・ハイロード」が登場する。もう、好き勝手である。
これはおそらくはハイ・エルフの最長老をも凌ぐ、ほとんど神(邪神)に近い力を持つとされている。
またフォーセリア世界のダークエルフは、強い忠誠心や深い愛情で結ばれることもある。
代表的な例は、人間の男性アシュラムとダークエルフの女性ピロテースとの関係である。
『サーラの冒険』シリーズ(山本弘)には、エルフの父親とダークエルフの母親の婚姻によって生まれたキャラクターが登場する(このダークエルフの母親も作中に登場するが、魅力的なキャラクターであり「邪悪な存在」とは言い難い)。
『ダークエルフの口づけ』(川人忠明)は、ダークエルフにも市民権が与えられているファンドリア王国を舞台としており、ヒロイン役としてダークエルフが登場する。
このあたりが日本人が生み出したダークエルフのイメージの原典であろう。
つまり日本では後発組のTRPGである『ロードス島戦記』に登場するダークエルフのイメージが、ほぼそのままその他の初期の中世欧風ファンタジー作品(RPG、ライトノベルの前身的な文庫小説など)に取り入れられたのだ。
特に日本でのファンタジーシーン、およびエルフという種族の外見的なイメージは、『ロードス島戦記』に於いてその原型が形作られたと言っても過言では無いため、同様にダークエルフのイメージもほとんどそのままで1980年代を推移した。
しかし1990年代に入ると「邪悪なエルフ」という定義はだんだんと薄まり、単に「褐色肌を持つエルフの亜種」として描かれる作品が現れ始める。
これは、元々日本では歴史的文化的に陰陽道の考え方があり、物事には全て表裏一体の関係があるという考え方も影響していると思われる。
これ以降、特に日本で発表されたファンタジー作品などではこの流れを受け継いでいる物が多い。
2000年代に入る頃には日本の“萌え”文化の荒波の中、「ダークエルフ≒邪悪なエルフ」という構図はほとんど消えてしまい、むしろ人間社会を主観として描く場合、「エルフは文明発展に理解がなく融通も利かず厄介な相手」だが、「ダークエルフはエルフよりは俗っぽいので人間と共存しやすい」という、初期におけるエルフとダークエルフの立場が逆転してしまった例も散見される。
特にコンピュータRPGやMMORPG(オンラインRPG)では積極的に多くの種族をプレイヤーに解放する傾向に拍車が掛かり、ここ最近の発売・発表されたRPGの多くは選択出来る種族に最初からダークエルフが入っている事がほとんどである。
この場合、ダークエルフが、普通のエルフとの善悪の対立軸を絡めた設定になっているという事は必ずしもなく、単純に人間で言う所の白人種と黒人種のような、比較的緩い関係として設定される事の方が多い。
先の『ロードス島戦記』と世界を共有するTRPGの『ソード・ワールドRPG』でも、公式には原則としてダークエルフ(及びそれに伴うファラリス信仰)を敵キャラ専用のキャラクターとしているが、実際には多くのプレイヤーたちが自作シナリオ(ローカル・サプリメント)の中でダークエルフを通常のプレイヤーキャラクターと同様に扱う行為が、半ば慣例化し横行している。
『ソードワールド2.0』(こちらは世界観は共有していない)になると
種族としてのダークエルフは消滅し、褐色肌のエルフ(種族的には普通のエルフと全く同じ)が普通に公式キャラとして登場したりしている
(なお能力的な部分はシャドウという別種族に引き継がれた)。
意外に純情だったりツンデレだったりする場合もあり、ファンタジー物の定番キャラクターとしての位置を占める事が多く、そんなギャップ萌え的な側面もダークエルフの魅力の一つと言える。
また洋の東西を問わず、胸部が薄い通常のエルフより巨乳に描かれることが多く、それに合わせる形で着衣も露出度が高めの物を着せられる事が多い。
性に関しても自由奔放な性格付けをしてある事が多い傾向にある。
これは、「悪の象徴としてのダークエルフ」を体現させるために、キリスト教文化圏に於ける「淫乱=肉欲の罪(七つの大罪の1つ)」を象徴的に具現化させたものと思われるが、現在の日本の萌え文化の中ではそれはほとんど意識されていない。
外見的イメージは作品や描き手の解釈によって様々なのは言うまでも無いが、 通常のエルフと同じ背格好だが、肌の色が褐色または漆黒、髪の色が黒髪、もしくは白髪などそういった特徴を持っている事が多い。
特に髪の色が黒髪や、肌の色が褐色という特徴は、「通常のエルフが邪悪な力に染まった(悪堕ち)」という事を象徴している場合もある。
しかしながら「邪悪=褐色の肌と黒髪」と言う表現は、後に欧米で人種差別的な表現とされ、近年に発表される作品では、ダークエルフとは名ばかりで外見上は全く通常のエルフと区別されない事も多い。
若しくは黒人種を連想させないために、最初から全く有り得ない様な肌の色と髪色を組み合わせる事もある。
最近ではそのバリエーションの1つである「青白い肌と銀髪」という組み合わせが多くなっている。
また、実写作品においても特殊メイクによってクリーチャー染みた外見にされるといったケースも少なくない。
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