第5話 ファンタジー:種族-妖精-ドワーフ

ドワーフ

[北欧神話]

 Dvergr(ドヴェルグ)【古ノルド語】

 Døkkálfar(デックアールヴ)《闇の妖精》【古ノルド語】

 Svartálfr(スヴァルトアールヴ)《黒妖精》【古ノルド語】

〔※ 後に英語のDwarf(ドワーフ)に〕


 人間よりも小型な人型種族であり、

ヨーロッパの民間伝承や昔話に登場する妖精の一種である。

また民間伝承では醜い姿をした小男として描かれる。

日本では小人、矮人(わいじん)、侏儒(しゅじゅ)などと訳される。


 北欧神話に由来する地中に住む小人の妖精族「闇の妖精ドヴェルグ(Dvergr)」が起源とされる。


 英語圏で小人を表すドワーフ(dwarf)という言葉は、実はこの北欧神話のドヴェルグ(dvergr)に由来する。


 彼らドヴェルグは巨人ユミルの死体から湧いたウジ虫で、神々に人間の姿と知恵を与えられるも非常に醜い姿で地下で暮らす。


 なぜなら太陽の光を浴びると石になる、もしくは体が弾け飛んで死ぬといわれるからである。


 ただ鍛冶仕事に関しては高い才能を持っていて、神々の依頼で神々の道具などをたくさん製作している。


 だが時代とともにドワーフのイメージは北欧神話のドヴェルグを離れていって、太陽光線を弱点とする能力もない、地中に棲む小人のようなものになった。


 童話の小人も英語圏ではドワーフと表記されており、グリム童話『白雪姫』の七人の小人などが有名である。


 『白雪姫』に登場する7人の小人たちも原文ではZverg(ツヴェルク)で、これは英語圏でいうドワーフのことだ。


 その姿は醜く、老人のような皮膚を持ち、立った姿勢のままで腕が地面に付くほど長いとも言われる。


 3歳で成人し7歳で老人になるといわれたり、女性が存在しない為新しいドワーフは石から作られるともいわれる。


▼ドワーフ/デックアールヴ/ドヴェルグ:

 現在残されている資料では地に住まう闇のエルフ「デックアールヴ(døkkálfar)」と共通する部分も見られ、古エッダの「巫女の予言(Völuspá)」には名前の接尾に"-álfar"をもつドヴェルグも登場する。


 外観は男女共に背丈が低いものの力強く屈強で、特に男性はその多くで長い髭をたくわえているとされる。


 山地や地中に暮らし高度な鍛冶や工芸技能をもつとされており、しばしば神々の求めに応じて金属を加工し魔力ある武器や宝を製作するとされ、鉱物資源と密接に関係した存在とされている。


 また神に呪いをかけたり、代償の支払いを渋る神を人質として捕まえるなど、種族として神に匹敵する力を持つ。


 北欧神話に登場する《妖精》はアールヴ(Álfr)と呼ばれていて、このアールヴを二種類に分類している。


 スノッリ・ストゥルルソンは、ドヴェルグ(ドワーフ、単 dvergr, 複 dvergar)について、「デックアールヴ(闇のエルフ、単dökkálfr, 複dökkálfar)」、または「スヴァルトアールヴ(黒いエルフ、単 svartálfr, 複 svartálfar)」として言及している。


 デックアールヴは北欧神話の中で言及される闇の妖精で地下に棲む。

北欧神話では妖精のことはアールヴと呼ぶ。


 一般にアールヴと言えば、リョースアールヴ(Ljósálfr)《光の妖精》と呼ばれる天に棲む美しい妖精たちのことだが、これと対になる存在として背が低く、醜く、肌が黒い妖精がいるとされた。


 それがデックアールヴ、あるいはスヴァルトアールヴである。

スヴァルトアールヴヘイムと呼ばれる地下世界に棲み、太陽光線を嫌い、日中は地上に出てこないとされ、ドヴェルグ(Dvergr)という小人族と同一視される。

性格もあまりよくなく、人間に悪戯をして怪我をさせたり、病気をもたらしたりするという。


 だがドヴェルグたちは鍛冶師としての才能に長けている。

神々が持っているさまざまな武器や財宝のほとんどはドヴェルグたちがつくったものだ。


以下にドヴェルグたちの作品を挙げておく。


・狙った獲物は必ず貫くというオージンの投げ槍「グングニル」

・次々と腕輪を量産する黄金の腕輪「ドラウプニル」

・ソールが振り回すハンマー「ミョッルニル」

・頭につけると自然に伸びてくる黄金製の「シヴの金髪」

・自由に大きさを変えて携帯できるフレイの船「スキーズブラズニル」

・フレイの乗る黄金の猪「グッリンブルスティ」

・フレイヤの乗る猪「ヒルディスヴィーニ」

・フレイヤの持つ首飾り「ブリーシンガメン」

・フェンリルを縛りつけた足枷「グレイプニル」

・詩芸の才能を与える「スットゥングの蜜酒」

・テュールの持つ名もなき剣


これらの財宝はすべてドヴェルグたちがつくったとされている。



 これらの神々の財宝の大部分を集めたのはロキだ。

ロキはあるときソールの妻シヴの髪の毛を剃り落としてしまう。

シヴの髪の毛の美しさに勝るものはなく、彼女がそれを自慢していたものだから、

天邪鬼なロキはついついいたずら心を出してしまったのだ。


 ソールはこれに激怒したため、ロキは慌てて「もっと素敵な髪の毛をドヴェルグたちにつくらせる」と約束して許してもらう。


 ロキはイーヴァルディ(Ívaldi)というドヴェルグの息子たちのもとに赴いて髪の毛をつくるように要求する。

イーヴァルディの息子たちは優秀で、頭につけると自然に伸びる「シヴの金髪」をつくってみせたのだ。


 さらに彼らは、神々のためにこれだけとは申し訳ないだろうと、

フレイのために船「スキーズブラズニル」を、オージンのために投げ槍「グングニル」をつくってロキに献上した。


 ロキはそれだけでは満足せず、さらにスヴァルトアールヴヘイムを奥へと進んでいく。

そこにはエイトリ(Eitri)とブロック(Brokkr)というドヴェルグの兄弟がいた。


 ロキがイーヴァルディの息子たちがつくった財宝を見せびらかすと、

この兄弟たちは「俺たちの方がもっと立派なものをつくれる」と言い始めた。


 そこでロキは、彼らがイーヴァルディの息子たちよりも立派なものをつくれなければ、財宝はただでもらい、もし彼ら兄弟がイーヴァルディの息子たちよりも立派な財宝をつくったら、ロキの頭をやるという約束を交わす。


 エイトリとブロックはさっそく財宝をつくり始めた。

ロキは虻に変身して彼らの手を刺したりして邪魔をするが、彼らは見事に黄金の猪「グッリンブルスティ」、黄金の腕輪「ドラウプニル」、そしてハンマー「ミョッルニル」をつくりあげた。


 こうして財宝を持ったロキは神々のもとへ赴き「グングニル」と「ドラウプニル」はオージンに、「スキーズブラズニル」と「グッリンブルスティ」はフレイに、「ミョッルニル」と「シヴの金髪」はソールに、それぞれ献上された。


 彼らは協議して、「ミョッルニル」こそが巨人族と戦う最大の武器になるとして、エイトリとブロックの兄弟に勝利を与えた。


 それではロキがどうなったのかといえば「誰が首を切っていいと言ったんだ。頭はやってもいいが、首はやらないぞ!」などと得意の屁理屈で逃げおおせたようだ。



▼近年でのドワーフ族のイメージ:

 近年では『指輪物語』に登場したドワーフ族のイメージが広くファンタジー小説やゲームに用いられるようになった。


 J・R・R・トールキンの架空世界である中つ国においてドワーフは背の低い頑健な種族であり、女性も含め全員がひげを生やしている。

エルフ族と仲が悪いという性質も、本作におけるレゴラスとギムリに端を発している。


 トールキンは『指輪物語』の中で、無骨でたくましいドワーフ族を描いたが、これによってほぼ現在のドワーフのイメージが決定づけられたといっていい。


 他種族に対して植物や動物を含めてあまり親密とは言えず、植物を愛でることや乗馬などを苦手とし、ホビットに対してはまだ友好的な場合が多いが、エルフに対しては昔から不信感を抱いている。


 典型的なドワーフは鍛冶や石工を職業としており、かれらが作り出す作品の中にはエルフの作品よりも優れたものもある。


 また礼儀も有り誠実ではあるが、多種族とは不和になることさえある。

エルフや人間と異なり、ドワーフはイルーヴァタールの子らには数えられない。


 ドワーフは鍛冶を司さどるアウレによって作られた。

かれらは中つ国の山々から貴金属を採掘し、加工した。

最も有名なドワーフの貴金属はミスリルである。


 さまざまな点で、ドワーフはエルフと人間の中間に位置している。

かれらは不死ではないが、250年以上の寿命を持っていて、一般的に人間よりも堕落しがたい種族であるが、欲に駆られて性急な行いをする点では共通している。



▼日本でのドワーフのイメージ:

 『指輪物語』→『ダンジョンズ&ドラゴンズ』→『ロードス島戦記』→


その他の和製ファンタジーという経路で広がったと推測され、この過程でファンタジー世界の住人として定着している。


 現在の一般的な日本のドワーフのイメージは上記の過程を経て「小柄ながら屈強な体格を持ち、力自慢の戦士にして鉱夫・職人だが足が遅く頭が固い粗暴な大酒呑み」といったところに落ち着いており、逆に『白雪姫』などに現れる古典的なドワーフや北欧神話のドヴェルグのイメージは切り落とされ別種の存在として認識されている。


 重装備に身を固めたドワーフは前衛としてとても優秀であり、また作品によっては神官(ヒーラー)となって回復もするという事もやってのける。


 こうしたドワーフ像の祖となる『指輪物語』に登場するギムリは、

たしかに力自慢で頑固でこそあるもののドワーフ王族の血を引いており、

頭もよく回り、後にレゴラスと和解しエルフの奥方に敬愛の念を抱く立派なドワーフである。


 が、近年制作された映画版『ロード・オブ・ザ・リング』では、現在の一般的なドワーフのイメージに基づく粗野な性格を与えられており、

調子づいた発言を飛ばしては痛い目に遭ったり馬から転げ落ちたりする

コメディリリーフ的な扱いを受けている。



▼男性と女性について:

 そもそも童話の時点でドワーフに女は存在せず、神話では男女の区別さえなく、石をこねくりまわして新たなドワーフが作られるとされていた。


『指輪物語』のドワーフでは男女の区別があるとされ、1/3の割合で女がおり、男に劣らぬがっちりとした体格を持ち、しばしばひげを生やしていた。


 この影響から、作品によっては「ひげの生えてない女など若すぎるわい」という、ある意味すごい価値観を表明するドワーフさえいた。


 またしばしば「美人のドワーフ女」はゲーマー界隈である種のジョークとして扱われ、エルフよりも人間との価値観が違うことを示すネタとして使われることもあった。


しかし、この「女+寸詰まり+ひげ」というニッチなギャップ萌えに理解を示す者はそう多くなく、海外のファンタジー作品であっても流石にひげは生やさず豊かな頭髪等で代用表現する場合が多い。


 さらに、ゼロ年代からのアジア圏では「背が低い」「武骨な武器」という要素のみを採り上げた、体格を無視した巨大な斧やハンマーをブン回すほっそりとした幼女風のデザインを採用しているものが出てきた。

(特に中国系のゲームでは大体がただの幼女であるかのような極端な描写となっている)。


 『ソードワールド2.0』『リネージュII』『クイーンズブレイド』などがその例であり、「幼女+ゴツい武器+ぅゎょぅι゛ょっょぃ」という新たなギャップ萌えを開拓している。


 なお、かなりの変わり種は『ととモノ。』シリーズであり、短躯の獣人族という設定と絵柄のため、男女ともに全身毛むくじゃらのチビッ子である。

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