生まれ変わって君に会いに行く
ミカは、ようやくクロードが捕らわれてる9階の部屋の手前まで辿り着き、壁の影から見張りの様子を伺った。
見張りはひょろっと背の高い細身の青年で、チャリチャリと鍵を指で弄んでいた。腰には剣をさしている。
青年の色白で細身の様子から、胃腸の弱そうな印象をミカは持った。
(ジュリアがその人が行いそうな事だと騙せる時間が長くなると言っていたな·····でも、どうやって騙せばいいのか聞かなかったな。念じればいいのかな·····不安だが、イチかバチかやってみるしかない!)
ミカは小声で「ジュリア・フォックスの使獣よ、我に力を」と唱え、『見張りの青年が腹を壊し、私を同僚と見間違えて鍵を託す』と念じてみた。
すると、青年はお腹を押さえて苦しみ出したので、ミカは本当に騙せるかハラハラしながら青年の前に姿を現した。
「ちょ、ちょうど良かった!お前!ちょっと俺はトイレに行ってくるから、見張りを交代してくれ!鍵を託すよ!」
青年がそう言って、ミカに鍵を放り、階段を駆け下って行った。
ミカは騙せたことを安堵しつつ、急いでガチャリと鍵を開けて、部屋の中に入った。
部屋に入り、ミカは絶句した。
血塗れのクロードが両手を縛られ、上半身裸でうつ伏せに倒れていたのだ。
小さな窓から月の光が差し込み、クロードの背中には何ヶ所も裂傷があり、肉が裂け、傷口からドロリと血が流れ出ているのが見えた。
ミカは急いでクロードを助け起こしながら、叫んだ。
「ク、クロード!クロードお願い!·····死なないで!」
クロードが掠れた小さい声で言った。
「·····ミカ·····最期にミカの夢を見れるならば、幸せな人生だった·····」
「クロード!夢じゃないよ!現実だよ!助けに来たの!一緒に逃げよう!」
「·····現実!?·····どうりで、体が酷く痛む。·····ミカはどうやってここまで来れたんだ?」
「クラスの皆が力を貸してくれたの·····クロード酷く声が掠れてるね。あそこの水をとってくるね。私も喉乾いた·····」
ミカが部屋の中にあった、コップを取りに行こうとした途端、クロードに鋭い声で止められた。
「ミカ!その水は飲むな!それは毒だ!」
「え!?」
「その毒を飲んで自殺するか、首を吊るか選べと言われている·····海の民の言伝えでは殺されると生まれ変われるそうだから、自殺に追い込み完全にこの世から存在を抹消したかったらしい·····まぁ、それほど恨まれているという事だ。」
ミカは改めて部屋を見回し、天井から輪っかになっている縄が下がり、その下に椅子が置いてある事に気付いた。
「そんな·····ひどい·····」
「私の父親がイーサン王であることは変えられない事実だ。·····そのイーサン王が海の民へ、酷い行いをした事も変えられない事実だ。·····海の民のイーサン王への怒りや怨みにあてられて、この人たちの気が済むなら、いっそ自殺してしまおうかと何度も思ったよ。··········でも、その毒を飲もうとする度に、『親の言動に子供は一切責任を負う必要はない』というミカの言葉が私を救ってくれた。」
「クロード·········」
掠れた声で苦しそうにしゃべるクロードの元に、ミカは駆け寄り、抱きかかえた。
クロードは、目から一筋の涙をこぼしながら、話し続けた。
「例え親が誰であれ、生まれも血も関係なく私を好きだと言ってくれたミカの存在だけが、光だった·····イーサン王の虐殺を止められなかった私にも、王子としての責務を果たせなかった罪はある。ここで死ぬのが王族として生まれた自分の務めなのだと、受け入れてはいたが、自殺だけはどうしても出来なかった。·····海の民の言伝えで『殺されれば、生まれ変われる』というのなら、いっそ殺されて生まれ変わって、ミカにまた会いに行きたいと思ったからだ。····まさか、また生きて会えるとは·········」
ミカは自然と自分の目から涙が、零れているのに気付いた。
ミカは想いが溢れ、クロードを抱き寄せ、深く口づけをした。
「···············ミカからキスしてくれるのは初めてだな·····死にかけて得したかも·····」
クロードが、青白い顔で微笑んだので、ミカは涙をふいて怒った口調で言った。
「バカなこと言わないで!本当にこんな出血多量じゃ、いつ死んでもおかしくないんだから!とにかく早く逃げなきゃ!」
その時、扉の外で先程の見張りの青年の声が聞こえた。
「おーい!見張りの交代ありがとう!部屋の中にいるのか?開けるぞ!」
(まずい!)
扉がガチャリと開くのと同時に、ミカは瞬時に椅子に飛び乗った。そして、天井の縄にぶら下がり反動をつけ、入ってきた青年にミカは強烈な飛び蹴りを喰らわせた。
「ぐわっ!!」
もろに頭部に蹴りをくらい、目をまわし倒れ込んだ青年の腰からミカは剣を奪いとった。
そして、その剣でクロードの手を縛っていた縄を切った。
「逃げよう!クロード!」
出血多量で立つことすら辛そうな、クロードを助け起こしながらミカは言った。
ミカとクロードが、部屋を出ると階段の下の方からドヤドヤと「なんか大きな音が聞こえたぞ?」「敵襲か?」「いや、まさか」「念の為の行ってみよう」と声が聞こえた。
(どうしよう、階段を下りないと逃げれないのに·····結構な人数が、上がってきてしまうみたい·····。一旦どこかに隠れるしかないか·····)
「上の部屋へ行こう·····」
クロードがミカの耳元でささやいたので、ミカは頷き、10階へと階段を上り始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます