拷問
ミカは厨房の扉をそっと開けて、外の様子を伺った。
部屋の外には石畳の狭い階段が螺旋状に続いていた。
どうやらこの塔は、中央部に部屋があり、その周りをぐるりと螺旋状に階段が続いている造りのようだ。
ミカは窓から顔を出して、上を仰ぎみてみた。
全部で10階建てくらいの塔で、今は4階にある厨房にいる状況だと分かった。
(とにかく急がないと·····クロードは、塔の上に捕えられてるんだよね。·····人が来そうなら、ナンシーのカメレオンの使獣の力を使えばいいし、とにかくこの階段を上ろう。)
ミカは、ひたひたと石畳の階段を上り始めた。
まだ、泳いできて濡れた服が完全には乾いておらず、歩いた後に、水滴がぽたぽたと落ちる。
(まずいな·····人が来たらナンシーの力を使っても、水滴と湿った足跡からバレるかもしれないな。所々の窓からしか光が入らず、薄暗いのがせめてもの救いだな·····。それに近くの扉が突然開いたら、力を使っても間に合わない·····。本当に音に敏感にならなくちゃ·····。)
ミカは注意深く階段を上り続け、そろそろ8階にさしかかろうかという頃に、9階の方でギィーと扉が開く音と人の声がした。
「じゃあ、後はお前一人で見張ってろよ!·····自殺しやすいように、王子様は1人にしてやれ。お前は外で見張ってろ!ホイ、鍵は任せた。」
「分かりました!任せてくだせい!」
「ふー!人を痛めつけるのって愉しいが、結構鞭を振るうのって腕が疲れるなー!明日は筋肉痛かもな!」
「お前、力込めて鞭を振るいすぎだろ!肉が破けてたぞ。あの分じゃ、出血多量で死ぬぞ?あの王子。」
「いやー。俺も手加減するつもりだったが、アイツ綺麗な顔立ちしてるから、苦痛で歪む顔につい興奮して手に力が入っちまった!」
「確かに、無駄に綺麗な顔立ちだよな·····。明日まだ生きてたら、自殺したくなるような屈辱を与える方法、別の方面から考えてもいいかもな。」
「別の方面ってなんだ?それにしても、お前こそ、指の爪を剥ぐわ、焼きごてを押し付けるわ、なかなか酷い仕打ちしてたじゃねぇか。じわじわゆっくりと小指の爪剥ぐのとか、見てるこっちが痛かったぜ。」
「俺は、死なねぇ程度に、死んだ方がマシだって思えるような苦しみを与えるように、工夫してやっているんだ。まぁ、じわじわ痛めつけることが趣味でもあるんだけどな。」
「俺らがこんだけ痛めつけてやったんだから、あと数時間もすれば、たぶんあの王子様も自殺すんだろ。」
階段を下りてくる足音と声が近づいてきた。ミカは怒りに震えながらも、小声で「ナンシー・レオンの使獣よ我に力を」と唱え、ピタリと壁に貼り付いた。
ミカは階段を下りてきた2人を見て、驚いた。
非常に体が大きいのだ。二人とも力士並みの横幅がある。
階段もそんなに広い訳では無いので、このままだと間違いなく壁に貼り付いたミカに触れる。
(まずい!!カメレオンの能力は、背景に同化するだけであり、物体そのものが消える訳では無いとナンシーが言っていた。·····このままだと、触れて見つかってしまう!?しまった!ナンシーの力は使わずに、そこの扉にすべり込めばよかった。いやでも、鍵が開いてるかも分からないし、扉の中に人がいたらどっちにしろ見つかってしまってたし·····視界に入らないうちにひたすら階段を掛け下りるべきだったのか?!)
近づいてくる、力士のような海の民への緊張で、ミカの心臓が早鐘をうった。
(あと少しでぶつかる·····もうダメだ·····。こうなったら、不意打ちを利用して、戦うしかない!!一瞬で昏倒させないと、助けを呼ばれてしまう!まずは下段の回し蹴りで2人を階段に転落させてから、頚椎への手刀、もしくは鼻骨への掌底をして····)
ミカが必死に作戦を練っていたその時、2人はミカのすぐ手前にある部屋をガチャリと開けて、中に入って行った。
どうやら彼らの部屋は、そこだったようだ。
ミカは止めていた息を、一気に吐き出した。
(はぁ。バレずにすんでよかった·····それにしても、アイツらクロードを鞭で打ったり、爪を剥いだりしたと話していた。クロードがお前らに何をしたと言うんだ!!なんで、親の罪をクロードが負わないといけないんだ!しかもアイツらは、人を痛めつけることを愉しんでいた!許せない!アイツらに復讐したい!同じ目に遭わせてやりたい!いっそ殺してやりたい!)
腸が煮えくりかえるような怒りで、ミカは目の前がクラクラした。
(ダメだ。怒りは思考を鈍らせる·····深呼吸をして冷静になろう。)
ミカは大きく深呼吸して、改めて冷静に自分の行動を振り返りゾッとした。
(怒りや興奮は勝算を過大評価させると、聞いたことがあるけど、本当だな。冷静に考えれば、いくら不意打ちしたとしても、あの男性2人を昏倒させるのは、私の力では無理だったな·····。空手黒帯だけど、あの体格差ある相手に素手で挑むのは無謀だ。自分の実力はその程度だ·····。私に出来ることは、海の民の兵士に見つからないように、クロードを助け出す事しかない。)
自分の無力さへの悔しさのあまり、ミカは爪が手の平に食い込むほど手を強く握りしめた。
ミカは唇を噛み締めながら、クロードが捕らわれている9階を目指して、再び階段を上り始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます