力をかしてください!
ジェスを乗せて、王宮へ引き返す馬車を見送りながら、ミカがポツリとつぶやいた。
「ジェスは意外と、尻に敷かれるタイプになるのかな·····」
「ミカエル様、何のんきなこと言ってるんですか!本当に急がないと、いけないのです!ミカエル様はこれから、海の民の城へお1人で向かって頂かなくてはならないのです!」
ミカはソフィアの剣幕に押されながら、おそるおそる言った。
「でもソフィア、海の民の城に行くには泳がないと行けないらしいんだ。父と兄を海で亡くしたトラウマのせいで、私本当に泳ぐのだけは昔からダメで·····」
「大丈夫です。皆さんの力をかりればいいのです!」
「皆さんの力って?」
「教室に、クラスの皆さんを『ミカエル様からのお願いで』と言って、お呼びしてあります!さぁ教室に行きますよ!」
ソフィアに学園に向かい背中を押されて歩きながら、ミカは驚きながら答えた。
「ええ!?こんな夜遅くに、よく皆集まってくれたな!」
「皆様、『ミカエル様のためなら』と快く来てくださいました。ミカエル様はクラスの皆さんから、使獣の力をお借りしてください。必ず全員から、かりてくださいね!」
「使獣の力をかりる?·····あ。そう言えば前にクロードから、『信頼してる人になら使獣の力を渡せる』って聞いた事あるけど····クラスの全員から渡してもらうなんて、出来るのかな?それに、私に手をかすことは、次期国王確定のゲオルギ様に楯突く事にもなるし·····皆にそんな事お願いするなんて、申し訳ない気が·····」
「ミカエル様は人から頼まれるのは大歓迎ですが、人に頼むのは苦手な方ですもんね·····。でも、苦手だとか、そんな悠長なこと言ってる場合ではないのです。クロード様の命がかかってるのです!本当に時間が無いのです!私は他にも、やらねばならない事があるので、ここからは、別行動します。ミカエル様は皆さんから力をかりられたら、急ぎ厩舎にお越しください!」
「わ、分かった!」
ソフィアと別れ、ミカは教室に走って向かった。
(どうしよう、本当に皆から力をかしてもらうなんて出来るのかな·····。そもそもなんて説明しよう·····。でも、力をかりるからには嘘はつけない!誠実に頼み込まないといけないよね)
教室には明かりがついていた。ミカは深呼吸して、教室の扉のドアを開けた。
クラスの皆の視線が、ミカに集まった。
「みんな!夜更けに呼び出して申し訳ない!!力をかしてほしくて····実はクロードの命が危なくて。助けに行きたいんだけど、私の力だけでは、どうしても難しくて!·····皆の使獣の力を、私にかして貰えないでしょうか?でも、実は·····このクロードを助けに行く行動は、次期国王のゲオルギ・ドーベルに楯突く行為なんだ。私に力をかした事がバレたら、下手したら皆も罰せられる可能性がある。だから、無理にとは言わない!·····けれど!もし、可能なら、私に力をかしてくださいっ!!」
一息に言い切って、ミカが頭を深く下げると、教室中がシーンと静まり返った。
最初に口を開いたのは、フィン・ジャーブルだった。
「当たり前だ!ミカ!僕は君に力をかすよ!フィナンシェを貰った恩は忘れてないよ。手を出して!」
「ありがとう!フィン!」
ミカはフィンと握手すると、フィンが唱えた。
「我、この者に使獣の力を渡す·····」
ミカはフィンの手を伝って、小さな光のようなものが自分の体内に入ってくるのを感じた。
「知ってると思うけど、スナネズミの使獣の力は、砂煙を発生させて、相手の視界を奪うことだよ。遠方からでも、大人数相手に1分程度は使えるから、きっと重宝するよ!」
「本当にありがとう、フィン!」
アメリア・フログとイザベラ・ニュートも、ミカの前に来てくれた。
「私もミカエル様のお力になれるなら、協力しますわ!」
アメリアのぽっちゃりした可愛い手を握りながら、ミカエルが言った。
「アメリア!ありがとう!」
「我、この者に使獣の力を渡す·····私の使獣のカエルを可愛いと言って下さり、本当に嬉しかったですわ!最近は、ソフィアとも少しは話すようになりましたのよ。カエルの使獣の力は1分程度、水の中で呼吸が出来るようになる事と、泳ぐ能力が上がる事ですわ。」
アメリアの後すぐにイザベラも、ミカの手を握ってくれた。
「私、ミカエル様の言葉のお陰で、自信がついたのです。·····今まで男性が話しかけて下さらなかったのは、使獣が両生類だからではなく、私が自分から壁を作ってたからだと、ようやく気づきました。そこに気づけたお陰で、この前のダンスパーティーで、他のクラスに恋人も出来たのですよ。感謝を込めて力を渡しますわ。·····我、この者に使獣の力を渡す。イモリの力は1分程度、壁に張り付いて移動する事ができます。」
「イザベラ!ありがとう!恋人とお幸せにね。」
ナンシー・レオンもその後、ミカの手をギュッと握ってくれた。
「ウチも勿論、ミカエルに力をかすよ!カメレオンの力は、姿を1分程度消すことだけど、正確には背景と同化することだから、同化したい面に手を触れてじっとしてないといけないから、気をつけてね。·····我、この者に使獣の力を渡す。·····ミカエル、どうか無事に戻ってきてね!」
「ありがとうナンシー!気をつけて、行ってくるよ!」
ナンシーの後を、ジュリア・フォックスがずいっと前に出てきた。
ジュリアは珍しく露出度の少ない、胸元が開いてない服装を着ている。
ジュリアは、ミカエルの手をギューっと握って言った。
「ミカエル!もちろん私も力をかすわ!私とキースのキューピットだもの!感謝しきれないわ!·····我、この者に使獣の力を渡す!·····私の力は、人を騙して操る事だけど、その人が行う可能性がない行動だと、数十秒しか操れないわ。その人が普段でも行う可能性がある行動なら、1分程度は騙し続けられるわ。あと、1人には1回までしか使えないのよ····あ!でもそっか、そもそも使獣の力をかりた場合、使用できるのは1回までだったわね。」
「ありがとうジュリア!詳細の説明も、本当に助かるよ!」
残るはキースのみだが、キースは顎に手を当てて思案顔である。
ミカは、おそるおそる声をかけた。
「キースは確か、ゲオルギ・ドーベルを尊敬してたよな?·····その人に楯突くようなことはしたくない·····かな?」
キースは、はっと気づいたようにミカに目を向けた。
「あ。·····ああ、いや。違う。私はミカエルと一緒に、私も助けに行こうかと考えてただけだ。·····だが、下手に足を引っ張ってもいけないから、力を託すよ。」
「じゃあ、力をかしてくれるの?」
キースはミカの手をがっしり握り、暖かく微笑みながら言った。
「ああ、当たり前だ。ミカエルが言ってくれただろ『組織にはキースのような人間が必要だ』と、あの言葉は本当に嬉しかった。·····我、この者に使獣の力を渡す·····絶対、生きて帰ってこいよ。」
「うん!ありがとうキース!皆も、本当にありがとう!!·····じゃあ、時間が無いからもう行くね!!」
口々に「気をつけて!」「無事に帰ってね!」「頑張って!」と背中を押してくれるクラスメイトの声を聞きながら、ミカは厩舎へと走って行った。
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