次期国王

ジェスとミカは王宮へと向かう、馬車の中にいた。

クロードが生きているというミカの話を聞き、ジェスがすぐに馬車の手配をしたからだ。

王宮へは「俺だけで行ってくる」と当初ジェスは言ったが、ミカは「自分も直接交渉する」と言って頑として譲らなかったので、2人で行くことになった。

外はすっかり日も落ちて、暗くなっている。


王宮へは1時間程度で到着し、馬車を降りるとすぐ2人でゲオルギ・ドーベルがいる執務室へ走った。


執務室は、多くの貴族がバタバタと出入りしては、真ん中の椅子に座り忙しそうに書類にサインをする男性の指示を仰いでいた。

椅子に座る、赤い髪の日に焼けたガタイの良い男性が、ジェスの父親のゲオルギ・ドーベルであった。

オロオロする貴族達にゲオルギが与える指示は、どれも端的で分かりやすく、有能と呼ばれる理由が見ているだけでミカにも分かった。


人が途切れた瞬間を逃さず、ジェスがゲオルギへ声をかけた。


「親父!クロードが生きていたんだ!!東にある海の民の城に囚われてるらしい!助けに行きたいから、兵を出してくれ!」


ゲオルギはジェスの顔をじっと見てから、口元に手をやり、足を組みかえてから静かに言った。


「·····クロード王子は死んだと聞いている。·····ジェスはなぜ、クロード王子が生きてると思うんだ?そして、なぜ東の城にいると分かる?」


「クロードの使獣の黒鷲が帰ってきたんだよ!東の方から!」


「·····なぜ、その黒鷲がクロードの使獣だと分かる?」


「首のところの白い模様がクロードの黒鷲のだったんだよ!」


「そんな理由で、海の民の城を攻め入る訳にはいかないんだ。すまないが、諦めてくれ·····」


「んなこと言われて、諦められるかよっ!親父、頼むよ!クロードを助けてくれよ!」


ジェスの言葉に、ゲオルギは首を振るばかりだ。

その様子を静かに見ていた、ミカが口を開いた。


「ゲオルギ様はクロードが生きてること、知っていましたね?」


ゲオルギは眉をひそめて、ミカをジロリと見つめた。


「·····君は確か。·····ジェームズの子だな。君は私が嘘をついているとでも言うのかね。何を根拠に?」


ゲオルギの威圧的な声に、ミカは静かに答えた。


「根拠ですか·····ゲオルギ様はジェスから話を聞いた際に、まばたきをしなくなり、口に手をやり、足を組みかえました。これらは、嘘をつく時に自然と人が行ってしまう行動なんです」


「な!?そうなのか親父!?嘘ついてるなら、俺は使獣の力で、親父の真意を嗅ぐぞ!」


ゲオルギは目を見開くと、乾いた声で笑った。


「はは·····まさか、ジェームズの娘がこんなに有能とは知らなかったよ。君の言う通りだ。私はクロード王子が捕えられていると知っている·····」


「·····!?なぜ、私がジェームズの娘だと·····女だと分かったのですか?·····ジェスが伝えたの?」


「いや、俺は言ってねぇぞ?」


(まさか、誰かが告げ口した!?他に私が女だと知ってるのは、ソフィアか、クロードか、トム先生のはず·····あと知ってるとしたら、襲ってきた海の民くらいのはず··········ま、まさか!?)


ゲオルギはこめかみを指でもみながら、眉間にシワを寄せた。


「しまったな·····動揺して言いすぎた·····。こんなミスをするとは、疲れが溜まってるな·····。ちょっと人の来ない所へ移ろう」


ゲオルギは、執務室の裏手にある書庫に、疲れた足取りで向かった。

ジェスはよく状況を把握出来ていないようで、頭に疑問符が浮いている顔をしてゲオルギの後を着いて行った。

書庫に着くと、ミカは怒りを抑えた静かな声で、ゲオルギを問い詰めた。


「ゲオルギ様。あなたが、ジェームズとミカエルを暗殺させた黒幕ですね。そして、イーサン王と、クロード王子の暗殺も、あなたが海の民と共謀してやったのですね」


ゲオルギは深く溜息をつくと、低い声で言った。


「この国の為だったんだ·····イーサン王の元では国がダメになる·····仕方がなかったんだ·····」


「う、嘘だろ親父!?イーサン王の暗殺はともかく·····あんなに仲良かったジェームズのおっちゃんを何で!?」


「あれは·····仕方がなかったんだ·····」


ゲオルギの言葉に、ミカは冷たく言い放った。


「どうせ、ゲオルギ様と父ジェームズと2人でイーサン王を暗殺する計画を練っていたが、途中で意見が割れて仲違いしたとかだろう·····」


ミカの言葉に、ゲオルギが自嘲気味に返した。


「すごいな·····。ジェームズはよく、子供二人が頭が悪くて心配だと嘆いていたが、あれは杞憂だったんだな。·····ジェームズとは、クロード王子の命を巡って仲違いしたんだ。ジェームズはクロード王子に罪はないから見逃すように言ったが、イーサン王の暴挙に対する海の民の怒りを鎮めるには、クロード王子には責任を取って犠牲になってもらうしかなかったんだ·····」


ゲオルギの言葉に、ミカは怒りを爆発させた。


「責任をとってだと?!クロードになんの責任がある!?冷遇された王子に何ができた!?責任があるとしたら、イーサン王の側近で周りからも認められた立場なのに、その暴挙を止められなかったゲオルギ様、あなたにある!違いますか!?」


ジェスも、憤って声を荒らげた。


「見損なったぜ親父っ!!もう、親父には頼らねぇ!行こうぜミカ!」


肩を落とし言葉もなく立ち尽くすゲオルギ・ドーベルを残し、ジェスとミカは王宮を立ち去った。


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