復活の黒い翼
「え。··········じ、冗談だよね·····」
ミカは全身凍りそうになりながら、縋るようにジェスに聞いた。
ジェスが首を振りながら、苦しそうに言った。
「俺が親父に会いに王宮に行ってる時に、イーサン王とクロード王子が殺されたと伝令が来たから、本当だ。·····王妃の葬式中に船が爆破され、沈没し始めた所に海の民の憑依型使獣の鮫がイーサン王とクロード王子を食い殺したとの話だ」
「·····ジェームズとミカエルが殺された時と同じだ」
「ああ、恐らく暗殺犯は同一の人物だろう·····王宮は、大混乱で·····報復に海の民との戦争を始めようだとか、イーサン王は殺されて当然だったとか、皆言いたい放題のパニック状態だ。取り急ぎ、俺の親父が王の代行をすることになって、話が落ち着いてきたんだが·····俺も、クロードが死んだなんて、まだ信じらんねぇ····」
ミカは呆然と、ジェスの話を聞いていた。夢の中にいるかのようで、頭が上手く働かない。
ジェスとソフィアが真剣な顔で何か話し合っているようだったが、放心状態のミカの耳には聞き取れなかった。
ソフィアが心配そうな顔で、ミカを覗き込みながら言った。
「ミカエル様·····お疲れのようですから、いったんお部屋で休まれた方がいいと思います。その手紙はどうぞ、差し上げますので·····」
ミカは、ぼんやり頷くと男子寮の自室に歩いて戻った。
部屋に戻ると、ダルが心配そうに駆け寄った。
「ミカ!?大丈夫かウサ?顔色が真っ青ウサ!ベッドに座った方がいいウサ!」
「ああ。·····ダル。これって、夢だよね?」
「どうしたんだウサ?夢ではないウサ!顔を叩いてあげるウサ」
ダルにふさふさした手で、テシッと優しく顔を叩かれた途端、ミカはボロボロと泣き出した。
「どうしたかウサ!叩いたのが、痛かったウサか?優しく叩いたつもりだったウサ!」
「うぅぅぅ、違うの!·····ダルは悪くないの·····ク、クロードが·····クロードが死んじゃったの··········うわぁぁぁうぅぅ」
泣き崩れるミカに、ダルは驚いた様子でウロウロしてから、ミカの頭をポンポンとふさふさの手で撫でてあげた。
どれくらい泣いただろうか、ミカが少し冷静さを取り戻してきた頃、ダルが叫んだ。
「ミ、ミカ!窓の外を見るウサ!あれ、クロードの使獣のグラみたいだウサ!」
ミカは泣き腫らした目で、窓の外を見て驚いた。
「え!·····ほ、本当だ。クロードの黒鷲のグラに似てる·····」
もう日も沈みかけた夕焼け空の中を、1羽の黒鷲がヨロヨロとこちらに向かって飛んでくる。
ミカは急いで、窓を開けて声をあげた。
「グラ?·····グラなの?お願い、こっちへ来て!」
黒鷲は、ヨロヨロと飛行しながら、ミカの窓辺に辿り着いた。
「この模様!グラだ!·····え、血が出てる!羽に矢傷がある!怪我してるのね!今、手当するから、ちょっと待って!」
ミカは急いで、包帯と救急セットを持ってきて、グラの手当を始めた。
「·····鳥は少しの出血でも命取りになるって、獣医の和恵ばあちゃんから聞いたことがある。·····苦しい中、頑張って飛んできてくれたんだね。ちょっと圧迫して止血するね·····それから、消毒しなきゃ」
処置を終えると、グラはようやく落ち着いたようで、ミカが用意した水をカプカプ飲んでから「クークー」と鳴いた。
「使獣のグラが生きてるって事は、クロードも生きてるって事だよね!?」
ミカは、自分の体が甦ったかのように、急に心臓の鼓動が早くなるのを感じた。
「クークー·····クー」
一生懸命伝えようとしてくれる黒鷲のグラの言葉を、ダルが訳してくれた。
「クロードは、ここから東の果てにある海の民の城、その塔の上に閉じ込められてる。早く助けないと命が危ないクー·····って言ってるウサ」
「そうだったのね!!今すぐ私が助けに行きたいっ!·····けど、たぶん1人で城攻めは無謀だし·····私の勝手な行動が引き金になって、サムグレース王国と海の民の戦争になっても困る。·····ここは、王の代行してるジェスのお父さんにお願いするのが、順当なんだろうな。·····そうと決まれば善は急げだ!ダルは部屋で待っててね」
ミカはグラを抱えてまず学園の医務室へ行き、当直の獣医にグラを預け、それからジェスの部屋へ走った。
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