悲しみの予兆
厩舎につくと、かぐわしい馬糞の匂いがした。
ちょうど馬房掃除のタイミングだったようだ。
ミカは、ティラノ号に挨拶してから、ホセの姿を探した。ホセは馬房掃除用の棒の先にフォークがついた道具を持ち、セッセと藁と馬糞をよりわけていた。
「やっほー、ホセ君!私も馬房掃除させてもらってもいいかな?あっちにある、道具借りるねー!」
「ええ!?ミカエル様!?貴族の方に馬房掃除なんて、申し訳ないことさせられないです!」
「大丈夫!私、馬房掃除が好きだから!気分転換に手伝わせてもらえないかな?暇だし·····誰か来たら隠れるから!」
「ええ!?本当に、いいんですか?じゃあ·····お言葉に甘えて、お願いします。·····実は、すごく助かります!今日もう1人の当番の子が、体調不良で休んでるので、30頭近くの馬房掃除を1人でやるのは厳しいなぁって困ってたんです!」
「そうだったの。それならちょうど良かった。夕方まで時間があるから、それまで手伝わせて!」
「本当に、ありがとうございます!」
ミカは、それから馬房掃除に精を出した。カラッと暑い日だったので、汗をたくさんかいたが、それが気分よかった。
「わ!ミカエル様もう、10頭分の馬房掃除が終わったんですか!?しかも、どの馬房も糞ひとつ落ちてなくて、藁もフワフワ!こんな短時間でどうやったんですか!?」
「お。もう10頭分終わったか!いやー!久しぶりの馬房掃除が、楽しくて夢中でやってしまったよ!コツとしては·····そうだなぁ。馬を外のつなぎ場に連れてってから掃除すると、ムラなく全体を綺麗にできるよ!あとはねー·····藁をこうやって·····壁に叩きつけて·····柔らかくしてから、空気を入れるように置くとフワフワになるよー!」
「なるほど!さすがです!僕もやってみます!」
「あ!そろそろ、餌を作る時間だよね?私があと残りの馬房掃除やっておくから、ホセ君は餌の準備お願いできるかな?」
「はい!ありがとうございます!」
それからミカとホセは馬房掃除と、馬の放牧、その後の手入れをひたすら30頭分行った。
途中で昼休憩を挟んだが、すべてが終わる頃には15時くらいになっていた。
「ふー!久しぶりに、いい汗かいたなぁー!」
「ミカエル様!今日は本当にありがとうございました!!ミカエル様の作業が早いお陰で、いつもは手が回らなかった餌の在庫管理や、馬たちの蹄の手入れまでやる事が出来ました!·····僕は給与を貰っているのに、ミカエル様は無償でこんなにやってもらって、本当に申し訳ないです·····。」
「いいよいいよ!気にしなくて!私がやりたくてやったことだし!」
「ありがとうございます!ミカエル様にはいつも助けてもらってばかりで·····何か僕のお役に立てる事が、今後ありましたら言ってくださいね!全力でミカエル様の力になりますので!」
「うん。ありがとう。ホセ君!じゃあ、私はもう行くねー!」
ミカは男子寮に戻り、シャワーを浴びると身支度を整えて、ソフィアとの待ち合わせのバラ園に向かった。
バラ園に着くと、ソフィアが立って待っていたので、ミカは駆け寄って声をかけた。
「遅れてごめん!待たせてしまったかな?」
「いえいえ!今ちょうど16時なので遅れてないです!私が早く来すぎただけですので!·····これが、例の手紙です。」
ソフィアに年季が入って少し黄色くなった手紙の封筒を渡された。表に流暢な字で『男装した女性のアナタへ』と書いてあり、裏面に『注意・そうでない人がこれを読むと酷い目にあうわよ。くれぐれも本人以外は読まないようにね』と小さく書かれていた。
「わざわざ、自宅に取りに行ってくれて、ありがとう·····開けていいのかな?」
ゴクリと唾を飲み、ミカが手紙を開けようとした瞬間、切迫した様子のジェスの声が耳に届いた。
「ミカ!いるか?おーい!どこだ!?」
「ジェス!?どうしたの!?」
「あ!ミカ!ソフィアもここにいたのか·····はぁ、はぁ·····探したぜ!」
ジェスは走ってきたらしく、息を切らしながら言った。
ジェスのその声は聞いたことないほど暗く、その表情は見たことないほど青白かった。
「ジェス!どうしたの!?何かあったの?」
「いいか·····落ち着いて聞けよ、ミカ······クロードが死んだ·····。」
ジェスの言葉に、ミカは全身の血が凍りついたように冷えていくのを感じた。
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