お手をどうぞ、お嬢様

ダンスパーティには、全校生徒が参加する大がかりなものだった。

使獣は皆、各自の教室で待機している。


ホールには管弦楽団も来ており、次々にワルツが演奏されている。


まずはクラスごとの男女のペアで、ダンスをする事になっている。

ミカはナンシーの手を取り、言った。


「ナンシー、そのパステルグリーンのドレスとっても可愛いよ!今日は、私のダンスのパートナーになってくれてありがとう。私はあまりダンスが上手ではないけど、精一杯頑張るよ。」


「ミカエル!!ありがとう!ウチも頑張って踊るね!」


ナンシーは、明るい笑顔を返してくれた。


ミカとナンシーがなんとか1曲、無事に踊り終えると、ナンシーは別のクラスの男子生徒から「1曲踊って貰えませんか?」と声をかけられた。

ナンシーは迷っていたが、ミカが「是非、いっておいで」と笑顔で勧めるので、オロオロしながらナンシーはその男性とその場を離れて行った。


「さてと·····クロードは大丈夫だったかな?あと、キースも探さないとな·····」


ミカがホールを見回すと、イザベラを見かけたがキースではなく、他のクラスの男子生徒とダンスをしていた。

また、ソフィアとジェスが2人で楽しそうにダンスしている様子も見かけた。ソフィアは初心者と言っていたが、ジェスが上手くリードしているせいか、二人共とても息があったステップで踊っている。


ミカが全体を見渡そうと、ホールの端へ移動するとヨロヨロと青い顔でバルコニーに向かっていくクロードの姿を見つけた。

ミカは急いでクロードに駆け寄って、話しかけた。


「クロード!大丈夫だった?」


「ああ、ミカ·····なんとか1曲踊りきったよ·····相手の顔を見ないようにして、『私が手を握っているのはミカだ!』って何度も念じたら、吐かずにすんだ·····だが、外の新鮮な空気を吸いたい·····」


「クロード!肩ささえるよ!バルコニーへ出よう!」


バルコニーには、先客が1人いた。キースが柵にもたれて、遠くの夕日を1人眺めていた。


「キース!こんな所にいたのか!」


「ミカエル。それに、クロードも·····大丈夫か?クロードの顔色が悪いみたいだが?ここのベンチに座るといい。飲み物を取ってこよう。水でいいか?」


「すまない·····頼む」

「ありがとうキース!」


外は綺麗な夕焼け空で、涼しい風が吹いている。

クロードも、少し顔色が良くなってきた。

キースが水を持って戻ってきたので、ミカはジュリアとの約束を思い出して聞いた。


「水をありがとう、キース。そう言えば、キースってジュリアの婚約者なんだよね?」


「そうだが·····それがなんだ?」


「クロードがジュリアにダンスを申し込んだ事、内心複雑だったんじゃないかなーって思って·····」


クロードが「はっ!」と気づいたようで、慌てて頭を下げた。


「キース!すまなかった!婚約者のジュリアを、私がダンスの相手に横取りする形になってしまい。·····実はあのダンスの申し込みは私の意思ではなく、ジュリアの使獣の力で操られてたんだ。」


キースは頭をふりながら、深い溜息をついた。


「はー。そんな事だろうと薄々、気づいてました。こちらこそ私の婚約者が、ご迷惑お掛けして申し訳ありません·····王族を騙すとは、死刑になっても仕方ない行為だ。いったい、何を考えてるんだ、ジュリアは·····だが彼女はまだ、色々男遊びしたい年頃なのだろうな。あの、男を誘うような服装も出来ればやめて欲しいのだが、たかだか婚約者の分際でそんな事を言う訳にもいかないしな。」


「キースはジュリアの事を、嫌いな訳ではないんだよね·····?」


ミカが恐る恐る聞くと、キースは少し顔を赤らめて言った。


「嫌いな訳ではない。将来一緒になる相手だから、理解したいとは思うのだが·····正直、何を考えてるんだか分からなくて、困ってはいる。」


すると、突然柱の影からジュリアが現れて、泣きそうな声で言った。


「考えてることなんて、キースの事だけに決まってるでしょ!バカっ!」


どうやら、バルコニーの手前の柱に隠れて話を聞いていた様だ。ジュリアはポロポロと涙をこぼしながら言った。


「キースに惚れてもらいたくて、頑張ってこんな服装してるのよっ!キースに嫉妬してもらいたくてクロード様を騙したのよっ!私の行動は、全部ぜんぶキースが好きだからよっ!なのに、なのに·····何考えてるか分からないって、何なのよ·····うわぁぁぁん。」


突然現れて泣き出したジュリアに、狼狽えているキースの背中を、ミカがポンと押し出した。

キースはジュリアに近寄り、声をかけた。


「ジュリア·····そうだったのか。気づけなくって悪かった。·····お詫びに私と1曲踊ってくれないか?」


「·····嫌よ。」


「え!?」


「1曲じゃなくて、もっと沢山私と踊ってちょうだい!」


「はは·····承知致しました。お嬢様。」


キースとジュリアはダンスホールに姿を消したのだった。


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