バラ園での約束
厩舎に着くと、ミカはティラノ号の馬房へ急いだ。
ティラノ号は、ミカの声にすぐ反応して顔をすり寄せてきた。
耳を伏せてお尻を向けていた以前のティラノ号の反応とは、大違いだ。
「ティラノ号は裏切らないでくれて嬉しいよ。·····いや。別に、クロードに裏切られた訳では無いのだけど·····。」
ミカがぶつぶつ独り言を言っていると、ティラノ号がミカの右腕をふんふん嗅いだ。
「あ·····噛んだ後を気にしてるの?よく覚えてるねー。やっぱり馬って記憶力いいよねー。もう痛くないから、大丈夫だよー。心配してくれて有難う!·····そうだよね。銀じいちゃんの事とかクロードの事とか考えたいことは色々あるけど、今は置いといて、ティラノ号に集中しないと!上の空の乗馬は、事故の元だからね!」
ミカはすっかり気持ちを切り替えて、ティラノ号を馬装し、ひらりと跨り、馬場に出た。
今日は2時間連続で、馬場馬術の授業の予定だ。
経験者達はウェイド先生に、一人ずつ高難易度の技を見てもらっている。
馬が肢を高く上げて跳ねるような速歩をするパッサージュ、その場で足踏みをするピアッフェ、後肢を中心にしてその場で一回転するピルエットなどだ。
上手く出来ない場合は、ウェイド先生がその馬の騎乗を代わりお手本を見せてくれるし、指導も的確であった。
ウェイド先生の指導の様子を見て、ミカは反省した。
(以前、ティラノ号でウェイド先生を蹴飛ばしてやろうかと思ってしまったことがあったけど、本当に短慮だったな。·····クロードからウェイド先生の過去を聞いた今、本当に努力してきた方なんだと分かる。やっぱり何事もその人の事をよく知らないとダメだなぁ·····あ。でも、相変わらずソフィアを除け者にするのね。お!ジェスがソフィアに教えてあげてる!良かった良かった。·····あー、ジェスがウェイド先生に呼ばれてしまったか!)
ミカは、ジェスがウェイド先生に呼ばれてそばを離れたあとで、馬場の端の方で1人で軽速歩の練習をしているソフィアに近づいた。
「少し見ない間に、とっても上手になったね!もう軽速歩が出来るなんてスゴいよ!」
「ミカエル様!ありがとうございます!ジェスとミカエル様のおかげです!」
「あ、ミカエル様じゃなくて、私もミカエルって呼び捨てでいいよ!」
「いえ!ミカエル様は私にとって特別な方なので様付けで呼ばせてください!··········あの。良かったら、馬術の授業の後、2人だけでお話出来ませんか?ちょっと、お話したい事があるんです·····。」
「いいよ。じゃあ、クロードとジェスには先に昼に行っててもらう事にしようかな。」
「すみません!有難うございます!中庭のバラ園でお待ちしてますね!」
「分かった!·····あ、私もウェイド先生に呼ばれてしまったから行ってくるね。」
ミカはティラノ号に乗って、ソフィアの側を離れながら考えた。
(ソフィアが、2人だけで話したいことってなんだろう?·····あ!平民だからダンス踊ったことなくて困ってるとかかな?うーん、思い当たるのはそれくらいだな、他にはなんだろう·····。しまった!また、騎乗しながら、別のこと考えてしまった!ティラノ号の動きに集中しないと!)
そこからミカは、集中して授業を受けた。
ティラノ号は驚く程、ミカの指示を忠実に従ってくれるのでウェイド先生も指摘する点がない程であった。
授業が終わり、ティラノ号から降りながらミカは、クロードとジェスに話しかけた。
「ちょっと用事あって、お昼に遅れていくから2人で先に行って食べてて!ダルにもご飯あげておいて貰えると助かる!」
「またかよミカ!黒兎には、食わしておくけど、早く来ねぇとお前の分は俺が食っちまうからな!んじゃ、クロ!俺達は先に行こうぜ!」
クロードとジェスが去った後、ホセが元気よく言った。
「ミカエル様!ティラノ号の手入れは、僕に任せてください!最近のティラノ号は、まったく噛まないんで、手入れも楽しいんですよ!僕も馬が好きになってきました!」
「ありがとう、ホセ君!じゃあ、私はティラノ号の顔だけ拭いて、あとはホセ君に任せようかな?」
「はい!お任せ下さい!」
ミカがティラノ号の顔を冷たい水で冷やした濡れタオルで拭いてあげると、ティラノ号は気持ちよさそうに目を細めた。
ミカは拭き終わると、あとの手入れをホセに任せ、ソフィアとの約束のバラ園へ急いだ。
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