恋愛経験値ゼロ

翌朝には、ミカの体調はすっかり回復した。

ミカは食堂に行き、アニタさんに話しかけた。


「アニタさん、お陰様ですっかり体調良くなりました。お忙しい中、わざわざ病人用のお食事作っていただき、本当にありがとうございます!体調悪くても、とても食べやすい味付けで、すごく美味しかったです!」


「あら、元気になって良かったわね!ミカエルくん!味付けはね、クロードくんが病状を詳細教えてくれたお陰よ。『熱が高く汗をたくさんかいているようなので、塩分多めでもいいかもしれません』とか『喉の痛みはないようなので、ある程度固形物でも大丈夫そうです』とか、生真面目に教えてくれたのよ!本当に優しいわよねー!」


「そうだったのですか·····」


ミカはクロードへの思いで、胸が温かくなるのを感じた。

そんな話をしていると、クロードがちょうど食堂にやってきた。

ミカは、顔が赤くなるのを感じ、変に意識してしまい逃げるようにそそくさと椅子に座った。


(うー、恋愛経験値ゼロの自分が恨まれる·····これじゃ小学生レベルだろうな。·····告白の返事って、どのタイミングでするんだろう。やっぱり、二人きりになってから!?)


ミカがそんな事を考えながら、ソワソワしているとジェスが隣の席にドカッと座った。


「よぉ!ミカ!すっかり元気になったようで、良かったな!!」


「ああ!ジェス!心配かけて申し訳なかった。お陰様ですっかり元気だよ!」


「その割には食事が進んでないようだが、大丈夫か?また俺が食べてやろうか?」


「大丈夫!食欲はあるから!ちょっと考え事してて·····」


「何を考えてたんだ?相談に乗るぞ」


クロードが、前の席に座りながら心配そうに声を掛けてきた。

クロードの声を聞いた途端、ミカは自分の心臓の鼓動が早くなるのを感じ、それを悟られぬよう目をそらして答えた。


「あ、大丈夫大丈夫!早く食べて教室行こう!ジェス、後で昨日の分のノート見せて貰えると助かる!」


「俺のノート汚いぜ?」


そんな話をしながら、ミカとクロードとジェスは素早く朝食を食べ終え、教室へ向かった。


教室に着いた後、ジェスがミカに耳打ちしてきた。


「おいミカ!なんか、クロードに対する態度が変だったけど、喧嘩でもしたのか?」


「え!?·····そーだった?」


「ああ、ミカは全然クロードの顔見て話そうとしねぇし。·····クロードも心なしか落ち込んでるように見えるし·····なんかあったんか?」


「い、いや!何も無いよ·····あれかな、病み上がりだからかな·····アハハハ·····」


ミカの乾いた笑い声に、ジェスは訝しげな表情を見せたが、すぐ切りかえた。


「俺の気のせいなら、まぁいいけどよ。何かあったら、言えよ?·····っと、オリバー先生がおいでなすった」


オリバー先生は相変わらずの無表情だが、少し楽しげな口調で言った。


「1限目は歴史だ。今日は前回言った通り、初代国王シルバー・トラケナーの部分から始める。教科書の82ページを開くように·····」


ミカは言われた通りに教科書を開き、驚きのあまり思わず声を上げた。


「えっ!?··········」


「どうしたんだね。ミカエル君?」


「·····い、いえ!なんでもないです。すみません。どうぞ、授業を進めてください!」


「そうかね。·····初代国王シルバー・トラケナーと、その側近リカルド・キティの偉業は皆よく知る事と思うが、中でも優れた政策として·····」


ミカはそれ以降のオリバー先生の話は、あまり耳に入ってこなかった。

あまりにも、衝撃を受けていたからだ。

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