王子と側近の三角関係

闘技場へクロードに並び歩きながら、ミカは言った。


「ジェスには、転生した事は言わないまでも、女性である事くらいは話してもいいかな?」


「·····やめた方がいい。側近同士で恋仲になられても困る」


「えー!それは絶対ありえないよ!そもそも、ジェスはソフィアが好きだし·····って、うわぁ!ジェス、いつの間に!」


クロードとミカの間にぬっと、ジェスが現れた。


「よォ!ミカ!体調大丈夫か?あのタイミングで腹下すってお前っ!面白すぎるだろ!拾い食いでもしたのか?出すもの出してスッキリしたか?」


「あ、·····ああ、もう大丈夫だよ。心配ありがとう!」


「そうか、なら良かった!それより今、クロとミカで、なんか俺の噂してただろ!ジェスがどうのって聞こえたぜ!」


「あ、あー、·····あの、ジェスがソフィア好きなら、なんかの形で応援できないかなぁーなんて話をね·····」


「ああん?そんな、応援なんていらねーよ!自分で何とかするから、大きなお世話だ!まぁ、気持ちだけもらっておくよ·····っと、噂をすればソフィアがいるな!」


道の先にベビーシッター先から教室に戻ろうとしてる 、女生徒たちの集まりがあった。

4人が塊になってキャッキャウフフと盛り上がってる後ろで、ソフィアが1人ポツンと歩いている。


(分かってはいたけど、·····やっぱりアメリアもイザベラも、あんな風に私が言ったくらいでは、ソフィアと仲良くしないよなぁ。彼女たちにもプライドがあるだろうしなぁ。どうしようかな、ソフィアに話しかけようかな·····。)


ミカがそんなことを考えていると女子集団から1人、ナンシー・レオンがソフィアの元に駆け寄って話しかけた。

ナンシー・レオンはカメレオンの使獣を持つ小柄な少女だ。

肩までにある銀色の髪がクルンと外巻きしていて、周りのご令嬢に比較して、あまり華美でない質素なドレスを着ている。

ナンシーはソフィアに、明るい口調で話しかけた。


「ソフィア!あなた、子供の相手が上手ねー!」


「あ、ありがとう。でも、よく近所の子の子守りを手伝ってたから慣れてるだけよ」


「いやー!初めて会った子供たちから、あんなに大人気なのはスゴいよ!にらめっことか、いないいないばあで変顔するのとか、ウチもやってみようかなー!」


「あのね、タイミングにコツがあって、少し間をあけて·····」


ソフィアがナンシーに嬉しそうに返すと、前を歩く3人がナンシーを呼び戻した。


「ちょっと、ナンシー!こっち来なさいよ!」


「ほーい!」


「ねえ!それにしても、ソフィア・キティの変顔は酷かったわよね!そう思わない?ナンシー?」


「え、·····うん。そうだね·····」


「あんなに鼻の穴膨らましたり、ゴリラみたいに鼻の下伸ばしたり·····あんな顔、人様にさらしたら、お嫁に行けなくなるわよね!そう思わない?ナンシー?」


「あー。·····うん、そうだね。酷かった!」


4人の女生徒たちはソフィアを見ながらクスクス嘲笑った。


その様子を見たジェスが、大声で言った。


「人の悪口言ってる時のお前らの顔の方が人様にさらしたら、お嫁に行けなくなるような顔してるぜ!·····ナンシーも使獣がカメレオンだからって、お前の態度までカメレオンじゃ、ダメだろ?」


4人の女生徒たちは、口々にジェスに悪態つきながら教室に逃げた。ナンシーだけは顔を赤らめて、苦しそうな顔をして黙った。


「ジェスのガサツ男!」

「デリカシーなしのあなたこそ、結婚できないわよ!」

「そうよ!誰も、あんたなんかのお嫁に行きたくないわよ!」


ちょうど曲がり角でミカとクロードの姿が見えなかったせいか、皆言いたい放題だ。


ジェスがソフィアに駆け寄って言った。


「悪い!口出しする気なかったのに、我慢出来ずに余計な事、言っちまった!俺のせいで立場悪くなったら、申し訳ない!」


「いえ·····お気遣いありがとうございます!ジェス様!」


「ジェスで良いって!呼び捨てしてくれ!·····その持ってる本は、何読んでるんだ?」


「ホラー小説です」


「うぉ!意外なもん読んでんだな!」


「最近暑いので·····背筋がヒヤッとするので丁度良いんです。今読んでる部分は、猫の首を切るのが趣味の猟奇的な人が·····」


「あー、説明しなくていいです。マジで!俺、そういう話、ちょっと苦手なので·····」


慌てるジェスの様子にソフィアはクスッと可愛く笑った。

その様子を遠巻きに見ていたクロードとミカだったが、クロードが急にポツリと言った。


「そういえば、ソフィアはリカルド・キティの血縁だったな·····私もソフィアに話しかけてみよう」


「あー!ちょっと待って!せっかくジェスとソフィアがいい感じなのに·····」


ミカが小声で止めたが、聞こえなかったらしいクロードが2人に近寄っていきソフィアに話しかけている。


(そう言えば、心理学の本で人はストレスを抱えている時にホラーを好む傾向があるって書いてあるのを読んだことがあるな。新しい環境で、除け者にされたら、そりゃあストレス溜まるよなぁ。ソフィア大丈夫かな·····。それにしても、クロードは時々、空気読めないよなぁ。いや、わざとジェスの邪魔したのか?やっぱりクロードが好きな人ってソフィアなのかな?··········あれ、なんでだろう悲しくなってきた。あ、もしかして、ミッシェルの体だから!?クロードを好きなミッシェルの意識が体に残っていて、私を悲しくさせるのかな·····)


ソフィアがクロードとジェスと仲良く話してるのを見つつ、ミカは自分の心の動きに首をひねった。

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