寝苦しい夜に
使獣は満月の光を浴びると、その能力が強まるという。
それゆえ使獣達は満月の夜には、教室で寝る。ガラス張りの天井で月の光を浴びられるからだ。
その日は蒸し暑く、寝苦しい夜だった。
いつもはミカと寝ているダルだが、今夜は満月なのでダルは教室で寝ている。
◆◆◆
翌朝、ミカが教室に行くと女生徒たちの悲鳴が聞こえた。
ソフィアがしゃがみ込んで泣いており、取り囲んだ周りの生徒達も青ざめた顔で、呆然と立っている。
「ソフィア、どうしたの?何があった·····えっ!」
ミカはソフィアに話しかけようとして、その手元に抱かれた血塗れの白猫の胴体を見て衝撃をうけた。
猫の頭のあるはずの所に、何も無い。
白猫の首は刃物でスパッと切られたような形跡であった。
首元の血は赤黒く固まっている。
体も死後硬直でまるで標本のように固くなり、綺麗な純白だった体毛は薄汚れた雑巾のような色になっている。
「だ、誰がこんな事を·····」
涙に声を詰まらせるソフィアの代わりに、クロードが静かに答えた。
「分からないらしい·····朝、教室に来たら、白猫が首を切られ殺されていたそうだ·····猫の頭部もまだ見つかっていない」
いつの間にかオリバー先生が来ており、いつもの無表情で言った。
「門番にも確認したが、誰も侵入した形跡はないらしい。つまり学園内の何者かが犯人だ。知っての通り使獣を殺すことは死刑に値する重罪だ。·····そして、辛いところ悪いが、ソフィアは学園を退学してもらうことになる。使獣のいない平民はこの学園に通えない規則なのだ·····」
ソフィアは聞こえているのかいないのか、すすり泣くばかりだった。
そんなソフィアの背中を、ジェスがさすってあげながら言った。
「絶対に、俺が犯人を見つけて仇をとってやるからな!本当に最悪最低の犯人だ!俺が殺してやる!」
ミカはあまりの事態に呆然としながら、ダルに話しかけた。
「ダルなら昨夜教室にいたから、犯人を見たんじゃない?」
ダルは憂鬱そうな声で返してきた。
「ここでは話せないウサ。·····人のいない所に行くウサ」
ミカは、ダルの後を歩き誰もいない空き教室に行った。
ダルが言いにくそうに口を開いた。
「ミカ·····落ち着いて聞くウサ」
「うん。犯人は誰なの?」
「ミカが寝てる間に、ミッシェルの意識が戻ったのだウサ」
「え·····どういうこと?」
「犯人はクロードとソフィアの仲に嫉妬して、ソフィアを退学させようとした·····ミッシェルだウサ」
「ま、まさか·····」
「ミカ·····信じられないなら、その腰にさげている剣を抜いてみるといいウサ」
「え·····」
ミカはダルに言われた通りに、エメラルドの飾りのある剣を抜いてみて、驚愕した。
剣にはべっとりと血が付着しており、所々に白い毛もついていた·····
◆◆◆
ミカは声にならない叫びを上げて、飛び起きた。
「はぁ、はァ·····ゆ、夢か。よかった·····」
全身に冷や汗をかき、汗だくになっている。
「今日は暑くて寝苦しいから、こんな夢を見たのかな·····。まだ、鳥肌たってる。あれ?ダルがいない·····あ、そっか今夜は満月だからダルは教室で寝る日か。とりあえず着替えなきゃ。喉も乾いたな」
ミカはベッドから立ち上がって、コップに注いだ水をゴクゴクと飲みながら、ふと窓の外をみた。
ミカの窓からは、ダルがいる教室が遠目に見える。
「まさか、正夢とかにはならないよね·····えっ!?」
ミカは月あかりに照らされた教室で、一瞬何か、銀色に光る物を見た気がした。
「剣·····とかではないよね?夜間、生徒は出歩いてはいけないんだったよなぁ。でも、何かあってからでは遅いし·····しかたない、行ってみるか」
ミカは手早く胸元に包帯を巻きつけ、着替えた。そして、男子寮を出て教室に向かったのだった。
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