そういえば、半裸でしたね·····
ミカの話を静かに聞いていたクロードが、口を開いた。
心なしか表情が穏やかになり、いつものクロードの雰囲気に少し戻っている。
「なるほど···············だから、急にミカの雰囲気が変わったのか。·····使獣と話せるというのも、驚きだが·····確かに話している素振りの時もあったな。·····働きアリの法則など、私が聞いた事もない知識を知っていたのも、そのせいか·····」
「信じてくれるの?こんな話·····」
「にわかには色々と信じ難いが··········ミッシェル本人だと言われるより、よっぽど信憑性がある話だ···············ふー。·····申し訳なかった。剣など向けてしまい·····」
クロードは大きなため息をついて剣をしまい、クルリと背を向けた。
「·····目のやり場に困るので、早く着替えて貰えると助かる·····」
ミカは包帯がほとんど解けて、豊満な胸があらわになっているのに気づき、慌てて手で隠しなおした。
「あ·····うん。ちょっと待ってね·····」
よく見ると、クロードは耳まで真っ赤になっており、さっきまでの冷酷王子の雰囲気は、すっかり無くなっている。
クロードが、ひどく落ち込んだ調子で言った。
「·····どんなに忌み嫌っていても、とっさの時にはイーサン王と同じような言動をとってしまうものだな。·····これが、血というやつか·····」
クロードの絶望した様子がいたたまれず、ミカは大きな胸に包帯を巻き直しながら声をかけた。
「血ではないと思うよ·····昔、心理学の講義で聞いた話だけど、『親のようになりたくない』って強く思えば思うほど、逆に親と同じような言動をとってしまいがちになるんだって」
「·····そうなのか?それは何故だ?矛盾してないか?」
「○○絶対にしない!って思うことで、逆にその○○の部分が強く頭にイメージされて、こびりついてしまい、とっさの時にその脳内に刻まれた行動をとってしまうらしいよ」
「·····なるほど。確かに脳内にこびりついてしまっているかもしれない·····でも、なら、どうすれば良かったのだ?」
「○○しない!ではなく、○○したい!こうなりたい!という前向きな願望をイメージすると良いらしいよ」
「そうか·····ありがとう。ミカはいつも私の心を救ってくれるな。·····それなのに、酷い言動をとってしまい、本当に申し訳なかった。···············王族に対し偽ることが死罪ならば、この国のほとんどの貴族は死刑にしなくてはいけないしな」
「私が性別を偽ってミカエルのフリをして騙していた事は事実だから·····その事は私も謝るよ·····」
「いや、その状況ではそうせざるを得なかったのもわかる·····それに、ミカの今までの言動は本心からのものだろう。偽ってる様には見えなかった。·····女性でいてくれたことに、正直ほっとしている自分もいる·····」
「それってどういうこと?」
包帯を巻き終えて、シャツを着終えたミカはクロードの顔をのぞき込んだ。
すっかりいつものクロードの表情に戻ってることにミカは安心した。
クロードは、なぜか顔を赤らめて言った。
「いや、それは何でもない·····それより、着替えが終わったのなら、闘技場に戻るぞ!ジェスが心配しているだろうからな!」
「あ。うん。·····えっと。私は、これからも、このままミカエルのフリをしていても、いいのかな?」
「そうだな·····イーサン王に女だとバレたら、王に偽ったと言われて問答無用で殺されるだろうから、秘密にしておいた方が賢明だろうな」
「そっか。なんか騙すようで悪いけど·····転生した、なんて話を信じてくれる人は、クロードくらいだろうしなぁ」
「それにしても、ミカエルとジェームズを殺した暗殺犯は気になるな·····水門があるから海の民だけでラビ家の屋敷近くの入り江までは入れないはずだ。·····憑依型使獣を手引きしたのは、水門を開ける権力のある貴族が黒幕だな。·····そいつが、生き残ったミカを殺しにくる可能性は高いから気をつけるんだな」
「あー、うん。ありがとう。私も気をつけてるんだけど、今のところ大丈夫だよ」
そんな話をしながら、2人は闘技場へと歩いて行ったのだった。
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