冷酷王子に殺される!?

ミカは前屈みで、服の中の解けた包帯を片手で握りつつ、ダッシュで男子寮の自室に戻った。


(ともかく新しい包帯を確保して、巻き直さなくちゃ!あー、迂闊だったなぁ。ウサギの歯の鋭さを考えれば、包帯に切れこみが入るのは当然だ!ともかく、急がなくちゃ!)


ミカは自室の包帯の保管してある扉を開け、シャツを脱ぎ、巻き直していると、廊下から足音が聞こえてきた。


「·····あ!まずい!部屋の鍵をかけそびれてた!」


ミカは、ティラノ号に噛まれた動きづらい右手で包帯を巻きながら、鍵を閉めようとドアに向かった、その時··········

余った包帯が、机の上に放置してあったガラスのコップにあたり、ガチャーンと音を立ててコップが床に落ちて割れた。


ミカの脳裏に『ミスやトラブルの原因は5Sの徹底不足』という言葉が浮かんだのと同時に、部屋の扉がバターンと開いてクロードが入ってきた。


「大丈夫か!ミカ!すごい音がしたが、倒れたのか!!···············は!?」


クロードは、大きな胸に半分包帯を巻いた状態で固まっているミカを見て、止まった。


(まずいマズイまずい!これは、もう誤魔化しようがない·····。)


「···············お前は誰だ?·····そこに跪け。王族に対し偽ることは死罪だと知っているな?」


クロードがいつもとはまるで別人格のような、聞いた事のないほど冷たい声で言い、帯刀している剣をスラっと抜いて、ミカの首にピタっとあてた。


ミカは首元の剣の冷たい感触と、クロードの言葉に総毛立った。

『冷酷王子』という単語が頭にこびりつく。

ミカは胸元を手で隠し跪きながら、震える声で言った。


「申し訳ございません。·····ただ、偽るつもりはなく·····。これには、事情があり·····」


「事情とは何だ、申してみろ·····」


クロードの冷たい視線に怯えながらミカは、トム先生に話したのと同様の内容をクロードに伝えることにした。

鮫の憑依型使獣に船上で襲われた件を話し、父と兄を殺した犯人を探すためにミカエルになりすましたと説明した。


頭の中ではヒロコが言っていた『ミッシェルはどうあがいても死刑になる』という言葉が浮かび、この説明でもクロードにこのまま首を切られ殺されるのではないかとビクビクした。


説明を終え、クロードの様子を伺うと、今だに厳しい表情でいた。


「·····お前はミッシェルでミカエルになりすましていたという事か···············嘘だな」


「えっ!」


「お前は外見はミッシェルかもしれないが、中身はミッシェルではない!」


「ど、どうして·····」


「そばにいても、私の吐き気が生じないからだ!私のご令嬢恐怖症は見た目ではなく、中身の甘ったれてる雰囲気に吐き気を感じるのだ!ゆえに、お前はミッシェルではない!」


「そんな事を、堂々と言われても·····」


「ミッシェルの体に別の誰かが憑依している様に、私には感じる。·····偽り続けるならば、憑依している相手が敵である可能性を考え、このまま首を切る!」


「ええー!?ちょっ!ちょっと待ってください!言います!全て言います·····別に偽ろうとした訳ではないから!正直に言っても信じてもらえないだろうと思って、言わなかっただけだから!」


ミカは洗いざらい話すことにした。

自分が前世はアラサーの外資系企業の人事部OLで、事故で死んだ後に、この世界に転生した事。ダルの言葉が何故か分かるので、ダルにこの世界について色々教えて貰った事を説明した。


さすがに、この世界が恋愛ゲームの世界である事は言わなかった。クロードが主人公ソフィアの攻略対象である·····なんて話をする勇気はミカにはなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る