王子の嫉妬
闘技場は、円形の体育館のような造りだった。体育館との大きな違いとしては、壁沿いにズラリと甲冑と剣が飾ってある点だ。
(入学時に預けた剣はここにあったのか·····。)
皆が、自分の剣を探し甲冑の兜の部分のみ被ってるのを見て、ミカは真似してエメラルドの飾りのあるミカエルの剣を探し、帯刀した。
(竹刀や木刀ではなく真剣で戦うのか?甲冑は頭だけしか身につけないのなら、危険すぎるのでは!?)
ミカの心配をよそに、チャイムと共にきたウェイド先生が告げた。
「本日はトーナメント形式で試合を行う。まずは、ジェス君とフィン君で試合をし、次にクロード様とキース君。両者で勝った方同士が戦い、残った勝者1人とミカエル君が戦う形だ!」
「えっ!?なんで私が、シード扱い??」
「当たり前だろう。中等科の大会で1位とった実力者なのだからな!」
(えー!そうなの?ミカエルそんなに剣術が得意だったのか!?知らなかった!意外だ!どう見てもジェスとかの方が、ガタイ良いから強そうだけど。·····なんでだ!?マズイな。·····日本の剣道五段は持ってるけど、どこまで通用するか·····。)
慌てるミカをよそに早速、第一試合が始まった。
両者、上着を脱ぎ白シャツ1枚と白ズボン姿で甲冑を被り、フェンシングの試合着のような格好ある。
両者、一礼し試合が始まった。
フィンは馬術の授業で、ミカの前に走行した小柄な少年だ。
(·····水濠で馬が急停止し落馬した際も、クルッとバク転して綺麗に着地していたから、運動神経が良さそうだなぁ。そういえば確か彼も、攻略本に載ってたな。)
ミカはフィンの情報を思い出した。
【フィン・ジャーブル】
・銀色がかった灰色の髪で、くりっとした目の小動物系の顔をした小柄な少年。
・運動神経がよいが、本番に弱いタイプ。
・性格は基本的には明るいが、打たれ弱い。
・甘いものが大好物。
・使獣はスナネズミで、その力は砂嵐で相手の視界を奪うことだ。
フィンがジェスに怒鳴るように言った。
「ジェス!ボクは父の恨みを晴らすため、この場を借りてキミに決闘を申し込む!ウェイド先生の許可も貰ってる!」
「ええ!マジかよ!お前の父ちゃんに、俺は何もしてないぜ!?ほとんど会ったこともないし·····」
「先だっての戦の際に、私の父がいつも通り先陣を任される予定だったのに、キミの父親ゲオルギ・ドーベルに役立たず扱いされて、戦の後方に追いやられた!お陰で父は未だに、周りから『役立たずのスナネズミ』と罵られている!」
「親父の言動の責任を俺に問われてもなぁ。·····あー。でも、俺もよくクロードにイーサン王の言動について、とやかく言っちまってたな!·····うわー、反省するわー·····」
「話を逸らすな!ともかく、決闘を申し込む!ボクが勝ったら謝罪しろ!」
「うえー、マジかよ·····まぁいいや、受けてたちますよ!」
ジェスとフィンの剣の打ち合いがはじまった。フィンは身のこなしの軽さを利用して、怒涛の打ち込みをしているが、ジェスはリーチの長さを利用して、最小限の動きで軽くいなしている。
(ジェスがミカエルに負ける理由がわかった。ジェスはまったく本気を出していない·····相手を傷つけないように軽く流しているだけだ。ジェスにとってクラスで1番になることや、試合に勝つことはそんなに重要なことではないのだな。·····きっと勉強も出来ないし、活躍できるのは剣術だけの必死のミカエルに勝ちを譲ってあげていたのだな。·····あの剣さばきや身体の使い方を見るかぎり、本気になればジェスが1番になるのだろうな。)
ミカがそんな事を考えながら、試合を観戦していると、隣のクロードが話しかけてきた。
「珍しくキースと仲良さそうに話していたな。·····楽しそうに何を話していたんだ?」
「えっ?ああ·····出産の事とかだよ?」
「·····出産のこと!?」
クロードはなぜか機嫌が悪そうだったので、ミカは慌てて話題を変える為に言った。
「そう言えば、試合と決闘って何が違うの?」
「·····ミカも知ってるだろう?試合は剣だけの勝負で、決闘は使獣の力の使用も許可された勝負だ」
「え!使獣は教室にいるのに、ここで力を使えるの?」
「使獣とは絆で結ばれてるから、遠隔でも力を使えるのは常識だが·····大丈夫か?暑さで記憶喪失か?」
クロードが訝しげに眉をひそめたので、ミカは冷や汗かきながら慌てて言った。
「そうだった!そうだった!ド忘れしてた·····アハハハ·····」
「·····まさか、信頼してる人になら、使獣の力を渡せるって事は忘れてないよな?」
ミカは内心(えー!そうなの?知らなかった!)と思いつつ、平静をよそおい言った。
「あー!あー·····そうだったね!」
「·····私はミカになら、使獣の力を渡せると思う·····」
クロードが少し顔を赤らめて言った。ミカは(クロード熱でもあるのか?この闘技場、熱がこもって暑いからなー)などと考えつつ、あっけらかんと言った。
「私もクロードになら、使獣の力を渡せるよ!それにしても、なかなか試合の決着つかないなー」
ジェスとフィンの試合の様子に目線を戻したので、ミカはクロードが非常に嬉しそうな笑顔になっていることに気づかなかった。
息付く間もなく打ち込み続けた疲労が溜まってきたのか、フィンが肩で息をしながら言った。
「·····次で、決着つけてやる。·····使獣よ我に力を!」
「そろそろ来ると思ったぜ!使獣よ我に力を!」
ジェスの目の周りに砂嵐が起こった。ミカは剣の試合で目が見えなくなるのは絶望的ではないかと心配したが、ジェスはフィンの打ち込みを相変わらず、かわしてる。
(そうか!ジェスの使獣の力は、鼻で相手の考えを察知することだから、フィンがどこに打ち込もうとしているか臭いで分かるから避けられるのか!·····相手の考えを察知する力が、ここまでの精度とは·····ヤバいな。私に使われたら1発で色々バレるな·····。)
フィンがかわされてばかりの現状に頭に血が上ったようで、ジェスに言い放った。
「半分、穢れた血のくせに!図に乗るなぁ!」
その言葉を聞いた途端、ジェスの防戦一方の態度が変わった。
ジェスは攻撃に転じ、重い一撃をガンと振り下ろし、辛うじてフィンが受けた所を、素早く横から剣を返し、フィンの手元の剣の柄を下から打った。
フィンの手元から剣が飛び、闘技場の人のいない隅の方へカランカランと落ちた。
ジェスは、フィンの首元にピタっと剣をあてて、低い声で言った。
「俺の勝ちだな。今の発言、謝罪しろ」
「·····っく·····も、申し訳なかった·····」
「よし!俺もお前のさっきの発言は水に流してやるから、お前も俺の親父の事は、許してくれや!·····それに、その戦の件は、なんかの誤解だと思うぞ?俺は親父は好き嫌いで仕事はしねぇはずだし、役立たずなんて単語を職場で言う人でもねぇからな!」
ジェスはそう言って、フィンのそばを離れたのだった。
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