王子と側近の恋バナ

黒鷲を肩にとまらせたクロード、黒犬を足元に従えたジェス、黒兎を抱っこしたミカは、男子寮の食堂へと向かった。使獣も一緒にそこで食事をとるからだ。

この学園では寮にしか食堂はなく、男子寮、女子寮のそれぞれで男女別れてご飯を食べるので、ご令嬢恐怖症のクロードには安心の環境になっている。


歩きながらジェスが唐突に言った。

「ミカは女たらしの才能があるな」


クロードがそれに続いた。

「人たらし·····馬たらしでもあると思う」


ミカに抱かれているダルまで、それに続く。

「タラシ!?ミカは授業中ヨダレでも垂らしてたかウサ?」


「たらしてないよ!人聞き悪いな!って、·····あー、別に騙すつもりはなく、ほとんど本心で話してるよ」


ミカは思わずダルの声に反応してしまい慌てたが、ジェスやクロードとの会話としても成り立つことに安心した。


「気分を害したのなら、すまない。·····褒め言葉のつもりだったのだが·····」

「ミカは天然タラシだな!」

「天然タラシ!何だか美味しそうな言葉ウサ!」


しゅんとしたクロード、からかい口調のジェス、物欲しそうなダルが次々に言った。


「ダルお腹空い·····てるみたいだから、食堂に急ぐね」

(まずい、いつもみたいに「ダルお腹空いてるの?」って、言いそうになった!皆の前でダルの声を聞こえないふりするのって、結構むずかしいな·····。)


ミカはダルを抱いて、男子寮の食堂へと小走りしながら、ヒソヒソ声でダルに話しかけた。

「·····つい反応しちゃうから、周りに人がいる時はあまり話しかけないでくれると助かるな·····」


「わかったウサ。そして、腹ぺこだウサ」


ミカとダルが食堂につくと、青い髪の小太りの女性がせっせと食事を用意していた。


「あ!ミカエルくん!食事の用意出来てますよ!使獣の黒兎くん用のニンジンも新鮮なの用意しておいたからね!」


「いつも美味しい食事を用意していただき、有難うございます!アニタさん!」


「あら、嬉しいこと言ってくれるわね!それに、食堂のおばちゃんの名前まで覚えてくれてるのは、ミカエルくんだけよ!」


「うわぁー、天然タラシ見境ねぇな!こりゃあ、彼女が出来たら、彼女は嫉妬しっぱなしになるな!可哀想に!·····あ、おばちゃん!俺はいつも通り大盛りで宜しく!」


ジェスがもう追いついてきたようで、振り向くとすぐ後ろにいた。

ミカは少しムッとした表情で言い返した。


「別に·····アニタさんを心から尊敬してるだけだよ。だって、男子寮にいる生徒30人弱の食事をアニタさん一人で切り盛りしてるんだよ?食べ盛りの男子30人相手に、3食このクオリティで食事提供出来ることは、本当に凄いよ!」


そう言いながらミカが席に着くと、目の前の席に座ったジェスがいきなり頭を下げてきた。


「·····悪ぃな!嫉妬してるのは俺の方だった!」


「え!?どういうこと?」

「·····どういうことだ?」


ミカとクロードが同時にジェスにきいた。

ジェスが頭をかきながら言いにくそうに言葉を繋いだ。


「あー。·····あれだ。·····俺はたぶん。ソフィア・キティが好きなんだ·····」


「ええ!?会ったばかりなのに!?」


「ああ。·····俺は昔から、頑張り屋さんの女の子に弱くてな·····。ソフィアがミカと仲良さそうだから、なんかモヤモヤしちまって·····。つい嫌な言い方をしちまった!悪かった!」


ミカは驚きを隠せなかったが、クロードは納得したような顔をしている。


「いやぁ。別にそんな嫌じゃなかったから、気にしなくて大丈夫だよ!それに、私とソフィアはただの友人でしかないから、嫉妬されるようなことは何も無いよ。·····それにしても、いつから好きになったの?」


「なんつーか。いいなぁって思って、気になりだしたら止まらなくなったというか·····。そうゆう事って、あるだろ?」


「·····ああ。あるな」


「ええ!?ジェスの気持ち、クロードも分かるの?·····ってことは、クロードも好きな人いるってこと?誰だれ?」


「·····秘密だ·····」


「逆にミカは無いのかよ!人を好きになったこと!」


「私は基本的には、人は誰でも好きだからなぁ。·····誰かを特別好きって感覚がいまだによく分からなくて·····」


「博愛主義ってやつかよ!あーでも、よかった!ミカもソフィアを狙ってるなら、正直勝ち目ねぇなって思ってたよ!」


ジェスは安堵の表情で、食事をかきこみはじめたのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る