王子の好きな人は誰?

ジェスの言葉に、ミカは昔ヒロコにも同じ事を言われたなぁと、思い出していた。


「博愛主義·····。私、そんな立派なもんじゃないよ。私は、かなり怒りっぽいし。·····今日もウェイド先生を、ティラノ号で蹴飛ばしてやろうかと思ってしまったくらいだし!」


「あー!俺も今日は腹たったよ!平民差別酷すぎだろ!ウェイド先生にしても、オリバー先生にしてもそうだ!」


「オリバー先生は違うかもしれない」

「オリバー先生は違うぞ」


ミカとクロードの声が被った。

驚いた表情でジェスが言う。


「ミカもオリバー先生にイラついていたじゃねぇか。俺に八つ当たりで鉛筆の芯ぶつけてきたくらいだし!」


「ごめん!あれは、わざとじゃないんだって!私も初めはオリバー先生、ソフィアをイジメたくて難しい問題をあててるんだと思ってたよ·····」


「だろ?じゃあ、なんでだよ!」


「でも、最後の難問にソフィアが答えた時にオリバー先生が心なしか優しく微笑んでるように見えて·····。だから、もしかしたら、勉強熱心なソフィアならきっと答えられるだろうと分かった上で、あえて難問をあててたのかなぁって思って。·····彼女の優秀さをクラスに周知させて、差別しようとするクラスの貴族達から少しでも守ろうとしたのではないかな」


「へぇー!さすが人たらし!よく見てんなぁ!あの無愛想な先生が微笑むとか、想像出来ねぇわ!·····で、クロはなんでそう思うんだよ!」


「私は、オリバー先生の過去を知ってるからだ」


「どんな過去なんだ?」


「オリバー先生は、本名はオリバー・ダブという名で、鳩の使獣を持ち、前国王に仕えていた。その際に彼が提案し実行した施策は、平民のための病院建設や孤児院建設などだったから、差別意識のある人間ではないと、私は思う」


「へぇー!でも、前国王に仕えていたような人が、なんで学校の先生なんてしてるんだ?」


「前国王が早くに亡くなり、オリバー先生はイーサン王に仕えるようになったが、戦で使獣の力を酷使されすぎて、使獣の鳩が亡くなってしまったとの事だ。イーサン王は使獣がいなければ、もう用無しだと言って学校に左遷したらしい。私はオリバー先生に幼い頃に会ったことがあるが、彼は昔は常に暖かい笑顔の人だった·····。今、無表情なのは使獣の力を使いすぎた後遺症だと聞く。ミカはよく彼の表情を読み取れたな·····」


「うん、何となく優しい表情に見えたから。·····オリバー先生のあの無愛想は後遺症だったのか。その話で言うと他の先生も左遷されて、この学校の教師をしているの?」


「あぁ、昔は優秀な先生ばかりだったらしいが、イーサン王が優秀な者は国政へ、用無しの人の左遷先を学校へと変えてしまった。今先生をしてるのは、使獣がもう居ない人ばかりだよ」


「じゃあ、ウェイド先生もそうなの?」


「あぁ、ウェイド先生は名門のタトル家の生まれだが『使獣なし』だったため、家の恥だと言われ、ずっと家に閉じ込められていたそうだ。·····20歳の時に当主と上の兄が戦で亡くなり、ようやく外出が許可されるようになったそうだ。部屋に閉じこめられていた期間に、窓から庭で行われてる馬術や剣の訓練を眺め、鏡の前で一人で剣の稽古をずっと行っていたそうだ。部屋を出られるようになってからは、馬場馬術と剣術を徹底的に学び、大会で優勝するほどの力を身につけたので、教師としてこの学校に呼ばれたそうだ」


「ウェイド先生·····凄い苦労した努力家の人だったのだね。でも、だからって何で平民差別するのかな?」


「彼がソフィアを嫌ったのは、貴族に稀に『使獣なし』が生まれるのは、平民に稀に使獣持ちが出るせいだという、根拠の無い噂があるからかもしれないな」


「なるほど、だからあんなに毛嫌いしてたのか。でも、馬肉を闇取り引きするのは、人としてどうなのだろう·····」


「確かに、法を犯すのは見逃せないが、タトル家はウェイド先生の母親の浪費癖が治らず、かなり金銭面苦労していると聞くから、そのせいだろう。·····ウェイド先生も悪い面ばかりではない。前までは、厩務員の子達が朝馬装をして生徒に馬を渡していたらしいが、今は厩務員の子達の出勤時間を遅らせてあげるために生徒が馬装するようになった。これはウェイド先生が厩務員の子達の長時間労働を配慮してのことだと聞いた」


「クロード、よく先生達のこと調べてるね!」


「イーサン王が『この学校の教師は能無しだから無意味だ、潰して軍人育成に特化した学校にすべきだ』と言っているのを聞いたことがあったので、色々事前に調べてきた」


クロードが伏し目がちに言うと、クロードの隣で肉を啄んでいた黒鷲がクーと鳴いた。

ダルが小声で教えてくれた。


「『入学前にたくさん調べたから、おかげでクロードは寝不足だクー』って黒鷲は言っているウサ」


(確かに、あの王宮のクロードへの味方の少なさを見るに、全部自分で文献を調べたりしたのだろう。·····あー、自分が恥ずかしい。課長に言われた言葉を思い出すなぁ。『お前は新卒採用は神憑り的で担当した新卒は退職率0%という驚異的数字を出したが、中途採用は見る目が厳しすぎるな。年上に対する理想が高すぎるんだな』って言われたなぁ。『人を知りたければ、点で見るのではなく線でみろ!もっと職務経歴書を重視しろ!』とも言われた。·····クロードはこの歳で人を、点ではなく線でみる大切さを知っている。·····本当に人として尊敬する·····。)


「うわぁー!なんか俺だけ、人を見る目がなくて恥ずかしいわ!どうしたら、2人みたいになれるんだ!」


ジェスが頭を抱えた。食べ終えて隣でピシッとお座りしていたドーベルマンが、ジェスのその様子をみて、心配そうにジェスの膝の上に顔をちょこんとのせワフッと吠えた。

ダルが小声でコソッと教えてくれた。


「『そんなに不安なら使獣の能力をもっと使えばいいワフ』って言っているウサ」


ジェスに頻繁に、匂いで人の感情を察知する能力を使われては困る!と思いミカは焦って言った。


「ジェスはそのままでいいと思う!その素直さが、本当に素敵だと思うよ!ソフィアにもきっと、魅力的にうつるはず」


ミカが言うと、なぜかクロードがムッとした表情で言った。


「ソフィアになら、私もそこまで吐き気を感じないから、もっと関わってみようかな·····」


「ぎゃー!やめてくれ、やめてくれ!クロが恋のライバルになったら、マジで俺に勝ち目なくなるから!」


(もしかしてクロードの好きな人もソフィアなのでは!?そうゆうゲームだし!·····うわ、なんでだろう。胸が苦しくなってきた·····胸の包帯をキツく巻きすぎたかな·····。)


ジェスの言葉を聞きながら、ミカは急に苦しくなってきた胸をおさえたのだった。

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