イジメの解決策

授業が終わると、ダルが駆け寄ってきた。


「何だか久しぶりな気分ウサ!なんか色々あったみたいだけど僕がいなくて大丈夫だったかウサ?」


「ありがとう。色々あったけど、大丈夫だよ」


ダルの頭を撫でながら答えると、ジェスが不思議そうな顔をした。


「·····誰と話してるんだ??」


(そうか、しまった!使獣の声って普通は聞こえないんだった!ダルの声に人前で答えちゃ駄目だった!)


「アハハ·····さすがに初日から色々あって、疲れて幻聴が聞こえたみたい·····」


「大丈夫か?無理しないほうがいい。念の為、医務室に行った方がいいのではないか?」


近くに来ていたクロードが、本気で心配してくれてることに、ミカは少し良心が痛んだ。

そこに白猫ルルを抱いたソフィアが、駆け寄ってきた。


「ジェス様、クロード様、そしてなによりミカエル様!馬術の授業では、本当に本当にありがとうございました!!」


「ジェスでいい、呼び捨てで呼んでくれ」

「私は何もしてない·····」

「気にしなくていいよ、ソフィア」


ジェス、クロード、ミカが3人同時に答えたので声が重なってしまった。

クロードは心なしか、ソフィアから距離をとろうとしている。


「ミカエル様とティラノ号の障害飛越の姿、本当にカッコよかったです!空を翔ているようでした!!噛まれたことをきっかけに馬術が苦手になりそうでしたが·····あんな風にカッコよく私も障害を走ってみたいって今は思います。たくさん練習して、私もミカエル様みたいに跳べるようになりたいです!」


「いやぁ、そんな風に言って貰えると照れるね。でも、私をきっかけで馬好きになって貰えたのなら光栄だよ!」


そんな話をしていると、ご令嬢2人が寄ってきたので、ジェスは青い顔をしはじめたクロードを引っ張って、教室の隅へ移動した。

ダルがコソッとミカに教えてくれた。


「アメリア・フログとイザベラ・ニュートだウサ。茶髪の巻き髪のぽっちゃり少女がアメリアで、金髪のボブのメガネの少女がイザベラだウサ。2人ともミッシェルの友人で、いつも一緒にいたウサ。3人で恋愛小説を回し読みとかもしてたウサ。ついでに言うとアメリアの使獣がカエルで、イザベラの使獣がイモリだウサ」


「ソフィア・キティ!あなた平民の癖に、ミカエル様に馴れ馴れしく話しかけすぎよ!」


アメリア・フログが茶髪の巻き髪をぽっちゃりした指でくるくるさせながら、厳しい口調で言い放った。


「そうよ!ただでさえ貴族高等学校に平民が入学すること事態が、分をわきまえない行動なのですから。もっと周りに迷惑をかけないよう注意すべきだわ。あなたのせいで、ミカエル様は大変な目にあったそうじゃない!」


イザベラ・ニュートもメガネを右手で触りつつ、続けて責めるように言った。


ソフィアは、たじろぎ「ごめんなさい」と小声で言った。


(うーん·····人事でパワハラ、セクハラ、イジメなど色々な社内トラブルの調整してきて学んだけど、女性同士のトラブルの場合、敵味方意識が激しいから、私がソフィアの擁護すると、ソフィアの立場が後々余計悪くなるパターンだな。·····ここは、あえて別軸の問題にするか)


ミカは瞬時にそんなことを考え、口を開いた。


「アメリアとイザベラだったね。生前はミッシェルがお世話になったね」


「ミカエル様·····本当にお悔やみ申し上げます。·····ミッシェルが生きてたら、きっと私たちと同じように平民を注意したと思うんです!」


「アメリアとイザベラが、注意したくなる気持ちは分かるよ。そう思うのは当然だと思う。だって、君達の周りの大人達が『貴族は偉い。平民とは同等ではない』という価値観で教えてきたからね。私も以前はそうだったかもしれない。でも、事故で死にかけて気づいたんだ。·····本当にその価値観は正しいのか?死ねば皆一緒なのに。本当に大切なことは、人と出会い、新しい考え方、価値観に触れ、自分を見つめ直して新しい自分を知ることなんじゃないかなってね。だから、平民だろうと誰だろうと、もっとしっかり関わりその人のことを知りたいって思うんだよね。ソフィアと話せることは嬉しいし、こうしてアメリアとイザベラと今話せていることも私は嬉しいよ」


「わ·····私と話せて嬉しいなんて·····男の方に初めて言われました」


アメリアが赤くなりながら俯いた。


「アメリアも私も、両生類の使獣だからって、男の方に敬遠されてきたので·····ミカエル様も今まで一切お声をかけて下さらなかったし·····」


イザベラも、もじもじしながら小声で言った。


「カエルとイモリでしょ?とっても可愛いと、私は思うけどな。あそこの池でケロケロ鳴いてる声もとってもキュートだし、イモリがあそこの日陰で気持ちよさそうに目を閉じてるのも、とても魅力的だよね」


ミカがそう言ったところで、ジェスが声をかけてきた。


「おい!ミカ、もう行くぞ!早く食堂行かないと席がなくなるぞ!」


ミカはジェスに顔をむけて頷いた。クロードが、青い顔しているのも見えて心配になった。

ミカはアメリア、イザベラ、ソフィアに向けて明るく笑いかけながら言った。


「じゃあ、もう行くね。では、また午後の授業で。そうそう、アメリアとイザベラは読書好きなんでしょ?ミッシェルから、聞いてたよ。ソフィアも大の読書家だから、話が合うんじゃないかな?一緒にご飯食べてみたら?まぁ、無理にとは言わないけどね。じゃあまた」


顔の赤い女性陣を残し、ミカはジェスとクロードの元に駆け寄った。


クロードからボソリと「好きでもない女性から好かれても、面倒なだけだぞ」と言われ、ミカは胸がズキンと痛んだ。

ミカはなぜ胸が痛むのか不思議に思いつつダルを抱えて、クロードとジェスに並び、食堂へと向かって歩いていった。

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