王子の側近2人の思い

次の授業に行くために他の生徒達は、騎乗し終えた馬を、出勤してきた平民の厩務員の子達に預けた。

しかし、ミカはティラノ号担当の厩務員の少年の手や腕に馬の歯形の青アザが数箇所あるのを見て、預けるのをやめた。

ミカは待っててくれているクロードとジェスに伝えた。


「クロード!ジェス!2人は先に教室に戻っててくれ!ティラノ号の手入れをしてから、私も走って向かう!」


「ミカ·····手入れは厩務員の子達の仕事だ。仕事を奪うのは、どうかと思うぜ!」


ジェスが、真面目な顔をして言った。

クロードもそれに続いた。


「私もジェスに同感だ。それに20分後までに着替えて、教室に行かなくてはいけない。時間がない。」


ミカはティラノ号の馬装を解除させつつ、2人に答えた。


「分かってる。仕事を奪う気は無いよ。ただ、今回だけ10分程度一緒に手入れして、噛まれないようにするコツを伝えるだけだよ。·····授業に万一遅れたら、先生には適当な言い訳を伝えておいて貰えると助かる!悪いが宜しく頼んだ!」


ミカは大急ぎで、ティラノ号を洗い場に連れていった。ティラノ号を洗いながらミカは、オドオドしながらついてくる厩務員の少年に話しかけた。ボサボサの青い髪で、ソバカス顔のミカエルよりも小柄な少年だ。


「私はミカエル。急にごめんね。君の腕の噛まれた傷痕を見たら放っておけなくて·····君の名前はなんて言うの?」


「申し訳ございません!ミカエル様!僕の名前はホセです。僕が馬の扱い慣れてないから、至らないせいで気を使わせてしまって!ミカエル様が授業に遅れてしまいます!代わります!·····わぁあ!」


ティラノ号の前に急に手を出したホセに、ティラノ号がガァと噛もうと顔を向けた。


「ティラノ号、噛んではいけないよっ!·····馬は基本臆病だから、こちらが急な動きをすると驚いて噛もうとする子もいるから、ゆったりと声掛けながら接するといいよ。」


「はい。ありがとうございます!僕·····何度も噛まれているうちに、怖くなってしまって·····。逆に極力最小限を急いで触るようにしてしまってました。·····本当に馬が怖くて·····。」


「それだけ噛まれたら、そう思ってしまうのは当然だよ。·····大丈夫!馬の事をもっと知っていければ、好きになってくるよ!これからティラノ号は私の担当馬になるから、よろしく!一緒にチームでティラノ号の体調管理をしていこう。私の方が馬歴は長そうだから、遠慮なくなんでも聞いてくれ。」


ミカはティラノ号から噛まれないように世話するコツを伝えつつ、ホセと共にティラノ号の馬体を洗い、タオルで乾かし、ブラシをかけた。


「ミカエル様!そろそろ本当に時間が!あとは大丈夫です!本当にありがとうございました!だいぶティラノ号への接し方のコツが分かってきて、自信がつきました!」


「わかった!ありがとう!ティラノ号はずっと運動不足でストレスが溜まって凶暴になってしまっていた面もあるみたいだから、明日は馬術の授業がないから、朝イチ授業前に軽く乗りにきて、手入れしておくね。昼頃の世話とかはよろしくねー!じゃあ、後は任せたよー!」


ミカは走って部屋に戻り、大急ぎで着替えて、教室に向かった。

教室についたのは、ちょうどオリバー先生が教室に来たのと同時だった。


「生徒は、授業の5分前には席についているのが常識だぞ、ミカエル君!次やったら罰として立たせるからな!」


「はい!すみません!気をつけます!」


オリバー先生の小言と共に始まったのは、数学の授業だった。運動後で眠くならないか心配したが、先生はほとんど説明なく次から次へと問題を生徒に当てて答えさせるので、緊張で寝てる場合ではなかった。

ミカはなんとか高校時代の数学の内容を思い出し、正解を答えられたが、生徒の多くは間違った答えを言い、罰として暫く立たされた。

特に難しい問題になると、決まってソフィア・キティが当てられた。授業で習ってないソフィアに答えられるのか、ミカはその度心配したがソフィアは青い顔をしながらも、なんとか正解を答えた。


(ウェイド先生に続き、オリバー先生もか!見ててムカムカするから、平民だからとソフィアを虐めるのは辞めて欲しい!)


ミカは憤りながらノートをとったので、力が入りすぎて鉛筆の芯が折れて前の席のジェスに当たった。


「いてっ!俺も平民差別にムカつく気持ちは同じだが、八つ当たりはヤメロよ!」


ジェスが小声で囁いたので、ミカが囁き返した。


「ごめん!わざとではないんだ!」


そろそろ、授業も終わる頃、特別難しい問題が出た。誰が当てられるのか生徒達に緊張が走る中、案の定ソフィアが当てられた。

ソフィアがなんとか答えると、オリバー先生は「そうだ、正解だ」と答えた。

そのオリバー先生の表情を見て、ミカは「あれ?」と思ったのだった。

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