冷酷王子の裏の顔
ジェスとクロードを追いかけてダルを抱っこしながら走って教室に着いて、驚いた。
教室と言うより巨大な植物園のような作りだった。
建物内は吹き抜けになっており、天井はガラスなので外にいるかのように陽の光に満ちている。
部屋の一角に黒板と椅子と机があり、教室らしい雰囲気があるが、それ以外の部分は高い木が茂っていたり、草原になっていたり、池があったりと、自然がいっぱいだ。
教室に着くとクロードの黒鷲は高い木へ飛び立っていった。よく見ると池にはカエルが泳いでいたり、岩場にはイモリが涼んでいたりする。
(なるほど、使獣のために、こんなに自然が多いのか·····)
「それじゃあ、また後でねウサ」
ダルもそう言って、草原の方へ駆けて行った。
教室には十名ほどの生徒の机があり、ミカ以外の生徒はすでに全員席についている。男女比は半々くらいだ。
クロードは右端の前列の席で、ミカの席は左端の1番後ろの席だ。ミカの前の席にはジェスがいた。
「よう、間に合ってよかったな!やっぱり、ウサギ抱いてると早く走れないよな。その点、俺の使獣のベスは、俺のペースについて来れるから楽だぜ。·····お、先生のお出ましだ」
ジェスの話を聞きながら、横から視線を感じ振り向くと右端の1番後ろの席に、ピンクの長い髪の小柄な少女ソフィア・キティがいた。
(やっぱり、ソフィアは入学試験に合格出来たんだな·····)
ミカが小さく手を振ると、ソフィアはぺこりと頭を下げた。
先生は小難しそうな顔した、眉間のシワが深い白髪の60代くらいの小柄な男性だった。せかせかした話し方で学校や、授業の説明があった。
「儂がこのクラスの座学の教師、オリバー・ダブだ。この学校は初代国王シルバー・トラケナーにより使獣の力を高めるために創立された為、貴族はもちろん平民であっても使獣がいるものは入学が認められている·····」
そこで、オリバー先生はソフィアをじろりと睨みつけたので、ソフィアは少しビクッとした。
オリバー先生の話いわく、ここでの成績は国に報告され、卒業後の王国の業務の配属先決定の指針にされるという。
授業のカリキュラムを見たところ、日本の高校の内容とさほど変わりがなかった。大きく違う点は実技(体育)に馬術と剣術がある点だ。特に馬術はほぼ毎日のように授業が入っていた。
初代国王シルバー・トラケナーの使獣が馬だった事もあり、教科の中で馬術が1番、重視されてるという。
目指すは人馬一体。その感覚が掴めれば、使獣の力をより引き出せるようになるとの事だ。
その他、学校内の施設の説明や、学園生活における注意事項の細々した説明がオリバー先生より読み上げられたあと、各自の自己紹介などは特になくオリエンテーションは終わった。今日はもう各自、解散とのことだ。
オリバー先生が部屋を出ると、ソフィアがミカの席に駆け寄ってきた。
「ミカエル様、先日はありがとうございました!お陰様で無事、試験に合格出来ました!」
「いや、私は何もしてないよ。ソフィアが沢山、頑張ったからだよ!試験合格おめでとう!」
「お、ミカ!だれだれ?そのかわい子ちゃん!俺にも紹介しろよ!」
ジェスが前のめりに割り込んできた。
「彼女はソフィア・キティ。この前、図書館で知り合ったんだ。ソフィア、こちらはジェス・ドーベルだよ。私はてっきりオリエンテーションで自己紹介の時間が設けられると思ってたよ。」
「彼女以外は俺ら全員、貴族中等科からの持ち上がりだからな。それにしても、試験はスゲー難しいっていうのに、ソフィアは凄いな!俺の平民の友人で使獣持ちの奴がいて、そいつも受験したけど学校で習ってない内容ばかりで一問も解けなかったって言ってたぞ!·····って、マズイ!そろそろクロを助けに行くぞ!またな!ソフィア!」
ジェスに急に手を引っ張られ、席を立つ羽目になったミカは、ソフィアに慌てて別れを告げジェスに訊ねた。
「引っ張るなって!ジェス!·····クロード助けに行くってどういうことだよ!」
「お前には、妹の件があるから言ってなかったが、クロはご令嬢が大の苦手なんだ!あんなに囲まれたらヤバい!あー、風よけだったミッシェルが、もういないからか!」
クロードの席の周りに4人の華美なドレスをきた女性達が群がり、口々にクロードに話しかけている。
「クロード様お時間ありましたらこの後、私と一緒に馬場の方に散歩に行きませんか?」
「いえ、私と学園の図書館の方に行くのは、いかがでしょうか?」
クロードはめちゃくちゃ塩対応で目線すら合わせず「·····いや、断る」と言い続けてるが、彼女達もめげない。
よくみると心なしかクロードの顔色が青ざめているような·····。
彼女たちの中に、ジェスが割り込んで行った。
「おいおい、お前ら!どうせ、親からミッシェルの後釜を狙えって、言われてるんだろうけど、あからさますぎるぜ!クロ、ここは引き受けたから、今のうちに行くんだ!」
「まぁ、なんて失礼なの!」
ジェスが矢面にたってるすきに、青ざめた顔のクロードがよろよろ出てきて、かすれ声でミカに言った。
「まずい·····吐きそうだ」
「えぇー!ちょっ、まって、ト、トイレまで我慢して!」
ミカはクロードの右肩を支えつつ、慌ててトイレに向かった。
幸い男子トイレは近くにあり何とか間に合った。
「おぇ·····ゲホッ·····」
(王子が便器を抱え込み嘔吐するって·····これ、本当に乙女ゲームの世界なのか?·····それにしても·····クロードに会ってその人柄を知ってから、なんでヒロコがクロードのことを『冷酷王子』と呼んでいたのか、ずっと気になっていたけど、ようやく分かった。·····ヒロコは、クロードの極度の女性恐怖症からくる塩対応を、女性視点から見てたからだったのか·····)
そんなことを考えながらミカは、便器を抱え込みぐったりしてるクロードの背中をさすり続けてあげたのだった。
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