Ⅲ
悪魔とパケロがハーレーで移動しているその頃、『首無し殺人』を追いかけている伊佐は時間を惜しむように鑑識結果を読み込み、解剖結果を待ちわびていた。
彼女はこの事件を解決したら自分のキャリアがまた進むことを把握していた。
そんな彼女を見て津島は鼻を鳴らした。
「夜通し仕事をしていると肌が荒れるし婚期を逃すぞ」
「……津島さんはお帰り下さい」
「そうできるんだったらそうしている! お前がそういうことをしている間は俺は帰れないんだ!」
「……『お前』?」
伊佐は顔を歪め、そんな伊佐の顔を見て津島はさらに顔を歪めた。が、津島は『このご時世に若い女が訴えでもしたらもっと面倒だ』と思い、「言葉が悪かった。伊佐さん」とわざとらしく言って、わざとらしくお辞儀をした。そんな津島の仕草に伊佐は心の中で『
とにかく彼らは仲が悪いのだ。
伊佐は立ち上がり「では帰ります」と言った。
「本当か?」
「嘘などついてどうなりますか?」
「お前は俺を信じてないから嘘ぐらいつくだろ」
「……その『お前』というのはやめていただけますか?」
「ああ、クソ、面倒くさいな。……『伊佐さん』、あのな、……」
津島はこの関係を改善すべく『飲み会』にでも誘おうとしたとき伊佐の携帯が鳴った。伊佐はそれを取り「はい、伊佐です」と答え、津島はバリバリと気まずそうに頭を掻いた。電話をかけてきた相手は槙島の解剖を行っていた施設の人間だった。伊佐はその結果を一通り聞いてから息を吐いた。
「つまり死因は『恐らく』失血死ではない、と?」
「なんだって!」
伊佐は叫んだ津島に対して『シー』と人差し指を唇にあてて注意した。津島はムと唇を閉じた。
伊佐はしばらく電話相手に相槌を打った後「ありがとうございます。ではまた」と電話を切った。伊佐は前髪をかきあげてンン、と短く呻った。その電話の内容は彼女にとっても想定外のものだったのだ。
「で、なんだって?」
「……
「じゃあなんだ? たまたま死んでいた老人の首を取っていったやつがいるってことか?」
「そうなりますね……」
津島はフウンと息を吐き「春でもないのに変質者が出たな」と肩を竦めた。伊佐はもう少し疲れていたら唾棄しそうなぐらい嫌な気持ちになったが大人の女性としてそれを抑え「なんであれ犯人を捕まえなくてはいけません」と言った。
「凶器は?」
「それもまだ不明とのことです」
「死体切り開いて分かったことはそれだけってことかよ?」
「今のところはそのようですね……、……明日また現場に伺おうと思いますが、……津島さんは?」
「俺とお前はバディだ。行動は共にする」
津島はそう言った後「ああ、そうだった、すまんな、申し訳ない言葉を使った、『伊佐さん』」と言った。伊佐は舌打ちを必死に抑え「それでは本日は解散と言うことで」と言い捨て、カツカツと足音を立てて捜査本部から去っていった。一人残された津島は派手に舌打ちをしてから「クソ生意気な女だな」と暴言を吐いた。
それが彼らのこの事件での一日目の終わりだった。
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