第三話 悪魔の誘惑は終わりがない

 ――ところでここで一度『悪魔とはなにか』という話をさせてほしい。

 日本という国においては『悪魔とはなにか』を知っている人間は多くない上に、この物語を読むのは日本人が大半となるだろう。だからこれは必要な説明と『悪魔の小瓶』たるわたしは考える(もちろんよく知っているという場合は飛ばしていただいても構わない)。まあ、もちろん『小瓶』のわたしは『考える』などできないわけだが……とにかく、『悪魔とはなにか』を説明するにはまず『神とはなにか』を説明しなくてはいけない。


 『神』は『世界を創ったもの』だ。


 神がいるかいないかということをここで議論する気はない。神はそういうものだ。

 神は世界を創り、また現在は偉大な計画に基づいてすべてを動かしている存在である。神はいついかなるとき、いかなる場所に存在しすべてを把握し、すべてを動かしている。神の偉大な計画は言葉におきかえることはできず、絵で見せることもできず、要するに『偉大』であることしか『悪魔の小瓶』たるわたしにはわからない。

 とにかく神とはかくなるものである。

 そし神がつくったものの中に『天使』というものがいる。

 『天使』は神によってつくられたものであり神の許可を得て地上の生き物にメッセージを送る役割を担っている。『天使』は肉体を持たないがごくまれに神に肉体を与えられ人前に人間のような姿で現れることもあるが、天使は正直人からしたら大した意味はない。彼らの役割はあくまでも『神のメッセージを届ける』だからだ。あなただって宅配便を頼んだ時に気にするのは『宅配便の中身』の方でそれを届けた宅配係ではないだろう。

 そんな『天使』の中で『悪魔』に身を落とす者がいる。

 これを『堕天』というのだが何故これが起きるのかというと『天使は頭がいいから』である。

 天使が単なる神のパーツに過ぎないのであればこんなことは起きないのだが、神には劣るが天使はそれなりに頭がいい。少なくとも人などよりは頭がいいため、神のメッセージを伝える自分の役割に『疑問』を抱くものが存在する。そういう天使は自分の理解できない偉大なる計画に基づいている指示だとしても『意味が分からん、ちゃんと説明しろ』などと生意気なことを考えて、『神よりも自分を優先し』、結果的に天から堕とされるのだ。とはいえそれでも悪魔は神の支配を受ける。

 彼らは神の計画に基づいて人を導く天使とは真逆の『その計画は本当に正しいのか?』『お前たちは自分の頭で考えないのか?』といったことを人に囁く(そのため自分は賢いと考えている人間は悪魔の声を聞いて、結果的に地獄に落ちることが多いのだが、まあそれは余談だ)。とはいえこれさえも神の計画の一部なのだ。悪魔は、天使から堕ちてはいるが、それでも神の意思を継ぐものである。人間とはその辺りが一線を画しているのだが……とにかく『悪魔とはなにか』というと『かくも厄介なもの』である。


 悪魔のささやきは極めて『人間的』であり、天使の言葉よりも分かりやすく『納得感』さえある。

 だから人間は悪魔などに囁かれたら極めて高確率で『誘惑』を受け入れてしまう。これだけの説明では『人間は悪魔の誘惑に勝てない』と思われるかもしれないが、『悪魔』には『弱点』がある。つまり、それは『聖なるもの』である。

 具体的に言えば『教会』や『聖水』や『信仰心』といったものは悪魔にとっては毒、どころか『爆弾』である。


 つまりはっきり言えば聖なるものに触れると悪魔は『消滅する』。


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