Ⅴ
「ご協力感謝いたします」
「ああ……とにかく犯人を見つけてくれ」
「ええ、もちろん」
二度目なのでさすがに悪魔も伊佐と津島の追及に『人間らしく』答え、一部不明瞭なところはあるにはあったが、伊佐と津島も悪魔を第一容疑者として見なくなった。パケロはその結果にほっと息を吐き、悪魔はそれでも彼らを「あいつらは『悪魔』寄りだ。その内
「ご遺体は解剖に回します」
「……マキ、……」
「槙島、……丁寧に扱ってくれよ」
「ええ、もちろん」
悪魔は槙島の遺体の手に額を当て、パケロも同じようにした。悪魔と悪魔の娘の祝福を受けた遺体は警察関係の施設に送られた。そして警察もある程度の調査を終えると帰っていった。悪魔は地獄耳を持っているので警察連中が『犯人』も『槙島の首』も『凶器』も見つけられていないことを把握していた。ただ恐らく死亡推定時刻は悪魔が教会に訪れる三十分ほど前だということはわかった。
「……オレがもう少し早く起きていれば……」
「過去を振り返っても仕方ありません。それにすべては神の定めたことです」
「槙島が殺されることさえもか?」
「ええ、それさえも……神の偉大なる計画の一部にすぎないのです」
悪魔は唾棄し、パケロは神に祈りをささげた。
「ところで悪魔、あなたの名前はなんというのです」
悪魔は鼻を鳴らした。悪魔が名前を知られるということは消滅させられるということである。しかし同時に悪魔は本名を呼ばれることでどこからでもその場所に現れることができる。
「オレの名前は槙島しか知らない。あいつは最後の最後までオレを呼びはしなかった。オレの名前を使うときは追い出すときだけだ」
「……そうですか」
パケロは、そりゃマキは悪魔などには頼らない、と思ったが同時に、それはこの悪魔にとってはとても悲しいことだったろうと悪魔にわずかな同情を抱いた。とはいえパケロは聖職者なので「あなたの名前を知っていながら消滅させなかったのはマキの落ち度ですね」と自分の育ての親の非を責めた。悪魔は顔を歪めて「お前はマキに似ていない」と拗ねた。
「……ところで、『悪魔の娘』、名前はなんていうんだ?」
「パケロです」
「パケロ? 誰がつけた名前だ」
「マキがそう名乗るようにと」
「ふうん……まあいいか。よろしくな、パケロ」
悪魔が差し出した手をパケロは小さな手でつかんだ。
「ええ、よろしくお願いします。マキを取り戻すまで」
「……どういう意味だ?」
「私は悪魔の娘ではありますが聖職者ですので、マキを取り戻した後にあなたを消滅させます」
「えっ⁉」
彼らはそれでも手を取った。
これが始まりの一日目だった。
――鉄臭い部屋から警察の元へ移された槙島の死体はこのあと人の手によって捌かれて調査されて、そうして後に聖なる遺体としてバチカンにおさめられることになるのが、この時点ではまだ誰も知らなかった。
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