Ⅳ
――つまりこの時、槙島を迎えに天使が来たのである。わたしが産まれる三秒前のことだ。そしてこの三秒の間に様々なことが発生した。
まず悪魔は咄嗟に槙島の魂を掴んだ。そうして彼の持っている『悪魔の小瓶』にその魂を押し込んだ。悪魔は天使に奪われないようにするために槙島の魂を『悪魔の小瓶』に押し込んだのだ。それは悪魔にとっても想定外のことだった。彼は自分のその咄嗟の行動に自分でも驚きながら、しかし、槙島を『悪魔の小瓶』に押し込めた。
一方で槙島はその小瓶に押し込まれる直前に「ばかだな」と呟いた。そうして彼は悪魔の手に抵抗することなく小瓶の中に取り込まれた。瞬間、彼の魂は小瓶の中で青く輝く炎と化した。
同時に教会の奥の扉が開いた。開いたのは寝間着姿の幼い子ども、つまりパケロだった。彼女は青々と輝く小瓶を持っている悪魔を見て「悪魔だ」と呟いた。つまり彼女はその青々と輝く小瓶が槙島の魂であることは知らずに、ただ悪魔を見た。
そして悪魔がジャケットの内ポケットに小瓶を仕舞った瞬間、教会の扉が開き、槙島の魂と肉体を迎えに天使たちが降臨した。
――このときにわたしは生まれた。つまり『正しい』物語はこの瞬間だ。
この瞬間、悪魔は決して赦されぬことのない『原罪』を犯し、預言者たる槙島の魂が永遠となり、幼子は悪魔と天使を認識し、天使が地上に舞い降り、『悪魔の小瓶』に意思が宿った。この瞬間こそが後の世界の分岐点になるとは、すべてのもの、つまり『悪魔の小瓶』たるわたしでさえまだ知らなかったのである。
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