第4話  犯人は誰だ

「これ、果たし状ってヤツっすよ」


「うむ。そんな気がする。果たし状、はたしじょう、五音だな」


「こんなときに俳句よまないでくださいよ」


「すまん。つい」


「犯人が先生なら五年生相手に果たし合いはしませんよね」


「そうだろうか。心の狭い先生ならあるいは」


「先輩、もう少し人間ってやつを信じましょうよ」


 先生方も容疑者みたいなことを言ったのはお前じゃないか、と思ったが口には出さなかった。上級生のふところの深さである。


「どうするんですか? まさか行かないですよね?」


「いや。しかし、こんなに切り貼りをするのは大変だっただろうから、俺が来なかったら、どんなにガッカリするかと思うと」


「なんでそんなに優しいんすか」


「どうも無視するにはしのびないんだよな」


「心当たりでもあるんですか?」


「いや、いっこうにないんだ。だから、話だけでも聞いてみようかと思う」


「ダメですよ! 金品目当てだったらどうするんです?」


「俺が身につけているもので一番高価なものといったら、じいちゃんが買ってくれたランドセルだぞ」


「とにかく一人じゃ危ないですよ。先生に相談しましょうよ」


「お前、さっきから一緒に行くとは言わないのな」


「へへへ。小心者なんです。すいません」


 猿渡の心配もよく分かるので、相手が小五をカツアゲするたぐいの小悪人だったら、いつも持ち歩いている防犯ブザー(こどもの日にばあちゃんが買ってくれた一品)を鳴らすことにした。猿渡はブザーの聞こえる場所で待機たいきして、聞こえたら職員室に走ってくれることになった。  




 帰りの会がすむと、校門から小学生が続々と吐き出される。団子になって帰る奴らもいれば、あえて一人で孤高ここうの気分を楽しんで帰る奴もいる。

 俺が教室に残って俳句を考えつつ、みんなを見送っていると、津雲つぼみがブラブラと近寄ってきた。


「景太、何してんの」


「クラブの雑用。つぼみは?」


「これから塾なんだけど時間が半端はんぱなんだよなー」


 つぼみがショートカットの前髪をかき上げると、俺の好きな丸くて白いおでこがのぞいた。黒目がちな目は笑うとリスみたいに可愛いが、性格は男っぽく、さっぱりした気性きしょうの女子だった。幼稚園から続けているテコンドーはかなり強いらしい。俺とつぼみは同じマンションの幼馴染みだったから、名前で呼び合う仲だった。


「ああ、それダルいよな」


「まったくさー。でもそろそろ行くわ。またね」


「おう。またな」


 つぼみが帰って俺は一人になった。


「そろそろ行くか」


 階段を下りて下駄箱に行くと、猿渡が待っていた。


「先輩、死なないで下さいね」


「そこまで心配すんじゃねえよ!」

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