第2話  占い屋カモノハシ

「お嬢さん、お名前は?」


津雲つくもつぼみです」


「つぼみさん、あなた、初めての恋に悩んでいますね?」


「なんでわかるの?」


「わたしは魔女なのよ」


カモノハシが目を細めてフニャリと笑った。


「すみません。うち、急ぐので」


つぼみが帰ろうとするとカモノハシは慌てて立ち上がり、店の天井でしたたかに額を打った。


「待って! いてて。冗談よ。魔女なわけないでしょ。ただの占い屋よ」


「ほんとに?」


「そうよ。子供の相談に乗りたいヒマなカモノ……おねえさんよ」


「でも、うち、知らない人に相談なんて……」


「いいから話してごらんな。好きな人がいるんでしょ?」


 つぼみは赤くなってうなずいた。耳がほてる。


「片思いね」


 つぼみは目を丸くしてうなずく。


「気持ちを伝えたいのかな?」


「そう! そうなの! でも恥ずかしくて」


 つぼみは爪先で地面を蹴った。。


「わかるわ。わたしにも経験があるから」


「そうなんですか?」


 それからつぼみは堰が切れたように、同い年の幼馴染みを急に意識するようになったことや、告白するのが恥ずかしいことや、告白して嫌われるのが恐いことを全部しゃべってしまった。相づちを打ちながら熱心に聴いていたカモノハシは、ふむふむとうなずいた。


「辛いわね。分かる分かる。でもね、そんなときの良い方法があるの」


「良い方法って?」


「ただで教えて上げたいけど、わたしも商売だからね」


「お金ですか」


「お小遣いはいくら貰ってるの?」


「五年生だから一月に五百円」


「ふむ。本当はお小遣い半年分だけど、三ヶ月分でいいわ。つぼみちゃん、可愛いから」


「三ヶ月も……」


 つぼみは情けない声を上げた。三ヶ月も買い食いができなくなるなんて辛過ぎる。


「それなら15回払いの利息無しにして上げる。どう? 安いしお得でしょ?」


「ああ、それなら、うちにも払えそう」


「おまけに上手くいかなかったら無料よ! これまでのお客様満足度は99%です」


「よろしくお願いします。教えてください!」


つぼみはカモノハシに頭を下げた。するとカモノハシは立ち上がって、つぼみにピッタリと寄りそうと銀のマントを広げて二人をくるむ。そしてお互いのおでこが触れるほど体を寄せると小さな声でささやいた。


「よく聞いてね。まず手紙よ。二人きりで会いたいと伝えるの。このとき手紙に送り主を書いてはいけないわ」


「どうしてですか?」


「相手の好奇心をくすぐるのよ。男の子は秘密めいたことに目がないものよ。そして彼が指定した場所にやって来たら、すぐ出て行ってはダメ。まずは隠れるの。じらすわけよ。そして書き置きをしておくの。別の場所を指定してね。そしたら、ほんとうの隠れ場所で待ちなさい。彼が来たら、可愛くお出迎えするの。わかった?」


「聞いてるだけで胸がキュンキュンします!」


「頑張ってね。応援してるから」


「はい。ありがとうございました」

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