第27話 中の人、魔王(予定)と対峙する
深夜十二時の鐘の音とともにシャーロットの中の人の意識は浮上し、彼女が体験した一日の情報が意識に流れ込む。
『王族が遅刻したせいで誕生パーティが半日以上遅れるだと、ふざけるな!! ジェームズは計画通りトド母を酔いつぶした、偉いぞ!! エレナとシャロちゃんのダンスは百合百合しくて素晴らしい。最高だ!! 神官どもめ、シャロちゃんに聞こえるように悪口言いやがって、許さん。顔覚えたからな!! マーガレット、最高のダンスをありがとう。じいさん、まるで花園のように美しい飾り付けだ。エレナの弟ライン、神官をヤジってナイスアシスト。だけど余計な地味な赤毛男まで連れてきて警戒心が足りまいぞ!! へぇ、こいつが第五王子、でもどこか見覚えが。この燃えるような髪の色と赤紫の瞳は、魔、王……』
「ゲームオ様、口を閉じて。考えが全部まる聞こえです」
エレナは慌てて中の人の口を塞いだが、時すでに遅し。
中の人の毒舌を聞いたダニエル王子は、誕生パーティで行われた全てを把握する。
「お前はシャーロット・クレイグではないな。その赤黒く欲望にまみれたオーラ、悪魔に魅入られたか」
『うわぁ、その台詞聞くの二回目っ。しかも身に覚えがありすぎて否定できない』
警戒して身構えた王子は、懐から青い小瓶を取り出しシャーロットに投げつける。
小瓶に入った青い液体がシャーロットの頭にかかるが、それは水のように透明に変化して瞬く間に蒸発した。
「なんだ、法王から授かった一級悪魔を払える聖水が、さらに純化され蒸発した。これほど禍々しいオーラを持つ悪魔が、女神の慈愛属性持ちなのか?」
「ダニエル殿下は心眼の能力があるのですね。シャーロット様の中に住む悪魔は欲深くこざかしい性格ですが、料理が上手いだけの役立たずです」
エレナはシャーロットを自分の背に庇いながら、ダニエル王子と対峙する。
グリフォンを従えるほどの魔力を持つ王族なら、悪魔ゲームオを簡単に封じることができるだろう。
誕生パーティが成功しても、ゲームオが消えてしまったら今度こそシャーロットは救われない。
「俺の能力は《心眼》の
「それならシャーロット様に取り憑いた悪魔に害は無いと、おわかり頂けると思います。決してダニエル殿下に危害を加えません」
王子は床に転がった聖水瓶を拾い上げると、面倒くさそうに溜息をついた。
「安心しろ。女神の慈愛持ちに危害を加えれば、俺の加護が減る」
「では、シャーロット様をお見逃しくださるのですね」
「シャーロットの中にいるのは悪魔じゃない。こちらの世界とは異なる知恵を持つ、遠く滅びた転生者の魂。転生者はだいたいチート持ちだが、これは魔力を持たないモブと呼ばれる魂だ」
『僕をモブ呼ばわりとは許せないな。それにこの王子、シャロちゃんを役に立たないと言ったのに、なぜ関わろうとする?』
いきなり魔王予定の人物が現れて中の人はテンパったが、ここまできてシャーロットの誕生パーティを壊させない。
中の人はチート持ちじゃないけど、この世界が舞台になったゲーム知識だけはある。
確か魔王ダールの設定は。
―とある青年が姉妹を殺した王族に復讐を誓い、魔王が封印された核を手に入れたが逆に取り込まれた―
たった四十五文字だからしっかり覚えている。
勇者ハーレムゲームの女性キャラ設定は三千文字以上あるのに、男性キャラ設定は十文字以内という手抜きっぷりだから、魔王の四十五文字は多い方だ。
「と、とりあえずシャーロットお嬢様、パーティ会場へ戻りましょう。お嬢様は初めてお酒が飲めるのです」
気まずい沈黙が流れる中、ジェームズが気を利かせて控え室からシャーロットの中の人を連れ出すと、後ろからダニエル王子もついてくる。
本来王族は臣下の前を歩くのに、この王子ずいぶんと他の王族や貴族に見下されているようだ。
大広間に戻ると、そこにはダンスを踊り狂う酔っ払いと、床に寝転んだ酔っ払い。
ダニエル王子は酔いつぶれた人々には目もくれず、はらはらと舞い散る花びらを見つめていた。
『なんで花びらを見て……なるほど、そうか。ねぇジェームズ、私お誕生日席に戻ってお花を眺めながらお酒が飲みたいわ。王子様も一緒にいかが?』
「いまさら媚びを売っても無駄だ。俺は、人間の女には興味が無い」
『私は酒を飲めと言っていないわ。王子様と一緒に、ピンク色のアザレアの花を眺めたいの』
「貴様、どうして姉上の名前を!!」
これまでと違う、混乱と怒気をまとったダニエル王子の声に、思わず後ろにのけぞったシャーロットをエレナが支える。
魔王ダールのキャラ設定は五十文字しかないが、別の女性キャラ設定でその正体は明らかになる。
ゲームの重要場面に現れ、課金無しで一度だけ勇者を蘇生してくれる亡者の姫アザレア。
彼女は魔王の姉妹、ではなく従姉で、ゲームの中で唯一勇者とエッチな関係にならない女性キャラ。
『王子様のお姉様の名前は、ノールアザレアの花と同じなのね。これは庭師ムアが私の部屋で大切に育てた、とても珍しいお花なの』
「知っている。俺も何度かこの花を育てようとしたが、冬になると枯れてしまった。そのアザレアがこれほど見事に花を咲かせるとは驚いた」
誰かを思い浮かべながら、うっとりとアザレアの花を眺めるダニエル王子。
従姉と同じ名前の花を育てようとするくらい初恋をこじらたシスコン王子の瞳が、物欲しげに細められる。
「そうだ、このアザレアの花を俺に譲るなら、シャーロットの悪魔憑きを黙ってやろう」
『残念だな、ダニエル王子。この花はシャロちゃんの《腐敗=成長促進》加護で花を咲かせている。シャロちゃんの側に置かないと枯れてしまう』
僕は上から目線とあざけるような口調で王子に返事をする。
「《腐敗=成長促進》加護で花が咲く? 《腐敗》呪いではなく加護なのか」
『料理はすぐ腐るけど、植物はよく育つ。そして酒は熟成して旨くなるのが、シャロちゃんの《腐敗=成長促進》加護だ』
《神秘眼》という優れた鑑定能力を持つ王子なら、シャーロットの《腐敗=成長促進》加護の意味を判断できるだろう。
そのタイミングで執事ジェームズが待望のお酒、異世界ストロン愚ゼロ白レモン味を運んできた。
「シャーロットお嬢様、すっかりダニエル殿下と打ち解けたようですね。お嬢様の記念すべき日に、ぜひ殿下から一言ご挨拶を」
「兄フレッドではなく、俺みたいな末席の王子でいいのか?」
「ダニエル殿下。先ほどから隠ぺいの術が解けて、皆が貴方様に注目しています」
『シャロちゃんは早くお酒が飲みたい。ほらダニエル王子、杯を持って』
第三王子フレッドは、自分より目立つダニエル王子の真紅の髪や赤紫の瞳を嫌い、人前では隠ぺいの術をかけさせるが、先ほど《神秘眼》を行使した時に術が解けたのだ。
可愛らしい姿で超絶技巧のダンスを披露したシャーロットの隣に立つ、燃えるような赤毛に鮮やかな赤紫の瞳の王族。
大広間の酔っ払いたちは、麗しいふたりの姿を夢見心地で眺める。
「クレイグ伯爵家・令嬢シャーロットの未来が、素晴らしいモノであるように。サジタリアス王家・第五王子ダニエルが祝福する」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます