第5話 じいちゃん暗躍す
幸広は時折、一枚の写真を眺めていることがある。
やはりじいちゃんが好き過ぎて、こっそり撮ったわしの写真を見ているのだろうか。
なんて健気な孫め、と思いつつ写真を見るとそこには同じ高校だと思われる女子生徒と映っている写真だった。
[ほほう、そういうことか。
幸広も年頃じゃからなぁ、彼女がいてもおかしくないわい。]
成長の早さに感慨深さを感じていると幸広が喋りだした。
[桜井弥生はやっぱり可愛いよなぁ、こんな娘が俺の彼女だったらなぁ。
せめて話でもしてみたいなぁ、あ、でももう彼氏いるかも!
はぁぁぁ、可愛いもんなぁ。]
幸広はモジモジしたり落ち込んだりとせわしない。
[なんじゃと!まだ話したこともなく、写真を見るだけとはなんとも情けない。
男は度胸と行動じゃ!
よし!じいちゃんに任せとけ。]
そしてわしは幸広を家に残したまま外に出て桜井弥生を探すことにした。
長年住んでいたから、ある程度の範囲なら熟知している。
確か桜井という名字はそんなに多くないのですぐに見つかった。
[あの娘が弥生ちゃんか、なかなか可愛い娘ではないか!幸広も良いところに目を付けるわい。]
色々と探って調査した結果、どうやら弥生ちゃんはバスで通学しているようだ。
最寄りのバス停は、何と幸広と同じじゃないか。
こんなに近くにチャンスがあったというのに気付かない幸広を情けなく感じてしまう。
[仕方あるまい......よっ!]
グサグサ。
スーッ。
[よし!これで自転車のタイヤはパンクさせたから幸広はバスで行くしかないじゃろ。]
新学期初日、幸広は自転車のタイヤがパンクしていることを残念そうにしながらバス停へと歩いて行った。
そこで幸広は桜井弥生を見かける。
[よし!幸広行くんじゃ!
まずは話しかけるんじゃぞ!]
だが幸広はいっこうに話しかけない。
[何しとるんじゃ、チャンスじゃぞ!]
......。
............。
[あー、もう仕方ないのぉ!]
わしは見かねて桜井弥生のポケットに入っていたスマホを取って地面に優しく置いた。
幸広は気付いて彼女に渡した。
どこかあどけない雰囲気の中2人は話をしている。
[お~、初々しいのぉ、青春じゃのう~。]
良い感じに話をしていたと思ったら、会話が途切れてしばらく沈黙していた。
[幸広はまだ、機転がきかんのぉ。
うーん、これで良いか。]
そこら辺にいた小さめの蜘蛛を優しく捕まえて幸広のおでこに優しく置いた。
[へっ?うわぁぁ!]
幸広がびっくりしている。
[男じゃろ、蜘蛛くらいでそんな変な声出すんじゃないわい。]
また会話が繋がり始めた。
会話に花が咲いているが、気になって仕方ないこととがある。
[いつになったら連絡先を聞くんじゃー!]
[モジモジばっかりしおって。]
[何か良い手はないかのぉ、そうだ!スマホをブーっとすればさすがに気付くじゃろ。]
幸広のポケットに手を突っ込み、スマホを握って激しく揺らしてみた。
かなり小刻みに揺らす必要があるので、それなりのテクニックがいるが、昔から手先は器用な方だったから余裕だ。
幸広はスマホに気付いて連絡先をゲット出来たようだ。
[これでお膳立ては出来たようじゃの。]
ミッション終了である。
学校が終わり、帰宅途中で幸広はコーラを飲みたくなったようだ。
[幸広よ、自販機でコーラを買うには10円足りないぞ。
買えるのはミネラルウォーターだけじゃ。]
幸広はコーラを飲もうとウキウキしているように見える。
[仕方あるまい、全力で探してやるかの。]
先回りして自販機という自販機の下やら、お釣りの取り出し口やらを探し回った結果、10台目の自販機の下に10円玉が落ちていた。
[やっと見つけたわい。]
10円玉を拾って幸広のところに急いで戻り、財布が入っているポケットにこっそりと入れてやった。
幸広はコーラを呑むことが出来た。
とても美味しそうに飲んでいる。
[おー、旨いか!幸広や、良かったのぉ!]
その後もテストの時に少しばかり助けてあげたり、人気のパンを取っておいてあげたり、微力ながら力添えをした。
少し前と違い、幸広も自分に自信が付いてきてるようだ。
[大丈夫!何も心配することはない。
お前にはじいちゃんが付いてるからな。]
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます