第3話 新学期

長かった春休みも終わり、今日から新学期の始まりである。


街の雰囲気もどこか慌ただしさと、新鮮さを感じる。

通学する子供達の声も聞こえてくる。


朝食のトーストとスープを食べて身支度をすませた。


[よし!行くか。]


俺が通う高校は少し離れたところだが、自転車で通っている。


高校生にとっては自転車は車みたいなもんだ。

自転車さえあればどこにでも行けると思っている。


[あれ?

え、えぇー!]


自転車のタイヤがパンクしているではないか。


早速ツイてないなぁと思ったが、じいちゃんの教えの通り前向きに考えることにする。


事前にチェックしといたら良かった。

次からはちゃんとチェックしようと決めた。


[歩いてたら間に合わないからなぁ、バスで行くか。]


歩いて5分くらいのところにバス停がある。

バス停に着くと、そこにはクラスメートの女子がバスを待っていた。


彼女の名前は桜井弥生。

高校1年の時から同じクラスで今期も同じクラスになっていた。


俺は心臓がドキドキした。

俺は彼女のことが好きだった。


彼女とはあまり話したことがなかった......というよりは緊張して話せなかったというのが本音だった。


彼女と話すチャンスなのはわかっているけど、何を話していいのかわからない。


その時、彼女のポケットからスルッとスマホが飛び出し地面に落ちてしまった。


彼女は気付いていないみたいだった。


俺は勇気を出してスマホを取って彼女に渡した。


[桜井さん、おはよう。

スマホ落としたよ。]


桜井さんはびっくりした顔でこちらに向いた。


[幸田君、おはよう。

スマホ落ちてたんだ。

ありがとう、ポケットの奥に入れてたから落ちるとは思わなかったなぁ。]


今度は不思議そうな顔をして話している。


どんな顔してもやっぱり可愛い。


[今日から新学期だね。

今年も幸田君と同じクラスだね、よろしくね。]


くわぁー、今度は笑顔だー!


[うん、こちらこそよろしくね!]


はにかむ程度の笑顔で答えたが、内心はデレデレでふにゃふにゃしている。


[幸田君、今日はバスなんだね。]


[うん、自転車がパンクしちゃっててさ、やっぱり事前にチェックしとけばよかった。]


[そっかぁ、朝から大変だったんだね。]


あー、俺のバカバカ、そんなつまらない話をしてどーする。

ユーモアでも混ぜながら話は出来んのかぁ。

このすっとこどっこい。


何を話せばいいのやら。

少し沈黙が続いた......。


何かおでこの辺りがムズムズする。


暫くして桜井さんが慌てた顔して話しかけてきた。


[幸田君!おでこに蜘蛛がいるよ!]


[へっ?うわぁぁ!]


俺は急いでおでこの蜘蛛を手で払った。

恥ずかしさで顔が真っ赤になってしまった。


[もう!勘弁してくれよー、どうりでおでこがムズムズすると思ったんだ。]


桜井さんはクスクスと笑っていた。


その後、バスがやって来て2人で隣同士の席に座り色々な話をしながら高校に着いた。


入学してから桜井さんとこんなにたくさん話をしたことは初めてだった。


校舎に入る前に俺のスマホが鳴った。

マナーモードにしていたはずだった。


誰からだろう。

着信は確認する前に切れた。


??


そうだ!思いきって桜井さんと連絡先を交換するチャンスなんじゃないか。


[桜井さん、LINEとかやってる?]


[うん、やってるよー。

交換しよっか?]


よっしゃ~!

内心ウキウキだった。


こうして桜井さんと仲良くなる為の第一歩を踏み出したのだった。


放課後、帰ってる途中にどうしてもコーラが飲みたくなった。


確か帰り道に自販機があったはずだ。

少し足早に歩き、自販機の前に着いた。


[あれ?そーいえばいくらあったっけなぁ]


財布の中身を確認すると10円足りない。

いくら数えても10円だけ足りない。


[あと10円足りないのかぁ、ツイてないよなぁ......、じゃなかった。


今度からは出掛ける前にいくらあるか確認するようにしよう。

それに気付けたのは運が良かった。

うんうん、気を付けよう。


おじいちゃんのノートに書いてあった通り出来るだけ前向きに考えるようにしなきゃな。]


取り出した財布をしまおうとポケットに手を入れた時、指先に何か振れるモノがあった。


これは!


10円玉だった。


[やったー、これでコーラが飲める!

飲めないと思ったものが飲めるなんて普通に買って飲むよりも美味しく感じれるなぁ。]


得した気分になった。

ありがたい。


財布からたまたま10円だけ、ポケットの中に落ちてしまったんだろう。


とりあえずラッキーだった。


何でも前向きに考えた方が楽しいし、何よりも自分自身前向きになる。


ありがとう。

じいちゃん。



更に数ヶ月が過ぎた。


以前には気付けなかったちょっとした幸せにも気付けるようになった。


実際にちょっとラッキーなことが起きる回数自体も増えている気がする。


テストで解らなかった時、鉛筆を転がして出た面で適当に書いたら正解だったとか、購買で売っている人気の焼きそばパンが1つだけ残っていて買えたとか。


1番大きな幸せは桜井さんを弥生と名前で呼べるくらい仲良くなれたことだった。


自分の心構えが変わるだけでこんなにも世界が変わるんだと実感している。


じいちゃん、大切なことを教えてくれてありがとう......俺、これからの人生も前向きに頑張って行けそうだよ。

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