第36話 彼女とのキス
そんなことを考えている間に、いつの間にか、辺り一面、真っ白な世界に変貌を遂げていたのだ。
あまりの眩しさに目が眩んでしまいそうになるほどで、何も見えない状態が続く中で、
必死に目を凝らしながら前を向いてみると、前方に人影らしきものが見えた気がした。
急いで近づいてみると、そこには、一人の少女が佇んでいたのである。
その姿は、とても美しく、まるで天使のように神々しく見えた。
そんな彼女を見た瞬間、なぜか懐かしい気持ちになるとともに、
心の奥底から込み上げる感情を抑えることができずにいた。
次の瞬間、無意識のうちに涙を流してしまっていたことに気づいた時には、自分でも驚いてしまったほどだった。
そうすると、少女は微笑みながら手を差し伸べてきて、こう告げたのである。
「ようこそ、お越しくださいました」
そう言いながら、優しく語りかけてくる姿に、ますます胸が熱くなるのを感じた。
そこで、ハッとしたように我に返ると、冷静さを取り戻すために深呼吸を繰り返し、心を落ち着かせようとした。
そして、改めて、今の状況を把握するために、周囲に目を向けてみたところ、
そこは、何もない空間が広がっているだけで、他には何もなかった。
いや、正確には、目の前に一人の女性が立っているのが見えたため、
その場所だけが特別な場所だということを理解することが出来たわけなのだが、
それにしても、なぜ、このような事態に陥っているのか理解できなかったため、
困惑した表情を浮かべながら立ち尽くすことしか出来なかった。
その様子を見たのか、目の前の人物が声をかけてきたのである。
それを聞いて、思わずドキッとした。
何故なら、自分の正体を知っている可能性があると思ったからだ。
もしも、そうだとしたら、一刻も早くこの場を離れなければならないと思った。
理由は単純明快だ。
下手に関わってしまえば、面倒な事になる可能性が高いからである。
幸い、今の時点では、それほど警戒されている様子はなかった。
となれば、このまま、何食わぬ顔で立ち去れば、
何とかなるはずだろうと思ったこっちは、すぐさま踵を返すことにした。
ところが、その直後、予想外なことが起きた。
なんと、呼び止められてしまったのだ。
これには、正直言って、かなり焦った。
なんせ、状況が状況だけに、嫌な予感しか感じなかったからだ。
恐る恐る振り返ってみると、そこには、こちらをじっと見つめている女性の姿があった。
その表情からは、何を考えているのか読み取ることができないため、
余計に不安を掻き立てられることとなった。
できることなら、これ以上関わり合いになりたくないという気持ちが強かったものの、
流石に、そういうわけにもいかないと判断した結果、渋々ながら話を聞くことになったというわけである。
まず最初に気になったのは、彼女の格好にあった。
なぜなら、どこからどう見ても、見慣れない服装だったからだ。
それも、単に珍しいというだけではなく、
見たこともないような模様が施された服だったこともあり、余計に興味を引く結果となった。
更に、よく見ると、腕の部分が大きく露出しており、袖がないだけでなく、
丈の長さも膝上くらいまでしかない上に、裾の部分もかなり短いものとなっているため、
脚線美を強調するような構造になっていたのである。
そのせいで、どうしても視線が釘付けになってしまうわけだが、
当の本人は全く気にしていない様子で、平然と振る舞っていたため、
逆に恥ずかしくなり、慌てて視線を逸らす羽目になったというわけです。
その後も、チラチラと見たり、逸らしたりと繰り返すうち、
だんだん変な気分になってきたような気がしてきたので、
一度、気持ちを落ち着けるために深呼吸を繰り返すことにした。
そうすると、それに合わせるかのように、彼女も同じように息を大きく吸い込んだかと思うと、
ゆっくりと吐き出していったのである。
その様子を見ていたら、何だかおかしくなってきてしまって、つい笑ってしまった。
彼女も釣られたのか、同じように笑い始めたのである。
こうして、しばらくの間、二人で笑い合っていたのだが、
おかげで、さっきまで感じていた緊張はすっかり解れていたようだ。
そのことに感謝しつつ、改めて、彼女と向き合うことに決めたのである。
その後は、お互い自己紹介をして、軽く雑談を交わした後、
その場を後にしたわけだが、その時に交わした会話の内容を思い出す限り、
彼女は、ごく普通の人間であったように思う。
少なくとも、特殊な力を持っていたり、怪しげな術を使っていたりした様子はないように思える。
ただ一つ気になることといえば、時折見せる仕草や態度などに、
どことなく違和感があるというか、妙に引っかかるものがあるということだ。
一見すると、どこにでもあるような普通の女の子に見えるけど、実は、何かがおかしいのかもしれない。
そんなことを考えながら、帰路につくことになったのである。
そんなある日、いつものように図書館に足を運ぶと、見慣れた後ろ姿が目に入った。
近寄って声をかけようとする前に、先に気付かれてしまい、振り返った彼女の顔を見ると、
少しだけ驚きつつも嬉しそうな表情をしていたように見えた。
その姿を見た瞬間、胸の奥底から熱いものが込み上げてきたような気がしたが、
それを悟られないように平静を装って挨拶をした。
お互いに近況報告をしながら談笑していると、あっという間に時間が過ぎていき、気づけば閉館時間となっていた。
そろそろ帰ろうかと席を立とうとしていると、ふいに腕を掴まれ、引き止められてしまった。
何事かと思って相手の顔を見ると、頬を赤らめ、潤んだ瞳で見つめ返された瞬間、
心臓の音が激しく高鳴り始めると同時に、顔が熱くなっていくのを感じた。
そのまま無言のまま見つめ合っているうちに、どちらからともなく顔を近づけていき、
唇が触れ合った瞬間にはもう戻れないほどの深みへと嵌まり込んでいた。
「んんっ……ちゅっ、れろぉ、んむぅっ……」
舌を絡ませ合う濃厚な口づけを交わし続けるうちに、頭の中が真っ白に
なっていく感覚に酔いしれながら、ただひたすら快感に溺れ続けたのだった。
そして、しばらくして唇を離す頃には、完全に蕩けきった表情になってしまっていたことだろう。
「もっとキスしたいでしょ?」
「はい、お願いしましゅぅ」
理性を失いかけた頭で、呂律すら回らない状態で答える姿を見て、
クスリと笑みをこぼしたあと、さらに深い口付けを交わすと共に、
彼女の頭を抱き寄せ、胸を押しつけるように密着させていく。
柔らかい感触に包まれた途端に、興奮度MAXで鼻息荒く貪っていく彼女だったが、
不意に訪れた鋭い痛みに悲鳴を上げていた。
それは、甘噛みではなく、明らかに歯を立てられる行為だったのだ。
痛みによって正気に戻った彼女は、自らの置かれた状況を把握しようと試みるが、
未だに混乱したままの頭では、まともに考えることができない状態だった。
(いったい何が起こったの)
そう思いつつも、目の前で起こっている現実を受け入れざるを得ず、愕然とするしかなかったのである。
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