第35話 どうしてこんな所に?
もしかして、こちらの意図を読み取ってくれているのだろうかとも思ったが、
いくらなんでもそんなことがあるはずはないと考え直し、改めて質問を投げかけることにした。
そうすると、ようやく意味を理解してくれたらしく、ゆっくりと口を開いてくれた。
どうやら、こちらが喋っている言語と、彼女が話している言語とは、同じものらしいことがわかった。
ただ、互いに異なる概念を持つため、それを上手く翻訳するのが難しいのだという。
そこで、試しに、こちらから簡単な単語を口にしてみたところ、
ある程度、理解してくれたようであった。
これなら、なんとかなるかもしれないと思い、早速、本題について尋ねてみたところ、
驚くべき事実が発覚したのである。
なんと、彼女たちの世界では、様々な種族が存在していて、
その中には、魔族も含まれているというのだ。
特に、魔族には、人族とは異なる特徴を持っていることが多いらしく、
見た目だけでは区別がつかないことも多いらしい。
実際、目の前にいる少女もまた、普通の人間とは違う部分がいくつか見受けられたため、納得がいった。
もっとも、そのことを言葉に出して伝えるつもりはないが、心の中では、密かに感心していた。
それから、お互いの世界についての情報交換を行う中で、いくつかの共通点を見つけ出した。
例えば、この世界における一般的な常識として知られているものが、
彼女たちの世界にも存在する場合があるということだった。
特に、貨幣価値に関しては、ほぼ同じだと言えよう。
他にも、文化の違いはあるものの、基本的な部分は似通っているように思えた。
とはいえ、細かい部分は違っているところもあるため、全てを鵜呑みにすることはできなかったが、
それでも、かなり有益な情報を得ることができたと言えるだろう。
中でも、一番興味深かったのは、彼女達の世界で流行っている遊びについて教えてもらった時のことだ。
なんでも、この世界で言うところの魔法に相当する能力を応用したものらしく、
誰もが簡単に楽しむことができるのだという。
具体的には、頭の中に思い描いたものを具現化させるといった感じらしく、
その際に、想像力を働かせることで、よりリアルなイメージを作り出すことが重要になるらしい。
実際に見せてもらうこともできたのだが、生憎、やり方を
教えてもらえなかったため、仕方なく断念することにした。
その代わりと言っては何だが、他に、役立ちそうな情報は
ないか尋ねてみたところ、意外な答えが返ってきたのである。
どうも、この世界には、彼女たちの世界でいうところの魔法が存在しているらしく、
それに似た力を自在に操れるようになる方法があるというのだ。
ただし、その為には、かなりの修行が必要となるらしく、
生半可な覚悟では到底習得できないだろうと釘を刺されてしまった。
とは言え、諦めるつもりは無いため、どうにか頑張ってみようと思っているところだ。
そうして、話し込んでいるうちに、すっかり日が暮れてしまった為、
今日のところは一旦引き上げることにして、帰ることにした。
その際、せっかくなので、帰り道が同じ方向だからという理由で、
途中まで一緒に行動することとなったのだが、途中で偶然、
彼女と同じ髪色をした青年の姿が目に入り、心臓が止まりそうになったほど驚いたものだ。
何故、こんなところに居るのかと疑問を抱いたものの、
向こうは気づいていない様子だったため、ホッと胸を撫で下ろしたものである。
その後も、何事もなく目的地に到着したものの、別れ際に、
名前を聞かれた時は、一瞬、返答に窮してしまったほどだ。
何故なら、彼女に名乗ることができなかったからである。
いや、正確に言えば、できなかったのではなく、しなかったというのが正しい表現かもしれない。
仮に、ここで本名を名乗るとするならば、色々と面倒なことになることを避けたかったからだ。
もちろん、偽名を使うことも可能ではあったが、それはそれでリスクを伴うことになる上、
下手をすれば、余計な誤解を招く恐れがあったため、敢えて避けることにした。
その結果、苦肉の策として、咄嗟に思いついた名前を口にすることにしたのである。
それが、現在の自分の名前であり、元々は、別の国の言葉で、"龍"を意味する語句なのだそうだ。
なんとも仰々しい名前だが、これが案外、 気に入ってたりするもので、
いつしか、自然と口に出して言えるようになっていた。
その後、無事に帰宅することができたのだが、何故か、
その日を境に、日常生活を送る上で、些細な違和感を抱くようになった。
というのも、ある特定の場面で、不意に、妙な既視感に襲われることがあったり、
以前、耳にしたことがあるような台詞を耳にしたりすることが多くなった気がするのである。
最初は、ただの偶然だと思っていたのだが、次第に、その頻度が増していくにつれて、
少しずつではあるが、疑念を抱くようになっていった。
もしかしたら、無意識のうちに、前世の知識や経験を、
記憶の片隅に残してしまっているのではないかと考えたりもした。
しかし、だからといって、今更、どうしようもないとも思っていた為、
それ以上深く考えることはしなかった。
しかし、最近になって、新たな悩み事ができたことにより、
再び思考を巡らせる機会が増えていった。
というのも、最近では、日常生活の中で、何気ない出来事に対して、
違和感を覚えることが頻繁に起こるようになってしまったからだ。
初めは、気のせいかと思っていたのだが、日を追うごとに、
その感覚が強くなっていき、ついには、無視できないレベルにまで達していた。
具体的に言うと、自分以外の誰かの記憶が、脳内に流れ込んでくるような感覚に陥るのである。
しかも、その相手は、決まって同じ人物であり、その人物の名前こそ分からないものの、
自分にとって、非常に近しい存在であることは間違いなかった。
そのため、その人物の記憶を垣間見ることができる機会が増えたことで、
その人の性格や考え方などが、徐々に理解できるようになっていったのである。
そこで、ふと、ある考えが頭を過ぎった。
もしかすると、これは、転生する際に与えられた特殊能力のようなものではないかと、
つまり、その人物の経験や知識を共有する能力を得たのではないかと思ったのだ。
ただし、あくまでも推測に過ぎないため、確信に至ることはなかった。
結局、それ以上、深く考えることはせず、しばらく放置しておくことにした。
まあ、そのうち、分かる時が来るだろうという考えもあってのことだったのだが、
果たして、それが正しかったのかどうかについては、今でもよく分かっていない。
とりあえず、今は、目の前の状況を乗り切ることだけに集中しようと思った矢先、突然、声が響いてきた。
その声は、どこかで聞いたことがあるような気がするものの、はっきりと思い出せないものであった。
声の正体を確かめようとしたが、その前に、再び声が聞こえてきたので、慌てて意識を集中し始めた。
そうすると、今度は、さっきよりも鮮明に聞こえてくるようになり、
やがて、しっかりと聞き取れるまでになったところで、
もう一度、周囲を確認してみたところ、やはり、誰もいないことが分かっただけだった。
しかし、それと同時に、先ほどの声は、やはり、幻聴などではなかったということにも気付かされた。
そう確信した途端、一気に緊張感が高まり、全身から冷や汗が流れ落ちる感覚に襲われた。
だが、その一方で、不思議にも思うこともあった。
どうして、こんな場所にいるのだろうか?
そもそも、どうやってここまで来たのかも覚えていない状態で、
一体どうやって、ここまで辿り着けたのかさえも分からなかったのだ。
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