第30話 此処は何処?
恐る恐る中に入ると、埃っぽい臭いが漂ってきて、
思わず咳き込んでしまいました。
一階には、いくつかの部屋があり、それぞれ見回ってみたのですが、
特に変わった物はありませんでした。
二階への階段を上がると、そこには無数の本棚が立ち並ぶ部屋がありました。
どの棚にもぎっしりと本が詰め込まれており、
タイトルを見てもよく分からないものばかりでした。
一通り見て回った後、一度休憩しようと思い、近くにあった椅子に腰掛け、一息つくことにしました。
ふぅ、疲れたなぁ。
そうすると、隣に座っていた彼女が話しかけてきました。
「あの、すみません、少し聞いてもよろしいですか?」
何だろうと思って振り向くと、突然手を握られてしまいました。
驚いていると、彼女は頬を赤らめながら、こんなことを言い出したのです。
「えっと、もし良かったら、私とお付き合いしてください!」
「えっ、ど、どういうことですか!?」
わけがわからず戸惑っていると、今度は泣きそうな顔になりながら、訴えかけられました。
どうしよう、困ったことになりました。
でも、さすがにこの場で断るのも可哀想だし、
ちょっとなら付き合ってあげましょうかしら? などと考えながら、
しばらく沈黙が続くのでした。
「じゃあ、一緒に行きませんか」
そう言うと、彼女はにっこりと微笑み、私の手を引っ張ってきました。
「さあ、行きましょうか」
そう言いながら、どんどん先に進んで行きます。
正直、あまり乗り気ではないのですが、
ここまで来てしまった以上、引き返すわけにもいきません。
仕方ない、腹を括りますか。
そう思い、覚悟を決めたその時、前方から声が聞こえてきたのです。
よく見ると、そこにいたのは、一匹の大きな狼でした。
しかも、かなり大きい上に、鋭い牙が生え揃っていて、
見るからに凶暴そうな見た目をしていました。
そんな化け物を前にして、恐怖心を抱かずにはいられないはずなのに、
なぜか不思議と落ち着いていました。
「大丈夫ですよ、私が守りますから」
そう言いながら、私を庇うように前に出ると、
腰に差していた細身の剣を抜き放ち、身構えました。
その姿は凛々しく、頼もしく見えました。
その瞬間、私の心は完全に奪われてしまい、同時に確信しました。
この人と一緒なら、どんなことがあっても乗り越えられるはずだ、と。
だから、私も全力でサポートしよう、そう思いながら、杖を構え直しました。
そして、戦闘開始の合図と同時に、一斉に動き出しました。
敵は一体だけ、こちらは二人、数的有利はあるものの、油断はできない状況です。
まずは相手の動きを見極めて、弱点を探る必要があります。
そう思って観察していると、相手がこちらに向かって突進してくる姿が見えました。
咄嗟に防御魔法を唱え、敵の攻撃に備えようとしましたが、
その前に、 隣から放たれた矢によって、敵の勢いが弱まり、
なんとか攻撃を防ぎ切ることに成功しました。
よし、今だ! そう思った私は、一気に間合いを詰め、
持っていた杖の先端部分を思いっきり叩き付けました。
そうすると、バキッという音とともに、先端部分が砕け、
中から大きな宝石のようなものが露出しました。
それを見た敵が怯んだ隙を突き、追撃を加えようと試みましたが、
逆に反撃されてしまい、勢いよく壁に叩きつけられてしまいました。
痛みに悶えつつも、必死に立ち上がろうとするも、
力が入らず、立ち上がることすらできませんでした。
このままではまずい、どうにかしないと、と思っている間に、敵はこちらに迫って来ました。
ああ、もうダメかも……諦めかけた、その時、 目の前に現れた人影を見て、目を疑いました。
「大丈夫ですか、怪我はありませんか?」
と言いながら、手を差し伸べてきたその人こそ、まさに救世主と呼ぶに相応しい存在でした。
彼は、私を助け起こしながら、安心させるように微笑んでくれました。
彼の名は、リュートといいます。
このギルドに所属する冒険者の一人であり、腕利きの剣士として有名です。
そんな彼に憧れを抱く者も多く、かくいう私もそのうちの一人だったりします。
ちなみに、先ほど助け起こしてくれたのは、同じパーティーメンバーの女性、メルルちゃんです。
小柄で可愛らしい外見とは裏腹に、性格はかなり男勝りというか、
豪快な性格の持ち主で、いつも周りを巻き込むトラブルメーカー的な役割を担っています。
まぁ、そこが憎めないところでもあるんです。
ともあれ、二人が来てくれたおかげで、危機を脱することができたわけですが、
まだまだ安心することはできません。
なぜなら、未だに状況は変わっていないからです。
むしろ、悪化していると言えるでしょう。
何故なら、相手は明らかに格上の存在であり、
まともに戦って勝てる相手ではないからです。
ならば、ここは逃げるしかないと判断した私は、すぐに撤退命令を出し、即座に行動に移りました。
幸い、出口までは遠くなく、無事に逃げ切ることができました。
ホッと胸を撫で下ろしつつ、後ろを振り返ると、 追ってきている様子はなく、ひとまず安心しました。
とはいえ、いつ襲ってくるか分からないため、警戒を怠らず、慎重に進み続けなければなりません。
そんな中、ふとあることを思いついて、隣にいる彼に聞いてみました。
彼も同じことを考えていたらしく、お互いに顔を見合わせ、頷き合っていました。
そして、意を決して、目の前の扉を開くことにしたのです。
中に入ってみると、そこは書斎のような場所で、壁一面に本が並んでいる光景に目を奪われました。
おそらく、ここの主だった人の趣味だったのだろうと思われます。
それにしても、これだけたくさんの本をどうやって集めたのでしょうか?
気になるところですが、今はそれどころではありません。
早くここから抜け出さないと、また襲われかねませんから。
ということで、急いで部屋を出ようとした、その時、足元にあった何かに躓いてしまい、転んでしまったのです。
一体何があったのだろうと思いつつ、顔を上げると、そこにあったものは、一冊の日記のようなものでした。
表紙には、"○月×日"と書かれていることから、今日書かれたものであることは間違いありません。
興味本位で手に取って読んでみることにしました。
内容は、至って普通なもので、日常の出来事などが綴られているだけでしたが、
最後の方に差し掛かったところで、とんでもないものを見つけてしまったのです。
なんと、そこには、自分の生い立ちについて書かれていたのです。
その内容によると、この家の主は、元々貴族の家系に生まれた人間だったのだとか。
しかし、ある時、両親を亡くし、路頭に迷うことになってしまったようです。
そんな折、とある男性と出会い、恋に落ち、結婚することになったという話でした。
そこまで読んだところで、ページが終わりを迎え、次のページからは白紙になっていました。
結局、それ以上の情報は得られず、仕方なく、その場を後にすることにしました。
次にやって来た場所は、寝室らしき部屋でした。
部屋の中心には大きな天蓋付きベッドが置かれており、その上に誰かが横たわっているようでした。
近づいてみると、そこには美しい女性が眠っていました。
年齢は20代前半くらいで、顔立ちは非常に整っており、肌の色は透き通るように白く、
髪は銀色に近い金髪で、腰まで届くほどの長さがありました。
さらに、特徴的な点としては、耳が尖っているという点が挙げられるでしょう。
エルフ族の特徴を持つ女性なのです。
そんな彼女の姿を目の当たりにして、思わず見惚れてしまいました。
「あら、お客さんかしら?」
そう言って、目を開けた女性は、こちらを認識すると、驚いたような表情を見せました。
それも無理のないことです、見知らぬ人間が部屋に侵入してきたのですから、
警戒するのも当然の反応と言えるでしょう。
とりあえず、事情を説明しようとしたところ、後ろから肩を叩かれ、
振り返ると、そこにはもう一人の人物の姿がありました。
それは、先程助けてくれた青年、リュート君です。
彼が言うには、この部屋の奥に隠し通路があって、
そこから脱出できる可能性があるということらしいのです。
半信半疑ではありましたが、他に選択肢がない以上、信じるしかありません。
そのため、私達は一丸となって、奥の部屋に向かうことにしました。
そして、ついに見つけたのです、隠し通路の入り口と思われる扉が。
これで助かった、と思った矢先、突如として、背後から何者かに襲われ、意識を失ってしまったのです。
「うぅ……」
目が覚めると、そこは薄暗い地下室のような場所でした。
手足は鎖で繋がれていて身動きが取れず、口枷のせいで声も出せません。
唯一自由に動かせるのは首だけです。
周囲を見渡すと、他にも何人か人が倒れていることに気づきました。
その中には、先程の少年、リュート君も含まれています。
慌てて駆け寄ろうとしましたが、拘束されているせいで動くことができません。
どうしようかと考えているうちに、足音が近づいてきて、部屋の扉が開かれました。
入ってきたのは、一人の男性でした。
年齢は30代半ばくらいでしょうか、整った容姿をしており、
一見優しそうな雰囲気を纏っているように見えるのですが、
その瞳の奥に潜む狂気じみた光が見え隠れしています。
男は、私達の様子を確認するなり、ニヤリと笑みを浮かべ、ゆっくりと近付いてきました。
逃げようともがいてみたものの、やはり無駄でした。
あっという間に捕まってしまい、床に押し倒されてしまいました。抵抗できないよう、しっかりと押さえつけられた状態で、男が口を開きました。
その男は、自らを魔王と名乗ったのです。
最初は冗談かと思ったのですが、どうやら本気のようでした。
その証拠に、彼の手には禍々しい魔力を帯びた剣が握られていたのです。
あれに斬られたら間違いなく死ぬだろうということは容易に想像できます。
それだけは絶対に避けなければならない事態だと理解しました。
どうにかしてこの状況を打開しなければ、命はないと考えた方がいいかもしれません。
しかし、どうすれば良いのか全く分かりませんでした。
途方に暮れていると、いつの間にか背後に回り込んでいた別の男に羽交締めにされて、動きを封じられてしまいました。
そのまま地面に組み伏せられ、完全に動けなくなってしまいます。
絶体絶命の危機的状況に立たされた、その時、再びあの男の声が響き渡りました。
その声は、まるで脳内に直接語りかけてくるかのように、
直接耳に届いてくるような感覚を覚えました。
その声に耳を傾けているうちに、次第に意識が遠のいていく感覚に陥り、
やがて気を失ってしまいました。
目を覚ますと、そこはベッドの上だったので、一瞬混乱しそうになりましたが、
すぐに状況を把握することができました。
どうやら、夢を見ていただけだったみたいです。
安堵すると同時に、先程まで見ていたものが現実ではなかったことを悟りました。
あれは、ただの悪夢に過ぎなかったのだと自分に言い聞かせ、
気持ちを切り替えようとするものの、なかなか上手くいきません。
それほどまでに、リアルな体験だったのでしょう。
とにかく、いつまでも落ち込んでいても仕方がありません。
気持ちを切り替え、これからどうするかを考えることにしました。
まず第一に考えるべきなのは、ここがどこなのかということです。
辺りを見渡してみると、どこかの建物の中だということだけは分かりました。
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