第29話 私とハルカ①

手応えありと思った次の瞬間、突如全身に激痛が走り、 口から大量の血を吐き出して倒れ込んでしまいました。

どうやら内臓を傷つけられてしまったようです。

あまりの苦しさに悶絶していると、 今度は後ろから強い衝撃を受け、吹き飛ばされてしまいました。

どうやら尻尾で攻撃されたみたいです。

幸い骨などは折れていないようでしたが、全身打撲に加え、肋骨にヒビが入ったかもしれません。

痛みに耐えながら立ち上がろうとすると、今度は横から衝撃が襲ってきました。

見ると、いつの間にか接近していたドラゴンが爪を振りかざしているのが目に入りました。

咄嵯に身をかわしたものの、避けきれず、肩のあたりを切り裂かれてしまいました。

傷口からはドクドクと血が流れ出しています。

このままだと長くは持ちそうにありません。

早く決着をつけなければ命に関わるでしょう。

とはいえ、今の私に何ができるでしょうか?

考えを巡らせていると、ある考えが浮かびました。

それは、自分の中に眠る魔力を解放し、その力を利用することです。

以前読んだ本の中にそのような記述があったことを思い出したのです。

半信半疑ではありましたが、他に方法がない以上、試してみるしかありません。

深呼吸をして気持ちを落ち着けてから、目を閉じて意識を集中します。

そうすると、胸の奥底から熱いものが込み上げてくるような感覚を覚えました。

これが魔力なのでしょうか?

さらに深く集中すると、全身を駆け巡るように流れ始めたのを感じました。

今ならいけると確信し、その場で立ち上がって構えを取ります。

そして、思い切り地面を蹴って駆け出し、跳躍します。

高く舞い上がった後、落下しながら剣を振り下ろす動作をすると、

刀身に炎が纏わり付き、巨大な火の鳥のような形を形成しました。

そして、そのままドラゴンに向かって突っ込んでいきます。

凄まじい速度で接近してきた私に驚いたのか、

慌てて迎撃態勢を取ろうとするドラゴンの動きよりも早く、炎を纏った一撃を叩き込みます。

ズドンッと鈍い音を立てて胴体に大きな風穴を開けられたドラゴンはそのまま倒れて動かなくなりました。

やった……!

そう思った直後、全身の力が抜けていき、その場に崩れ落ちてしまいました。

どうやら体力の限界が来たようです。

薄れゆく意識の中で、誰かに抱き起こされたような気がしましたが、

確認する間もなく、目の前が真っ暗になってしまいました。

目を覚ますと、そこはベッドの上のようでした。

辺りを見回すと、見覚えのある部屋だったので、恐らく宿屋か何かの部屋なのだろうと思います。

しかし、なぜこんなところにいるのか、全く思い出せません。

確か、狩りに行こうとしていたはずなのですが、何故こんなことになったのでしょう?

疑問ばかりが浮かんできます。

とりあえず、状況を把握するためにも外に出てみようと思い、

身体を起こそうとした時、ふと胸元に目をやると、二つの膨らみがあることに気がつきました。

何が起きたのか分からず混乱していると、部屋の扉が開かれ、一人の人物が姿を現しました。

その人物を見た瞬間、心臓が大きく跳ね上がり、身体中に熱が広がり、鼓動が激しくなるのを感じました。

目の前にいる人物、それは紛れもなく私自身でした。

彼女は微笑みながら近づいてきて、優しく抱きしめてくれました。

彼女の温もりを感じながら、私は心の中で呟きました。

やっと見つけた、と。

「ただいま、戻りました、ご主人様」

そう言って、私は彼女に口付けをしました。

その後、私は彼女にこれまでの経緯を説明しました。

彼女がいなくなってからの日々、彼女を探して各地を転々としていたこと、

そして、つい先日、この街に辿り着いたことなど、全てを話しました。

その間、彼女は静かに聞いてくれていました。

時折、相槌を打ちながら、真剣に聞いてくれている様子を見て、

改めて彼女が本当に戻ってきたのだと実感することができました。

やがて話し終える頃には、二人とも涙ぐんでいました。

そんな私たちの姿を見て、彼女もまた涙を浮かべていました。

これからはずっと一緒だと誓い合い、私たちは再び唇を重ね合わせました。

そして、そのままベッドへと倒れ込むようにして横になります。

互いの存在を確かめ合うかのように何度も名前を呼び合い、愛し合いました。

その度に幸せを感じることができ、心が満たされていくのを感じました。

もう、離れることがないように、決して離れないように、

強く抱きしめ合いながら、深い眠りに落ちていったのです。

翌朝、目が覚めると隣に素肌の彼女が眠っている姿が目に入りました。

昨夜の出来事を思い出し、自然と頬が緩んでしまいます。

しばらくの間、彼女の寝顔を眺めていると、ゆっくりと瞼を開き、目を覚ましました。

まだ眠そうな目でこちらを見てくる姿はとても可愛らしく、愛おしさを感じずにはいられませんでした。

おはよう、と声をかけると、彼女も返事をしてくれます。

それだけで幸せな気持ちになれるのですから不思議なものです。

その後も、他愛もない会話を続けながら、幸せな時間を過ごしました。

そして、そろそろ出発しようかと思ったところで、ふと思うことがあり、彼女に尋ねます。

あなたはこれからどうするつもりなのか、と。

そうすると、彼女は一瞬考えた様子を見せた後、こう答えました。

自分はもうどこにも行かない、あなたのそばに居続けるつもりだ、と。

その言葉に胸が熱くなるのを感じ、彼女をそっと抱き寄せます。

そして、どちらからともなく唇を交わし、舌を絡め合いました。

いつまでも、こうしていたいという気持ちに駆られながらも、

名残惜しくも一旦離れ、身支度を整えます。

荷物をまとめ、忘れ物がないか確認をしている最中、ふと背後から視線を感じ、

振り返ると、彼女がじっとこちらを見つめていました。

どうかしたのかと聞くと、彼女は首を振り、なんでもないと答えるのみでした。

その様子が少し気にかかったものの、特に気にせず部屋を出ることにしました。

外に出ると、心地よい風が頬を撫で、小鳥たちのさえずりが聞こえてきます。

天気も良く、絶好の旅日和といったところでしょうか。

さて、まずはどこへ向かおうかと思案していると、ふいに袖を引っ張られたので

そちらに目を向けると、彼女が地図を広げていました。

どうやら行きたい場所があるらしいので、その場所を教えてもらうことにしました。

そうして向かった先は、小さな村にある雑貨屋さんでした。

店内に入ると、所狭しと様々な商品が並んでおり、見ているだけでも楽しめそうでした。

中でも気になったのは、可愛らしい小物が並べられているコーナーです。

その中でも一際目を引いたのは、色とりどりの花で作られた髪飾りでした。

とても綺麗で、まるで花束のように見えます。

値段を確認すると、意外と手頃な価格だったので、迷わず購入することに決めました。

会計を済ませ、店を出ると、早速着けてみることにしました。

鏡を見ながら位置を調整し、ちょうど良い位置に収まったところで、タイミングよく彼女が現れました。

彼女は私の姿を目にするや否や、嬉しそうな表情を浮かべ、

駆け寄ってきたかと思うと、いきなり抱きついてきたのです。

危うくバランスを崩しそうになったものの、何とか踏みとどまりました。

どうしたのかと尋ねてみると、彼女は満面の笑みを浮かべながら、こう答えました。

あなたが好きすぎてたまらない、と。

そんな彼女に対して、私は優しく微笑みかけ、頭を撫でながらこう告げました。

私も好きだよ、と。

その言葉を聞いた途端、彼女の顔はさらに赤く染まり、耳まで真っ赤になる程でした。

そんな様子もまた可愛らしく、ますます愛おしく思えました。

それからというもの、彼女と過ごす時間がより一層楽しく感じられるようになりました。

共に笑い、泣き、時には喧嘩をしたりしながらも、それでも互いを求め合う気持ちは変わりません。

これからもずっと、二人で歩んでいこうと思います。

ある日のこと、いつものように冒険者ギルドへ向かう途中、ふと思い立ち、寄り道をすることにしました。

向かった先は、町外れにある小さな公園です。

ベンチに腰掛け、空を見上げると、雲一つない青空が広がっていました。

穏やかな風に吹かれながら、ぼんやりと景色を眺めていると、不意に声をかけられました。

振り向くと、そこには一人の少女が立っていました。

年齢は10代後半くらいでしょうか、長い黒髪が特徴的で、どこか儚げな印象を受けます。

服装は、白いワンピース姿で、手にはバスケットを持っていました。

彼女は、こちらをじっと見つめたまま、動こうとしません。

不思議に思いながら見つめていると、不意に口を開いてこう言いました。

こんにちは、あなたも冒険者さんですか?

そう聞かれた瞬間、驚きのあまり言葉を失ってしまいました。

まさか自分が冒険者であると見抜かれるとは思わなかったからです。

しかし、ここで嘘をついても仕方がないと思い、正直に答えることにしました。

はい、そうですけど、何か御用ですか? と尋ねると、彼女は笑顔を浮かべ、こう言ったのです。

よかった、実は道に迷ってしまって困っているんです。

よろしければ、案内していただけませんか?

そう言われて、断る理由もありません。

なので、喜んで引き受けることにしました。

どこに行きたいんですか? と尋ねると、彼女は困ったような表情を浮かべ、

何も覚えていないんです、と答えるではありませんか。

これは困ったことになったと思いながら、どうしたものかと考え込んでいると、ふとあることを思い出しました。

そういえば、最近、この町の近くにダンジョンができたという噂を耳にしたことがあります。

もしかしたら、そこに行けば何か手掛かりがあるかもしれないと思い、

彼女にそのことを話すと、目を輝かせて、是非行ってみたいと言うではありませんか。

こうして、私は彼女と共に、そのダンジョンへと向かうことになりました。

道中、色々と話を聞かせてもらいました。

名前は、ハルカと言い、年齢は17歳で、今は一人で暮らしているとのことでした。

家族はいないらしく、一人ぼっちだそうです。

ただ、寂しいとは思っていないらしく、むしろ楽しいことが多いのだと言います。

例えば、どんな時かというと、美味しいご飯を食べた時や、

綺麗な景色を見た時、友達と一緒に遊んだ時など、様々な場面で感じることができるのだそうです。

それを聞いて、私は少しだけほっとしました。

というのも、彼女の雰囲気があまりにも悲壮感に満ちていたため、何かあったのではないかと心配していたからです。

しかし、今の話を聞く限り、特に問題なさそうです。

それどころか、むしろ元気すぎるくらいです。

まあ、それはそれで良いことだと思うのですが、なんだか複雑な気分になってしまいますね。

そんなこんなで、雑談をしながら歩いているうちに、目的の場所に辿り着きました。

そこは、古びた洋館のような建物で、いかにもな雰囲気を漂わせています。

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